ショートストーリー 人魚姫とミルク粥

ミルクの優しい香り。
ミルクの海に、白い米もツヤツヤと喜んでいるみたいだ。
匙をとる手も、自然と動き一混ぜ。
その分余計に広がった香りは、母親を思い出させた。
器からじんわり伝わる暖かさは、胸まで届いて広がった。

脚を貰って人間となった人魚姫が、初めて口にしたのはミルク粥だった。
脚を貰ったばかりの人魚姫ら上手く脚が使えなかった。
せっかく魔女の計らいで、沖に出たは良いが砂と波に足を持っていかれて呆気なく溺れる羽目になった。
溺れた人魚姫を助けたのは、人魚姫が助けた人間の王子様。

優しい王子は、なかなか目を覚まさない人魚姫を献身的に看病をした。
彼女が目が覚め、声が出ないと分かると風邪を引いているのだと勘違いをした。
彼は、夜中だというのに厨房に一目散に駆け込んだ。

シェフも誰もいない厨房は、ヒンヤリたした空気が漂っていた。
寂しさが集まってきそうな厨房で、彼は唯一自分が作れそうなミルク粥を人魚姫のために作った。
王子が生まれて初めて作る。

緊張しながらミルクと米を手に取り、昔、ばあやが教えてくれた作り方通りに手を進める。

出来上がったミルク粥は、王子の純白な心意気を映し出しているようだった。
それは、人魚姫も感じていた。

ミルクの甘い香りと、海にはない手に広がる暖かさは心まで柔らかくする。
徐々に少なくなっていく器に名残惜しさを感じる度に、匙をクルリと回す。
波紋を作るミルクは、深い海よりも美しく、どこまでも優しさが広がっていた。
王子が風邪を引いたときに届いた粥は、自分の作ったミルク粥と同じ味がしたという。

沢山の記事の中から読んで頂いて光栄に思います! 資金は作家活動のための勉強(本など資料集め)の源とさせて頂きます。