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瀬戸内ドライブ 8

「ここらで降りてみる?」

悟に言われて車を降りる。ガードレールの隙間に、海に降りる小さな階段があった。枯草で埋まっている石段を、慎重に踏みしめながら降りていく。

近くでのぞいてみると、海の水は透明だった。波の間に、底の方までちゃんと見える。

「助けが必要だなんて思わなかったんよ」

悟がもう一度言った。わざわざ中学のことを持ち出して文句を言われるなんて、「何を今さら」と思っているのかもしれない。

遠くの方を眺めると、ゆっくりと小さな漁船が横切っていく。ほとんど波のない穏やかな海だった。

「言わなかったからね」

「言わんと分からんよ」

「じゃあ言うけど、今助けてくれん」

海を見たまま、ぼろりと言葉が勝手に出て来た。悟の方は向かなかったのに、悟がこっちをはっとしたように見たのは気配で何となく分かった。

「何か困っとるん」

どう答えればいいのか迷った。私はいつも、何に困っているんだろう。何から助けてほしいんだろう。

「誰かにいじめられとるとか」

悟は検討違いのことを言う。

「そんなんされん」

「じゃあ何?」

私は黙りこんだ。よく考えてみれば、出かける前よりだいぶ気分がましだ。それどころか、彼のSNSをこっそり見ては投稿がないか確認してきた数か月よりも、ずっと心は凪いでいた。ドライブに誘われたとき、もうすでに、悟に助けられていたのかもしれない。

「瀬戸内って守られとるよな」

悟が突然、そう言った。横を見ると、悟はじっと向こう岸を眺めている。

島から見えるのはさっき渡って来た本州だ。そして、背中側にあるみかん畑を超えると向こう側の海岸からは、四国が見えるだろう。本州と四国の間にある、瀬戸内海。この島はそこにぽっかりと浮いている。

「必要なのは、こういうところじゃないん」

「こういうところ? この島ってこと?」

「島っていうか、瀬戸内海っていうか。こういう穏やかな場所」

波は優しくちゃぷちゃぷと優しく岩を洗っている。ここは、外の海からだばだばと何かが流入してくることはない。ある程度囲まれている場所。

「嫌いって言いよるけど。今必要なのはこういうところじゃない」

もう一度悟は言う。

「瀬戸内ドライブ」9へ続く

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