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写真記者のセンスが光る 人気連載「MARUDORI」8選

いかがお過ごしでしょうか、ぶらっくまです。今回は神戸新聞が誇る写真記者たちの仕事の一端をお届けします。

映像写真部の記者は、日々の事件・事故や会見、スポーツなどのニュース写真とは別に、写真記者ならではの連載もいくつか担当しています。その一つに、2020年春から夕刊に随時掲載している「MARUDORI(マルドリ)」があります。電子版「神戸新聞NEXT」でも人気のコーナーです。

連載開始時の内容紹介にはこうあります。
時代を映す流行や街の旬な話題など兵庫を取り巻く今を写真記者が追いかけます。レンズワークや撮影技法を駆使しながら、地域の新たな一面を斬新なアングルで紹介。彩り豊かな1枚でニュースの現場に迫ります

被写体としては日々のニュース写真と重なる部分もありますが、普段のニュース記事に付ける写真と比べ、より見せ方、映像表現にこだわった1枚といえます。紙面では写真を大きく、記事は短めの構成にしています。

掲載100回を超える中から、いつものように私の独断で選んだ何枚かをご紹介します。


人影まばら 献血不足深刻

 夕刻の神戸・三宮センター街。天井のライトに照らされた献血ルームの男性スタッフが、まばらな通行人に協力を呼び掛ける。
 輸血用血液は常に不足気味だ。兵庫県赤十字血液センターによると、県内では6日現在、400ミリリットル献血で110人分が足りないという。
 「輸血はほかに代わりがない。多くの命を支えるために協力してほしい」と同センター。新型コロナウイルス感染予防のため、体温測定や消毒、混雑緩和などにも頭を悩ますスタッフは、今日もだれかの命を救うため頭を下げ続けている。(秋山亮太)

2020年5月8日付夕刊記事

続いてもコロナ禍を表した1枚です。

温浴施設で読書の〝巣ごもり〟

 本を手にくつろげる六角形の空間は、その名も「蜂の巣」。兵庫県三田市の温浴施設「三田天然温泉 寿ノ湯」の読書用スペースだ。
 同施設は、新型コロナ禍が本格化する前の2月に開業した。ライブラリーを併設し、別途料金で新刊本や漫画、雑誌など約1万冊を自由に読める。
 図らずもコロナ禍を予見したような〝巣ごもり〟の風景。「お一人さまでも快適に」とこだわった空間という。「『新たな日常』で接客は最小限にしつつも、丁寧さを心掛けています」(大森 武)

2020年7月16日付夕刊記事より抜粋

次は2021年秋にあった衆院選の選挙期間中の1コマです。

駅前の訴え、その傍らで

 「命と暮らしを守ろう」「政権交代を」―。
 足早に行き交う通勤・通学の人らに向け、たすき姿の候補者がハンドマイクを握る手と声に力を込めた。その脇で一人の男性が静かにたたずむ。路上生活者の自立支援雑誌「ビッグイシュー」の販売員(70)だ。
 1日に約10万人が乗降するJR尼崎駅(兵庫県尼崎市)。男性は8年前から雨の日以外はほぼ毎日、ここに立ち、最新号を掲げてきた。50歳で運送会社を退職後、新たな仕事が見つからず、売り上げの一部が収入になるビッグイシューの販売員になった。
 衆院選の公示後、入れ代わり立ち代わり駅前で演説する姿を見てきた。
 「先は長くないから多くは望まない。でもやはりコロナかな。早く(通る)人が戻ってくれないと…」
 収入は以前の7割に落ち込んだままだ。切実な不安が声色ににじんでいた。(中西幸大)

2021年10月25日付夕刊記事

満天の白星を信じて

 まるで満天の星―。スタンドに無数の光がともる。輝きは勝利を信じたサポーターたちの思い。キックオフを前に、スタジアムの熱気は最高潮に達する。
 サッカーJリーグ1部(J1)ヴィッセル神戸が、本拠地ノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)で一昨年から行う選手入場時の演出だ。照明を落として観客にスマートフォンのライト点灯を呼び掛け、勝利を願う銀河をつくりだす。
 15日のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)プレーオフは負けられない一戦だった。サポーターもいつも以上の緊張感で選手に光を届け、神戸はACL本戦出場を決めた。
 ただJ1では今季7戦で白星無しとクラブ史上最悪の低迷が続き、監督交代などで揺れる。「次こそ勝利を」。サポーターはこよいも星に願う。(吉田敦史)

2022年3月29日付夕刊記事

昨季は開幕から11戦未勝利と苦しみ、13位に終わったヴィッセルですが、今季は首位争いを繰り広げています。

今季のヴィッセルといえば、忘れがたいこんなシーンもありました。

いつも中心に彼がいた

 いつもスタジアムの中心に彼がいた。その名はアンドレス・イニエスタ。
 柔らかなボールタッチと正確なパスから「魔法使い」とも称される。その司令塔が1日のサッカーJ1札幌戦を最後に、5年間所属したヴィッセル神戸を退団した。
 今季公式戦初先発となった札幌戦。この日一番の見せ場は前半に訪れた。味方とのパス交換から相手陣内に切り込み、右足を鋭く振り抜く。ゴールこそならなかったが、華麗で力強いプレーはチームを鼓舞した。
 ピッチでのラストダンスは57分間。後半途中、惜しみない拍手に包まれ、背番号8は別れを告げた。試合後には退団セレモニーがあり、チームメートとサポーターが主将を盛大に送り出した。
 去り際の一瞬、光がその勇姿を照らした。最後まで惜別と感謝の思いを示す光景はあまりに美しく、偉大なプレーヤーであり続ける理由を垣間見た気がした。(中西幸大)

2023年7月6日付夕刊記事

神戸新聞NEXTには、退団試合の写真集も掲載しています。

次は、神戸らしい光景でありながら、視覚的に面白い1枚です。

動く街、ミナト神戸に 

 海上を動く街―。望遠レンズ越しの光景に、そんな錯覚を覚えそうになる。神戸港に入港したクルーズ客船で過去最大となった「MSCベリッシマ」(17万1598トン)。13日午後、神戸ポートターミナル(神戸市中央区)に初寄港する様子を、神戸市灘区の高台から撮影した。
 全長315メートルの巨大な船体は、同市中央区のポートアイランドと新港東埠頭(ふとう)の間をゆっくりと西へ進んでいった。高さ65メートルは高層ビルにも匹敵。5千人以上乗れるというから、「街」という例えは大げさではない。最上部にはウオータースライダーまで備える。
 国際クルーズ船の受け入れが再開された3月以降、異国情緒を感じさせる豪華な船が頻繁に訪れているミナト神戸。海を眺める楽しみが、ますます増えそうだ。
 巨大客船は14日、次の寄港地に向けて旅立った。(三浦拓也)

2023年6月16日付夕刊記事

NEXTには動画もあります。

最後は、大規模な再整備が進み、変わりゆく神戸の街を切り取った2枚を。

新ランドマーク 圧巻の「借景」 

 マルーンカラーの車両が建物に向かって滑り込んで来る―。2021年春に開業した三宮の新たなランドマーク「神戸三宮阪急ビル」(神戸市中央区)のコーヒー店からの眺めだ。都心の活気を眼前に、ゆったりとした時間が流れる。
 1936年に建設された旧神戸阪急ビル東館は、長年親しまれた名建築だったが、阪神・淡路大震災で解体を余儀なくされた。同じ場所に誕生した新ビルは地上29階建てで、低層部はアーチ状の窓などを備え、旧ビルの意匠を受け継いだ造りとなっている。
 このビル3階に6月末、オープンしたのが「タリーズコーヒーセレクト阪急三宮店」。店内はコンパクトながら、広々とした窓からの借景は圧巻だ。梅垣茜店長(32)は「通勤通学ラッシュの朝、日中から薄暮となる夕方、夜景と、刻々と変化して、いい眺めですよ」と話していた。(長嶺麻子)

2023年8月18日付夕刊記事

動画はこちら。

アカツキの新アリーナ

 「KOBE」にバスケットボールの熱狂を―。燃えるような朝焼けに包まれた建設中の新アリーナにそんな期待がふくらむ。
 神戸港の新港第2突堤(神戸市中央区)で2025年春の開業を目指す「神戸アリーナ(仮)」。今シーズンから本拠を神戸に移した男子Bリーグ2部所属「神戸ストークス」のホームとなるほか、コンサートや国際会議もできる施設として整備が進む。
 日本バスケットボール界は躍進が目覚ましい。21年の東京五輪では、女子代表が銀メダルを獲得。男子代表「アカツキジャパン」は今回のワールドカップ(W杯)で来年のパリ五輪出場を決めた。
 神戸もバスケとは浅からぬ縁がある。米プロバスケNBAのレジェンド、故コービー・ブライアントさんといえば、その名のつづりは神戸由来の「Kobe」。暁の空を背負う新アリーナに、日本バスケの聖地誕生の夢を見た。(鈴木雅之)

2023年9月11日付夕刊記事

こちらも動画があります。


〈ぶらっくま〉
1999年入社、神戸出身。
いかがだったでしょうか。写真もさることながら、コンパクトにまとまった文章も楽しんでいただけたら、うれしいです。私も時々、この連載の文章のデスク作業を担当することがあります。いい写真が付いていると、文章を校正する方も楽しく、作業がはかどります。