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マイナンバー制度の幾つかの問題点について

 まず猪瀬直樹氏のこの記事をご一読いだきたい。『ミカドの肖像』から『公 日本国・意思決定のマネジメントを問う』まで一貫して徹底して調べ尽くし自分の頭で考えて判断する「らしさ」が感じられる記事ではある。この時点で批判の多いマイナンバーカードをあえて押す気骨は昔から変わらない。

 

デジタル化は誰のため?


 しかしこの記事を読んでも何故マイナンバーカードで国民サービス向上が可能なのかピンとこない人の方が圧倒的に多いと思います。あるいは何故デジタル庁なのかということもピンと来ないと思います。

 そもそも「デジタル」とはなにかという話になりますが、菅—岸田ラインで言われているデジタルとは、いちおう不連続とかバイナリという意味ではなく、デジタル社会形成基本法で定義されている通り、「ネットワークを便利に使おう」と言う程度のものです。

 もっと平たく言えば、平井元大臣が掲げたように「全ての行政手続きをスマホで一分以内に完結する」というゴールをめざそうということです。

 これはどういうことかというと、現在行政手続きにおいて行われている「受付」「簡易チェック」「受理」「審査」「決済」「決定」「通知」といった手続きをマイナポータルで「入力したデータの登録」に変えてしまおうという方向性です。

 もう少し具体的に言えば、現在e-GOVの電子申請のイメージです。飽くまでツイッターで見た情報ですが、栃木かどこかの社会保険労務士が電子申請で資格取得届を提出したら、十五分ほどで資格決定通知が返ってきて「肌感覚では秒で処理されている」と呟いていました。そんな感じのことです。「インターネットでビューン」というのが「デジタル」だと考えていいと思います。

 日本年金機構では提出されたCSVデータを取り込み、決定通知書をPDFで出力して課長決裁は事後処理にして「インターネットでビューン」と送信したわけです。

 ポイントはこのCSVデータの取り込みです。これで「受付」「簡易チェック」「受理」「審査」「決済」までえいやでやってしまおうというのが、デジタル化なのです。そのえいやで手続きが迅速化されること自体には官民ともにメリットがありますね。

 勿論データそのものにロジックチェックはかかっていないので、現時点では五百万円のお給料を五十万で「誤って」届けててもそのまま登録されてしまいます。これは紙の書類でも同じようですが、紙の場合五十万円のお給料を五万円で届け出ると一応確認が入る筈です。

 で「何故マイナンバーカード」なのかというと、今のところインターネット上で公的な身分証明書として利用できるものがマイナンバーカードだけなのです。そのマイナンバーカードを利用してマイナポータルからCSVデータを送ってくださいよ、というのが「デジタル」の発想なのです。

 何だか良さそうですよね。

 しかし問題は、

・企業と違い個人の行政手続きは限定的
・メリットはおもに官の方にのみあり

 ……というところです。役所が書類の山のままというのは問題ですが、それは個人の責任ではありません。


行政手続きコストは増えている?


 マイナンバー管理のために基幹業務システムをグレードアップした企業はどれくらいあるでしょうか。あるいは健康保険組合等に社員と家族のマイナンバーを提出するためにレターパックを買いこみ、払い出し簿を追加した企業はどれくらいあるでしょうか。

 企業側はマイナンバー管理のためにイニシャルコストの他ランニングコストを負担しています。

 つまり?

 マイナンバー制度に関わる健康保険組合等も同様に、イニシャルコストの他ランニングコストを負担していて、マイナンバー関連業務という新たな業務を引き受けていて、システムベンター及びJ-LISに莫大なお金が流れているということです。

 この問題は形を変えて医療機関にも生じています。オンライン資格確認開始直後、適当に情報を入れても情報が出てくる便利さに驚愕していたお医者さんがいました。極端な言い方をすれば、不正利用すれば莫大に稼ぐこののできる仕組みなのです。

 一日のアクセス制限もなく、患者でもない人の情報も閲覧できます。まるでイニシャルコストはランニングコストで稼げば?と言わんばかりのシステムなのです。

 このオンライン資格確認システムは、情報提供ネットワークと異なり、常時監視システムを採用しておらず、サーバが落ちない限り、一括大量情報照会を拒否することができないでしょう。

 こんな情報端末が全国の医療機関にばらまかれたのかと呆れている人もいなくもない筈です。

 しかし誰もそんな発言をしていませんよね。頭のいいお医者さんはもう使い道を考えている筈です。あくどい人たちも。

G-bizIDを巡る不可解な動き


 なんでも陰謀説にしてしまう人には賛成しませんが、マイナンバーカードのごり押しには不可解なものがありました。例えば渋谷区が独自の取り組みにより、LINEとの連携で住民票を取得できるサービスを実施していましたが、それが途中で駄目ということにされてしまいました。LINEはデータ管理が怪しいので駄目ということではありません。マイナンバーカードの特権を確保するために「それ以外」が排除されたわけです。

 実はネット上で本人を特定する仕組みそのものは色々ありましたが、その最高レベルの公的個人認証の機能はマイナンバーカードに特化することにされてしまったわけです。

 一方届け出の電子化を進めるために経産省ではこれまで何千円から何万円もしていた電子証明書の無料化を進めていて、無料で取得できるG-bizIDという法人のIDを開発していて、農林水産省が独自に開発していたeMAFFというIDとも連携をしていました。このG-bizIDにも運用面での問題ありありですが、このG-bizIDの個人版を動かせば、無理にマイナンバーカードに拘る必要はないのではないか、と思えませんか?

 ところが思わせないんですね。

 総務省が。

 マイナンバーカードを利用した公的個人認証を医療機関で行った場合、都度2二円のお金がJ-LISに流れます。

※[追記] 令和五年度分より三年間無料になるそうです。


 J-LISへのマイナンバー照会が一件10円。

 機関別識別符号の払い出しがやはり一件10円。

 猪瀬直樹さん、ご存知でした?

 このコストに合理性がありますか?

 繰り返しますがG-bizIDは無料なんです。この違いは何なのでしょう?

 それから2円の公的個人認証をコンサートチケットの代わりに利用してもらおうという総務省の構想にあります。しかしコンサートチケットに公的個人認証が必要ですか?

 electronic KYC、electronic Know Your Customerシステムには様々なレベルの対応が可能であることが経産省でも認められていて、ではどうするかと検討されていました。

 コンサートチケットと住民票データが突合される必要があるでしょうか?

 

陰謀論の責任は総務省にあり


 インターネットで国民生活を便利に変えて行こうという方向性そのものには罪はありません。CSVデータの積極的な利用も必要でしょう。

 しかしJ-LISは調べれば調べるほど、新時代のNHK、総務省の「おいた」であるとしか思えません。

 何故総務省は無料のIDを企画しなかったのか、経産省や農林水産省と何が違うのか、本当の所は解りません。解りませんがこのままでは総務省が薄汚く見えますね。

 勿論情報提供ネットワークもオンライン資格確認システムもアクセンチュアの発想なので、そこに問題がありますよ。


 しかし仕切られているとしたら仕切られていることそのものが問題です。どこまで社員数増やすつもりですか?

 


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