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連翹とは何かを調べていたら、それがどうでもよくなった件


 私のすきな春の花に連翹の花がある。白井さんの『植物渡来考』には、支那からの渡来としてあり、『延喜式』にあちこち諸国から産出したのを朝廷に貢献したことが記るされてゐるのは、薬園に培養したものであつて、それぞれの国土の自生ではあるまいとのことである。然し奈良朝の『出雲風土記』をみると、意宇郡と秋鹿郡との産物として、「凡そ諸山野所在草木」として、その中に此のイタチグサと訓してある所の連翹の名をあげてあるから、必ずしも中古の舶来とも限るわけにはゆくまいと思ふ。『万葉』にも『古今』にも出てこないには来ないけれども、大陸伝来の植物と断じてしまふのは惜しいやうな気がする。尤も白井さんは、最後の名著たる『樹木和名考』の方には、「一種ヤマトレンギョウと呼ぶもの中国に於て発見せられたり」と報じてをられたから、『出雲風土記』の記録と照らしあはせて更に考究する必要があらう。古名としては、『新撰字鏡』には、アハクサ、イタチハゼ、『本草和名』と『和名抄』とには、イタチハゼ一名イタチグサとある。いづれも感賞植物として扱はれたのではなく、むろん薬用植物として登録されたのである。

(新村出『連翹の花』)

 新村出とはあの『広辞苑』の新村出である。なら「連翹とは何か」もないものだ。


古名録 第3 畔田翠山源伴存 [撰]||正宗敦夫 編校訂日本古典全集刊行会 1937年
本草図譜  16 (濕草類7 48種) 岩崎常正 著本草図譜刊行会 1921年



本草図譜  16 (濕草類7 48種) 岩崎常正 著本草図譜刊行会 1921年


チリコフ選集 関口弥作 訳新潮社 1920年

 しかし実際にはただ「連翹」と書かれていては何の花なのか分からないのだ。ここでは白や藤色の「連翹」があることになっている。

明治の初期には、ライラックを連翹と訳してをさまつて居たやうなのんきな話も残つてゐるが、今は短歌にもかなり多く見あたる。

(新村出『連翹の花』)


新纂俳句大全 春之部 現代俳句研究会 編資文堂 1929年

 この「連翹や黄に藍かける桛(かせ)の絲」の「連翹」が他のレンギョウと同じものかどうかは甚だ怪しい。


オブローモフ [上巻] ゴンチヤロフ 著||山内封介 訳新潮社 1917年

 これもライラックだろうか。ライラックは香りが強い。


俳句天地人 俳句研究会 編昭文堂 1910年

  

 そもそもこの句は虚子が選んでいる訳だから、虚子の「連翹」もあやしくなる。


虚子句集 高浜虚子 著植竹書院 1915年


雑草 長谷川零余子 著枯野社 1924年

 この薬としての「連翹」はトモエソウで、 長谷川零余子はそもそもこの二つをごっちゃにしていないか?


子規名句集 俳句研究会 編崇文堂 1918年

 子規は大丈夫か。いや、ぼろが出ていないから大丈夫とも言えまい。これが本当に「連翹」かどうかは本人に聞くしかない。

 誰か一人くらい臘梅と間違えていないだろうか?

ところで鶯池とは何者か?



丈艸発句集研究 夏 句と評論同人 著句と評論社 1932年


現代綜合大句集 交蘭社 編交蘭社 1935年

垣上鶯池なのか? かきがみあうち?

 変な名前。




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