雲奔る

藤沢周平さんの「雲奔る」小説・雲井龍雄、を読み終えました。雲井龍雄と言えば江戸時代末期から明治の人で、吟剣詩舞では下記の漢詩が知られている。


「客舎の壁に題す」
斯の志を成さんと欲して 豈(あに)躬(み)を思わんや
骨を埋む 青山碧海の中(うち)
酔うて宝刀を撫(ぶ)し 還(また)冷笑す
決然 馬を躍らせて関東に向こう


訳「この志を成そうと思うならば、どうしてわが身の事など考えられようか。わが骨を埋めるのは山でも海でも構わない。酒を飲みながら刀を撫で、静かに思いを含み笑う。覚悟を決め、馬を駆けさせて関東(江戸)に向かおう」。


米沢藩士として生まれ、本名は小島守善。雲井龍雄は変名。若き日より学に秀で幕末時には志士として活躍する。幕府には否定的ではあったが新政府発足の経緯と特に政治的に策謀の強い薩摩を憎み、北伐(戊辰戦争)に対しては奥羽越列藩同盟を助け戦う。敗戦後、禁固・謹慎を経て新政府に出仕するが、批判的な態度や舌鋒鋭く議論を戦わせる事が災いして追われた。
その後、没落した士族や旧幕府方、敗残の人々を救うために奔走するが、新政府に煙たがられ、また政権転覆を図る集団とも疑われ(実際その色が強かった)、謹慎幽閉される。罪状不確かながらもついに斬首刑に処された。
激情家であり議論鋭く、藩の上役にも遠慮なく諫言する、まさに幕末の志士のイメージ。吉田松陰とかぶる。

しかし現代人の自分には、この時代の人の命への考え方・軽さ(本人達は決して軽んじている訳ではないと思うが、結果信念を優先してしまう)にちょっと考えてしまう。目的のためには犠牲も厭わないというか…そこまでやる必要はないじゃないかという思い。生きていればこの後の日本の為になったであろう人達。明治維新を深く掘り下げるとそういうモヤモヤが湧き上がってくる。当然その後の各地の反乱、西南戦争までの結末もである。

今まで上記の漢詩の作者としかイメージのなかった雲井龍雄。小説ではあるがその生き方歩き方、非常に勉強になった。



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