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シン・長田を彩るプレイヤー~地球規模の人口移動による地域の課題を本気で考える地方大学職員~(前編)

今月は神戸常盤大学職員の内橋一惠さんの記事をお届けします。
※過去にKOBE007が取材した記事のリメイクです(2021年2月取材)。
内橋さんは神戸常盤大学で多文化共生に関する授業を担当しながら、大学の地域貢献のあり方を研究されています。
また、新長田で多文化共生にまつわるイベントの開催や外国人児童向けの日本語教室に携わるなど、幅広く多文化共生に関わる活動もされています。
前編では、新長田の魅力や外国人児童に対する日本語教育の難しさなどについてお話しいただきました。


photo by 佃さん

新長田の景観の複雑さ

-記者-
新長田との関わりは約3年前からということですが、新長田のここいいなって思うところはどこですか?

-内橋さん-
キャラが立った住民の方がすごく多いことですね。
ちょっとした対立が多いけれど、つまりそれって地域がまだ元気なんだろうなって思います。
新長田人物録みたいなのを作ってみたいですね(笑)
あと、多文化的な景観です。
韓国、ベトナム、中国、ミャンマーなどそれぞれの国の料理店、食材店、宗教施設、コミュニティなど、そういった景色が日常にあるところですね。

-記者-
確かに新長田には色々な国のお店があり、良い意味でいろんな文化が混ざっていますよね。
内橋さんがされている多文化共生関連の活動についても教えていただけますか。

-内橋さん-
私は大学と社会との連携や地域貢献を担当する部署に所属しており、大学は地域とどんな連携ができるか、どんな地域貢献があり得るかを探る研究をしています。
私がここに来た時、新長田といえば多文化のことをするしかないと思いました。

元々文化人類学をやっていたし、学生時代にベトナムに留学していたので、そういった自分自身の特性を生かして、大学の地域貢献のあり方を探ろうということで始めました。
最近は、「幼い頃の楽しいふれあいが、大きくなってからの出会いや経験をより実りあるものにしてくれる」という考え方のもと、「多文化こどもカフェ」を開催しています。
※多文化こどもカフェ…神戸・長田の多様性を、食・遊び・ものがたり・表現を通してこどもたちと一緒に楽しむイベント。

外国にルーツを持つ子どものことばの学びをどう支えるか

-内橋さん-
現在神戸市のいくつかの公立小学校では、日本語の理解が十分でない外国人児童に対する日本語の学習支援と、来日して間もない子どもに対する母語によるサポートが行われています。
日本語の学習支援は、子どもによって学年や日本語の習熟度などが違うので、ほぼマンツーマンで行われます。
実はこの取り組みを長田区内でやっているのは駒ヶ林小学校だけなんです。

-記者-
1校だけなんですね。

-内橋さん-
他の小学校に通っている外国にルーツを持つ子どもはどうしているかというと、子どもが来日後間もない場合は、県と市の共同の事業で、母語サポーターを派遣して、母語で授業の通訳や日本語のサポートをしています。
たまたまやってきた自治体の、たまたま家を選んだ校区の学校に、どれくらい外国にルーツを持つ子どもを対象にした公的支援があるかにかなり差がある。
住むとこガチャ状態ですよね。
 
あと、私は駒ヶ林小学校の日本語教室のボランティアを3年ほどしていますが、活動を始めた当初感じたことがあって。
外国にルーツを持つ子どもの言語の習得については、「母語を学ぶことが大事だ。母語が第二言語(としての日本語)の発達を支えてくれる」という考え方と「まず暮らすための日本語を学ぶことが大事だ」という2つの考え方がありますが、
実際に子どもたちはどっちの言語を伸ばしたらいいのか。

もちろん、子どもの置かれてる状況や、家庭の方針によって違うのですが、母語だとしたら誰がそれを担うのか。
両方だとしたら、どっちも同じレベルを目指すのか。
そうならば、どういった方法で行うのか。
そういうことを、子どもの支援をする大人たちがそれぞれで整理する必要があるんじゃないかと思うんですね。
それが大変だなぁと感じたんです。

-記者-
そもそもどっちがいいかわからないし、子どもによって個別の対応を考える必要があるんですね。

多文化こどもカフェの様子

-内橋さん-
さらに、子どもに対する日本語教育がかなり独特だということも、その時知ったんです。
子どもは言葉自体を覚えている最中ですよね。
だから、大人が第二外国語として言葉を勉強するのとは全く違うんです。
私たちは既に1つの言葉の体系を知っていて、「じゃがいも」はチベット語では「ショゴ」です、中国語では「土豆Tǔdòu」です、と基本になる概念とセットになった日本語の知識があって、それとの対照や比較などで習得できますよね。
だけど子どもは基本になる概念も一緒に育てないといけないんです。

-記者-
なるほど…

-内橋さん-
抽象的な概念の理解には、抽象的な言葉を組み合わせたり積み重ねたりしないといけませんよね。例えば、水平とか垂直、あるいは社会とか権利といった概念自体を母語以外の言葉で説明されて理解して覚えながらやっていくのは独特の難しさがあります。
あと難しいのが、子ども自身の日本語学習に対するモチベーションが低い状態が普通ですので…

-記者-
そうなんですか?

-内橋さん-
大人であれば、自分の生活や仕事の為に必要であれば、勉強が得意だろうと苦手だろうと学習します。
一方で子ども自身は、日本に来たくて来ていないので…

-記者-
親の転勤などによることが多いイメージです。

-内橋さん-
そうですね。
また年齢によっては、「なんで日本語をやらないといけないのか」という思いもあって難しいんです。
例えば思春期の子どもが、急に親の都合で日本に暮らすことになった場合、名前も変わり、使う言葉も変わることを受け止めて、それを乗り越えて学習に向かっていかないといけない、ということもあります。
 
もっと幼い場合は、教室でじっと座るとかノートに字を書くとか、学習スタイルそのものが確立する前だったりするので、そこから教えたり。
そもそも学年もレベルも違うので、かなり個別の対応が必要になるという特徴があるんです。

(後編へつづく・・・)


新長田の魅力は、個性的な人々と多文化共生的な景観だとおっしゃる内橋さん。
外国人児童には単に日本語を教えるだけではなく、母語の習得も同時に行ったり、そもそも物事の概念から教えたりする必要があるなど、外国人児童に対する日本語教育ならではの課題を教えていただきました。
 
次回の後編では、新長田で多文化共生活動を行ううえで意識していることや、趣味の漫画と多文化共生の思わぬ共通点などについてお届けします。
なんと新長田を舞台としたアニメ制作の思惑も…?
ぜひお楽しみに!