2024.04.07ホットサンド

朝の10時、友だちに会いに日比谷の椿屋珈琲店へ向かう。

学生時代は毎日のように顔を合わせていた友だちと会うのも、今は必死に予定を合わせて数週間前からその日を待ち望んで会うようになった。私たちなんにも変わっていないのに、すべてが変わってしまったよね。

前回会ったとき、彼女は『落下の解剖学』が観たいと公開中の映画の名を口にした。しばらく映画を観ることも自分が好きなことに使う時間もなかったらしい。「行こうよ!」とその場で約束し、約1ヶ月後の今日やっと実現したのだ。

よく考えてみたら学生時代は一緒に1回も映画に行かなかったね。大学時代の私たちなら観たい映画があれば「今日行く?無理なら明日は?」とすぐにでも行けたはずなのにね。あの頃より今の方が、一緒に過ごしたいという気持ちで強くつながっている気がするよ。

カフェでブランチをして、お昼の回の映画を見るのが今日のプラン。映画館の真向かいにある椿屋珈琲店で、私は紅茶のシフォンケーキとホットコーヒーを、友だちはホットサンドとアイスコーヒーを頼んだ。

店員さんに注文を伝えると、私はものすごい勢いで友だちが抱える現実的な悩みに対し思っていることを伝え続けた。店員さんが料理を運んでくる間も絶え間なく。全然うまくいっていない悩みだらけの私が人様に助言できることなどないはずだが、友だちに幸福で楽しくいてほしいあまり、マシンガンのように口から次々と言葉が出てくる。彼女と会うとき、いつだって時間が足りない。もっと聞き役にも回りたいし、もっとささやかなどうでもいい話もしたいのに。今日は特に、シフォンケーキの口溶けが軽くて発話の邪魔をしないからよくなかった。

お皿に盛られたホットサンドを半分ほど食べた友だちは、私に「1切れいる?」と皿を差し出した。お言葉に甘えてもらったホットサンドにかじりついてようやく私の話が止まる。ものすごくおいしかったな。

もぐもぐしている間に彼女がこれから動こうと思っているプランを聞き、それがいいそれがいい!と強く支持する。神様お願いです、彼女のこれからをすべてうまくいかせてください。

映画を観終わると、駅までの道のりで少し感想を話して「またゆっくり話そうね」と言って別れた。「またゆっくり」は別れるときの決まり文句になっている気がする。ゆっくりが実現しなくても、また近いうちに会おうね。

久しぶりに日比谷まできたので、私は電車には乗らずに駅を離れた。ひとり日比谷公園を歩いてみる。少し傾いてきた日差しで花木がキラキラと輝いていた。美しい春。ちょっと初夏の気配すら感じる。

立ち止まってピンクの花をつけた木の写真を撮る。光がいい。ここにいてほしかったと思い浮かんだ人に写真を送ろうか迷って、やめた。

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