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シン・長田を彩るプレイヤー ~フィルムの歴史をつなぐ映画資料館長~(後編)

今回は、神戸映画資料館の館長である安井喜雄さんを取材しました。
前編では、資料館を始めるまでの経緯や、フィルム映画の魅力について語っていただきました。
後編では、映画資料館と新長田地域とのかかわりや、昨年からはじまった配給という新たな取組について伺いました。


地域に溶け込む映画資料館


―記者―
チラシを見ると、講座などのイベントを行っていると書いてあるのですが、どのようなイベントをされているのですか?

―安井さん―
いろいろやってますよ。
例えば神戸が舞台の映画をやったときは、映っている場所はどことか映画の中では説明がないんです。
画面見てるだけやから知ってる人は知ってるけど、分からへん人もいる。
その人のために、ここはどことか説明します。
それは結構人気あるねん(笑)

それから関西圏には研究者が多いから、映画の先生を呼んで、トークしてもらったり。
映画だけじゃなくて、トーク付きでやったらお客さんも喜んでたくさん来てくれるんです。

フィルムの映写機

―安井さん―
あとはホームムービーの上映とか。

-記者-
ホームムービーというのは、一般の方が自分のお家で撮った映像とかですか?

-安井さん-
そうそう。自分の思い出話、結婚式とか運動会とかいろいろあんねんけど、それをみんなで観る。
撮影者に説明しに来てもらってね。
個人が撮った映像やから、説明してもらわないと分からへん。
でも、思い出話を聞きながら観ると、他人のホームムービーでもすごく面白い。

-記者-
楽しそうな取り組みですね。

-安井さん-
毎年10月に、発掘映画祭をやってるんですが、その中でホームムービーの日を開催してます。

-記者-
何人ぐらいの方が来られるんですか。

-安井さん-
言うてもここでやってるから、多くて30人とかかな。
持ってきてもらったものの中から、こっちで面白そうなのを選んで5、6人くらいのホームムービーをみんなで観たりしますね。

ほかにも、このシアターの貸し出しとかもやってます。
一般の人が自分でディスクを持ってきて、大きなスクリーンで観たいから上映してほしいって。
あるいは自主製作の映画を上映したいとか。
そういう時はここを貸館にして上映したりしてますね。


-記者-
地域の方々にも浸透しているんですね。
ご出身は神戸市ということですが、長田への印象は何かありますか?

-安井さん-
長田神社の方には初詣や仕事で来たことあったけど、新長田は資料館を始めるまで来たことがないんです(笑)
昔は賑やかやったってみんな言いますね。
でも僕が初めて来た時は、震災後の復興途中で、ビルが建ちつつあった、そういう新長田でした。
わりかしシャッター通りで、寂しいとこやと思ったけど、でも今はその頃よりは活気づいてると思いますね。
そやけど若者が少ないね。若い人がもっとおらんと。

-記者-
やっぱり若い人たちにも、もっと来てほしいですか?

-安井さん-
そうやね。
映画も、若者がだんだん来ないようになってるんです。
加藤泰っていう映画監督が昔言ってたんやけど、「映画は若者のためのものであって、若者が熱狂するものでありたい」って。
若者に来てもらうにはどうしたら良いのかが今の悩みやね。

配給という新たな取組み


-記者-
Feel KOBEというサイトで、去年からこちらで映画配給をしてるって見たんですが、詳しく教えていただけますか?

-安井さん-
配給っていうのは、自分で買い付けなどした作品を全国のシアターに売り込んで、上映してくれる映画館をさがすというシステムなんです。
今回の企画は、具体的には無声映画を何本か集めて、それに日本語字幕と音楽も新たに付けて。
それを普通の映画館に配給するDCP*というデータにして、映画館に貸し出してます。
*デジタルシネマで映画を上映する際の標準的な配信形式

-記者-
どうして配給をはじめようと思ったんですか?

-安井さん-
それは僕より支配人の田中さんの方が詳しい(笑)
田中さんの企画です。

―田中さん―
今、配給しているのはチャーリー・バワーズっていう人の作品です。
アメリカで1920年代に、出演から製作まで自分で手掛けていた人なんですが、その人の作品がめちゃくちゃ面白くて。
昔作ったって信じられないようなレベルで、今の人にも面白く観てもらえると思って、初めて配給っていうものに挑戦してみました。

神戸映画資料館支配人の田中さん

―記者―
なるほど。その映画に、心を動かされたんですね。

―田中さんー
そうですね。こんなに面白い作品が映画史に埋もれて、専門家ですら知らないということが信じられないって思ったことがきっかけです。
それと、ここがフィルムアーカイブですので、忘れ去られている人や作品がたくさんあるんですね。
忘れ去られている人の作品を紹介するというのは、私たちの日ごろの活動とリンクする内容なので、ぴったりだなと思って始めました。

―記者―
それを田中さんが率先してされていたのですか?

―田中さん―
はい、私が中心となって、日ごろから様々な企画をご一緒している研究者の方とかに協力していただいて実現しました。

-記者-
映画の配給の話をお聞きしましたが、新たにやってみたい取り組みはありますか?

-安井さん-
やりたいことはいっぱいありますね。
まだ上映してないフィルムがあって、それを上映したい。
フィルム自体が古いから、新たにプリントを焼かないと上映できないんですけど、焼くのにお金がめちゃめちゃかかるんですよ。

―記者―
まだ上映されていないフィルム、すごく気になります。
では最後の質問になるのですが、安井さんにとって映画とは?

―安井さんー
そうですね・・・映画は趣味ですね(笑)
好きやからやっているだけで。
でもそれしかない。他の事なにかやれといわれてもできへん(笑)
まあそれくらい人生でかけがえのないものやね。


ホームムービーの上映や配給など、様々な取組みに挑戦し続ける神戸映画資料館に、益々魅力を感じました。取材の中で、安井さんはフィルム映画の味について深く語ってくださいました。手軽に家でも映画が観れる時代だからこそ、映画館まで足を運び、じっくりと映画に向き合う時間を持ちたいと感じました。
ネットやデジタル映画では味わえない、フィルム映画ならではの魅力を感じたい方は、ぜひ神戸映画資料館へ足を運んでみてください!
(編集:ほーちゃん・まっつー)