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『先輩のお弁当』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年1月4日(再放送:2022年1月8日)オンエア分ラジオドラマ原稿)

女「すごーい、それ先輩が作ったんですか?」
男「ああ、うん。いやちょっと恥ずかしいな」
女「え、彼女さんとかじゃなくて?」
男「いや、いないし」
女「え、そうなんですか?」
男「え、うん」
女「へー」
男「いや、哀れみの目になってんじゃん」
女「そういうわけじゃないです。いつも美味しそうなお弁当食べてるなって思ってたんです」
男「え、見てたの?」
女「見てました。すっごい美味しそうだなって。まさか先輩自ら作ってるとは」
男「いやまあ、YouTubeとかにいっぱい動画上がってるからさ」
女「そういうの見て作るんだ」
男「うん、まんまだよ。だから手際とかよくないしキッチンぐちゃぐちゃだよ」
女「私洗い物は得意ですよ。料理はなあ」
男「いや俺も別に料理は得意じゃないよ。レシピ見てそのまんまだもん」
女「鮭の照り焼きにブロッコリーに玉子焼き、え、しかも玄米ですか」
男「いや、この職場の周りってランチうまい店あり過ぎるからさあ、ついつい食べすぎちゃうんだよ」
女「わかります!」
男「あっちのカツカレーそばとかさあ、こっちのごぼ天うどんとか、そっちのビーフバター焼きとか」
女「昨日はビーフバター焼き食べました(笑)」
男「うまいよなあ。でもまあちょっとお腹周りのことも考えてね」
女「いいなあ。私もそういうの食べたいです」
男「なんなら作ろうか?」
女「え!いいんですか?!」
男「いやお弁当ってさあ、一人分作るのって難しいんだよね。玉子焼きでも全部入りきらないし。で、余った分夜食べるのもさあ。これはお弁当を作り始めてわかったことなんだけど」
女「そうなんですか」
男「だから、まあついでだし」
女「じゃあお金払います」
男「いいよ、そんな」
女「でも作ってもらうだけって」
男「じゃあ100円でいいよ」
女「安すぎます!あ、じゃあお弁当箱洗います!給湯室で先輩のも洗ってお返します。私、洗い物は得意なんで」
男「それは助かる!」
女「じゃあ、100円と洗い物で」
男「交渉成立だな」

ということで、
私は毎日先輩の作ったお弁当を食べている。

女「この生姜焼きは誰のですか?」
男「これは栗原はるみ先生のレシピだね」
女「昨日の土井義晴先生の肉じゃがもほんと美味しかったです」
男「明日は小林カツ代さんのクリームコロッケを作ってみようと思う」

先輩はいろんな料理研究家のレシピのお弁当を作ってくれる。
私はお弁当箱をきれいに洗って先輩に返す。
そんなことは長く続かなかった。

男「ごめん、今日お弁当作る時間なくて」
女「いえいえ全然大丈夫ですよ」

先輩は仕事が忙しいし、

女「すみません、今日はお昼から外回りで」
男「お弁当持ってっていいよ」
女「今日中に洗ってお返しすること出来なさそうです」
男「また明日でいいさ」

私もそれなりに忙しかったりした。

男「明日はなに作ろう?」
女「たまご安かったから、買っといたの。冷蔵庫入ってるでしょ」
男「お、ほんとだ、じゃあだし巻き卵作るか」
女「やったあ。はい、コーヒー」
男「ありがとう。コーヒー淹れるのは上手なんだね」
女「あとトースト焼くのと」
男「焼いてるのはトースターだろ?」
女「焼き加減を見てるの」
男「よし、これ食べてお弁当作ろう」
女「私は洗いものするね~」

というわけで、
そういうわけだ。
私は毎日、彼の作ったお弁当をただで食べられるようになった。


おしまい

※こちらの小説は2022年1月4日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20220104210000

※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送を再放送でお届けしています。


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