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中華SFアンソロ『時のきざはし』より 陸秋槎『ハインリヒ・バナールの文学的肖像』/陳楸帆『勝利のV』

■陳楸帆『勝利のV』

 頁をめくって、はじめに目に入る一文がこれです。

第三十四回オリンピック競技会は、人類史上初めての仮想現実(ヴァーチャルリアリティー)空間で開催されるオリンピックである。

 この一文を読んだとき「すごい設定だー!」とニコニコ顔で言っていました。ワクワクしませんか?もしオリンピックが仮想現実で行われるなんてことになったらどうなるんだろうと。

 一方で、あまりいい思いをしない考えを持つ人だっているでしょう。肉体を離れて仮想の現実で行われる競技なんてけしからんと。『勝利のV』はそんな良く思わない側から見たヴァーチャルな五輪の話です。決して明るい話ではないのですが、読んでいてワクワクしました。

■陸秋槎『ハインリヒ・バナールの文学的肖像』

 WW1前後あたりのドイツ文学や音楽家に詳しいと、にやりとできる…んでしょうか、自分にはどこからどこまでが空想なのかすらわからないまま、ハインリヒ・バナールのお話を読んでいました。

 なんだか、ハインリヒ・バナールさんが痛々しくて応援していました。作家を目指すも、父親から文才無いから医者を継げと学校へ入れられてしまいます。医者になるのですが、売れている作家にキレ散らかしている、売れない作家としての姿ばかりが描かれてなんだかかわいそうです。でも、キレるためにわざわざ列車で遠くまで初演を見に行ったりツンデレ感がありますね…(白目)。

 コンプライアンス面に重大な問題のある作品を出してしまい、それが悪い形で一番話題になって没落してしまうというまたなんとも悲しい話です。どこまで空想で、何が現実のものかわからずSFを読むと、「これはSFだったのか」と勝手に感じてしまいます。

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