【ブックレビュー】『大学入試改革は高校生の学習行動を変えるか』
山村滋・濱中淳子・立脇洋介『大学入試改革は高校生の学習行動を変えるか 首都圏10校のパネル調査による実証分析』ミネルヴァ書房、2019年
概要
「高大接続改革」の名のもとに高校教育・大学教育・大学入試の一体的な改革が進められ、大学入学共通テスト導入をはじめとして大学入試にも大きな変化があった。この改革の背景の一つにAO入試などの学力不問入試が高校生の「学習離れ」が進んだという認識があり、大学入試を変えることで高校生の学習行動を変化させる「逆流効果」が期待されていた。
ところが、高大接続改革の着手・実行段階において、大学入試が高校生の学習行動に与える影響を実証的に分析した研究はない。そこで著者らは、首都圏10校を対象にパネルデータ(複数の生徒を継続的に観察したデータセット)を用いて大学入試が学習行動に及ぼす影響を分析した。
分析方法
高1から高3にかけて(2012年度~2014年度)、進学校と進学中堅校において5回の質問紙調査を実施し、学習時間増減を被説明変数とする重回帰分析を行った(説明変数については裏面参照)。学習時間は普段と試験前を区別した。また、並行してインタビュー調査も実施し、結果の解釈に役立てた。
結論
l 「AO入試志向」は全体的に学習時間に負の影響を与える
l 「指定校推薦志向」は学習時間に正の影響を与えるが、進学中堅校においてはその効果は試験前にしか表れない
↑定期テストは、難易度が低い(一夜漬けで対応可能)だと普段の学習の誘因にならない
l 以上より、(特に進学中堅校においては)大学入試が学習行動に与える影響は限定的
l 普段の学習時間に一貫して有意な影響を与えるのは「学習の場」(私的な勉強会など)の有無
l 部活動は学習時間に負の影響を与え、そのマイナスは試験期間や引退後にカバーされない
↑一方で、部活動が「学習の場」を提供する例もある
l 「勉強時間を多くとるように」といった教員の指導は普段の学習時間に影響しない
l 以上より、普段の学習時間を増やす上で重要なのは「学習の場」
↑入試形式の多様化は、「学習の場」の形成を阻害する可能性がある
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