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シン・長田を彩るプレイヤー~社員と共に追及する、靴の美学~(前編)

今月は株式会社ロンタムの取締役社長・神農英道さんの記事をお届けします。 ※2021年7月にKOBE007が取材をした記事のリメイクです。

神農さんは16歳という若さで株式会社ロンタムに入社。靴の製造工場での下積みや企画の仕事、イタリア留学を経て、2020年から取締役社長に就任されました。

靴づくりを自分の人生だと語る神農さんの靴の美学についてお話を伺いました。



他の場所ではなく、新長田で靴を作り続ける理由

-神農さん-
僕らの靴業界、ファッションの仕事は、一般企業みたいにカチッとした世界観ではないんで、気軽に聞いてください。

-記者-
まず、簡単な経歴をお伺いしてもいいですか?

-神農さん-
ロンタムは父親が創業した会社なんですが、高校中退後にこの会社に入りました。16歳の時です。それが阪神・淡路大震災の前の年ですね。

僕らの場合は単に作るだけではなくて、商品開発や設計をやっていかないとだめなので。下積みを経て、2020年から今の社長のポジションに就きました。

-記者-
震災当時、大阪は神戸よりも地震の影響が少なかったということで、神戸から大阪に本社を移す会社が多かったと聞いたことがあるんですが、そういったことも検討されたんですか?

-神農さん-
そこが一般企業と違うところで。靴の生産は主に7工程あって、分業化していることが多いんですよ。だから自分の会社だけ移っても、モノが作れないんですよね。

あとは、ファッションの流れも変わってきていて。この変化に対応するためにも各工程の各生産者が集まっている新長田の街にいないといけないんです。

“靴の美学”の追求

-記者-
靴の産業は分業制ということですが、分業の担い手は減っていっているんですか?

-神農さん-
もちろん減っていってます。その理由で一番大きいのはファストファッションの参入ですね。ファストファッションの靴でも今は素晴らしい品質と価格で入ってきますから。

あとは、海外の製品が昔と比べて入りやすくなってしまったので国産の需要が正直無くなってきてるのもあります。僕らが作ってるものは、じゃあ何が違うの?って、差別区別ができなくなる。そうすると僕らの仕事は減っていくんですよね。

-記者-
ファストファッションとどういう差別化をしていくか、というお話がありましたが、差別化について具体的にどのように考えておられますか?

-神農さん-
それは、僕が“靴の美学”としていることで、いつもお客さんにも説明するんですけど。高くなくても、ブランドものでなくても「よりよく見せる」ために、こだわりぬくことが“靴の美学“だと思っていて、これを追求することが差別化につながると考えています。

例えば、ファストファッションの靴もよくできてますけど、じゃあ、より一層それと違うものってなんやっていうと靴の仕上がりの雰囲気ですよね。

-記者-
見た目であったり、履いた時の感覚であったりということですか?

-神農さん-
履き心地もそうやし、見た目もそうやし。製造の工程やパーツなど、細部のどこまでこだわるのか。例えば他社が5工程で作るところをうちは8工程で作るとか。

-記者-
それをすることでより丈夫になり、こだわりが見えてくるデザインになるということですか?

-神農さん-
そうですね。より良く見せるしか勝つ方法がないんですよ。僕たちは自分で売ってるんじゃなくて取引先に売って、その取引先が消費者に売ってる形なんでね。僕たちはその取引先に対して僕らの美学をアピールする

この長田には競合他社がいっぱいあるわけじゃないですか。その同業者の商品よりもちょっとでもよく見せないと、取引先はどちらを買うのってなったときに、こっちの方がきれいやな、こっちの方が履き心地がいいなっていうので選ぶんで。価格ではもう競争できない。靴に対する美学がないことには、僕らも勝ち残っていけないので、常にそこに重きを置いています。

素材・技術・プロ意識 すべてが最高峰のイタリア市場で戦う夢


-記者-
その美学を持っておられるのは何かきっかけがあったんですか?

-神農さん-
特にイタリア留学してから色々学びました。メイドインイタリーの有名ブランドは全部、僕らが考えてる美学なんかとは比べものにならんほどの美学を持ってるから。そういうのを学ぶと、自分もどうせ作るんやったらいいものにより近づけたいと思って今日までやってきています。

お金ではなくて美学を追っかけてきたんで、ありがたいことに今は素晴らしい会社さんばかりと取引させていただいけるようになったと思います。

これからも美学を追い求めることは変わらず続けていきますね。美学を持ち備えていないと勝ち残っていけない。会社自体の生き残りもそうですし、長田の靴の産業を生き残らせることもできないんでね。靴の美学を追求した先にしか、我々が生き残る道はないんですよ。

-記者-
その美学がお客さんにも伝わって勝ち残っていけるということですね。

将来の夢に、海外進出を掲げられていますが、どういった展開を考えておられますか?

-神農さん-
ビジネス的な理由っていうのは実はそこまで思ってなくて。日本市場が頭打ちになった場合の海外進出というよりも、ほんとに自分たちに余裕があったら作りたいものを作って、ヨーロッパ、イタリアの市場で戦ってみたい。そういう理由のほうが実は大きいんです。

-記者-
イタリア留学に行ったとおっしゃっていたのですが、イタリア現地の感覚を肌で感じて、憧れたということですか?

-神農さん-
そうですね。20歳のときに留学に行ってから15年間ぐらいは毎年、年に3、4回ヨーロッパの展示会とかに行ってて、その中で洗練されたものをずっと見てきてたっていうのは大きいですね。向こうの靴を買って帰ってきて、自分で分解してとか、もう何十足とやってきたんで、その素晴らしさを分かってますし。

一昨年、お客さんが持ってるイタリアの工場、ほんま一流の工場なんですけど、そこで実際に作ってるところも初めて見てきて、自分らとは次元が違うなと思いました。わかりやすく言うたら、軽自動車を造ってる工場と、高級外車を造ってる工場の違いみたいな感じでね。

-記者-
技術的な面ということですか?

-神農さん-
技術もそうですし、素材もそうですし。なによりもクラフトマンシップというか、プロ意識というのが、次元が違うわけですよね。そこが一番大きい。

だから余裕がほんまにできたときは、自分らも同じようにそういうものを売りたい。やって実際どうなのか、世界を見てみたいなと思ってます。


前編では神農さんの“靴の美学”を語っていただきました。16歳の時から靴と向き合ってきた神農さんだからこその靴づくりに対する強いこだわりが感じられました。
後編では社長としての株式会社ロンタムとの向き合い方をお話しいただきます。社長に就任されたばかりの神農さんは危機をどう乗り越えたのか・・・お楽しみに!
(編集:みっちゃん)