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社会人一年目で自暴自棄になった


私は2年ほど前まで講師を勤めていた。

就活で苦労していた時期に、中学生の頃から世話になっていた恩師から
「社員を募集している企業の社長が来る。紹介するね。」と話があった。

その社長と実際話をしてみると、講師にしてはかなり条件も良い。

トントン拍子に進み、面接当日。
オフィスも新築で綺麗だ。
履歴書を用意してきたが、社長からは不要と言われる。
会社が用意している独自の履歴書があるので、そこに記入すれば良いらしい。

田舎なので通勤にかかる時間や車の免許を持っているか等を確認された。
勤務時間は14時〜。
夜型人間だったからこれだけでもありがたい。
「じゃあ君、採用で。来月から来てね」

即採用…?
でも苦しい就活とおさらばできるなら問題なし。

面接を終えて採用されたことを家族に話すと、家族も大喜び。
この時は幸せに満ちていた。

面接から1ヶ月経ち、社長と約束していた日を迎える。
正社員となるまでに3ヶ月間の研修が行われる。
その間はアルバイトとして扱われるようだ。

研修時間は1日あたり7時間ほど。
ひたすら他の講師の講座を見て学び、メモを取る。
正直言ってかなり楽だった。
こんなものか…この時は仕事を舐めきっていた。

そして無事社員になり、正式に勤務が始まる。

タイムカードはなぜか無かった。
でもタイムカードがない会社もあるのだろう。
今思えばおかしな話だ。

勤務時間は9時間ほど、途中でご飯休憩がある。
1週間に2日の休みもある。

講師の仕事は楽しくやりがいがあり、全てが順調に思えた。 

仕事にも慣れてきた頃、残業が当たり前になっていた。
タイムカードがないので残業代はもちろん出ない。
先輩社員は全員残業をしている。
自分だけが帰るわけにはいかない。

退勤時間は深夜1時、遅い時には深夜3時になった。
そこから車で1時間以上かけて帰る。
そんな生活が続く。

勤務時間は平気で10時間を超えていたが、週に2日ある休みでなんとか持ち堪えていた。

その休みですらも、社長の無慈悲な
「次の休日、出勤できるよね?」
この一言で徐々に消えていくようになった。
休日出勤が当たり前になった。

面接の時には残業や休日出勤の話なんて全く出ていなかった。
しかも休日出勤をしても給料は全く変わらない。
タイムカードがないから、記録が残らない。

段々と7連勤どころか16連勤なんて当たり前になっていた。

勤務時間中はエナジードリンクを1日に何本も飲むことで、なんとか持ち堪えていた。

休めば良いじゃないか、と周りから言われたがそう簡単にはいかない。

休めば自分が担当する講座は休講となり、別日に振替しなければならない。
だがすでにギチギチに講座が詰まっており、振替などできない。
そのためまた別の休日に振替講座をしなければ、回らなかった。

他の社員も自分と同じ状況だった。
代打なんて誰もできる余裕がないのだ。
先輩社員の方が更に仕事が多い。
新入りの自分が休めるはずがなかった。

次第に食事休憩も無くなっていた。
気づけば丸一日何も食べていない、そんな日も多々あった。
自分の教育係の先輩は3日間何も食べていなかった。

そんな日々が続き、気づけば自暴自棄に。
毎日帰宅後、「鬼ころし」を呑み、朝までオンライン対戦ゲームをする。

そうして身体を壊したかった。
身体を壊せば休める、そうでもしなきゃ休めない。
そう思っていたのに身体は頑丈で、寧ろ風邪にすらならなかった。 

ついに事件が起きた。

年に2ヶ月ほど、朝の9時から出勤しなければならない期間があった。
退勤時間はいつもとほとんど変わらない。

その期間は深夜の2時に帰宅し、朝の7時に起きる。さすがにお酒を飲むのも辞めていた。

毎日車で1時間かけて出勤。そんな日を繰り返していた。
もちろん給料も変わらない。

車で出勤中、ふと意識が飛んだ。
『ドンッ!!』
車に衝撃が走る。
電柱に激突していた。

ぶつかった衝撃でハンドルに顔面を強打したらしい。
鼻から血が出ており、片目は痛みで開かなかった。

交通事故なんて初めてでパニックだった。
なんとか警察を呼ぶ。
警官はある程度事情を聞いた後、救急車を呼んでくれた。

そして次に考えたことは「会社に遅刻してしまう」だった。
自分は休めない、遅刻できない。でも車が動かない。どうしよう。
自分の怪我なんて二の次。
とりあえず会社に連絡をする。

「事故の処理とかあると思うから今日は休んで良いよ。」
流石に休ませてもらえた。

眼窩底骨折。ついでにメガネの鼻あてのせいで鼻の骨も折れている。

流石にドクターストップがかかり、正式に会社を1週間休めることになった。

やっと…やっと休めるんだ…

そうして療養中に色々なことを考える時間ができた。
これ以上ここで働いたら、次こそ死ぬかもしれない。
でも辞めたら、せっかく喜んでくれていた親を悲しませる。

覚悟して親に今の会社を辞めたいと相談した。
意外とあっさり「辞めていいんだよ」と言ってくれた。

社長にも退職の相談をした。こちらもあっさり承諾された。

そして無事退職することができた。

退職した瞬間、お酒は全く飲まなくなった。
執着していたオンライン対戦ゲームもあっさり辞めることができた。

気持ちに余裕ができて、家族に対して優しく接することができるようになった。 

勤めている間は余裕がなく、ずっと何に対してもイライラしていたように思う。
家族や恋人(現夫)から普通に話しかけられただけで、病的にキレていたこともあった。

夫から後から聞いた話だと、当時の私とはまともに会話ができなくて、一緒に居続けるか悩んでいたらしい。 

仕事を辞めたら人生が終わるんじゃないかと思っていたけど、意外と辞めてもどうにかなっている。
あのまま勤め続けていたら、どうなっていたんだろう。

でもあの経験があったから、自分がレベルアップしたような気がしている。
大体の嫌なことは、あのブラック企業勤めの時よりマシだと思って乗り越えられる。 

よく祖母が言っていた。
「人生で起こること全てが、自分にとって意味のあること」

ブラック企業に勤めたことも、事故が起きたことも自分にとって意味があることだったのかもしれない。

会社には自分の代わりはいくらでもいる。新しく雇うこともできる。

けど家族にとって、恋人にとって、友人にとっての自分は自分しかいない。

自分を大切にして欲しい。
これは自暴自棄になりがちな自分にも言い聞かせてるし、
読んでくれているみんなにも言い聞かせてる。

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