職場でのストレスチェック義務化に対応して〜見ておくべき心理的ストレス

2015年12月の労働安全衛生法の一部を改正によりストレスチェックが義務化されたように、仕事のストレスへの社会的な関心と重要性はますます高まってきているでしょう。

それでは仕事でのストレスとはどのようなものがあり、どんな場合に起こり、なぜ起こるのでしょうか?本記事では、心理学研究の知見を踏まえながらこれらの問いに答え、可能な限りの解決策を提案しようと思います。

(以下、「Work in the 21st Century: An Introduction to Industrial and Organizational Psychology by Frank J. Landy & Jeffrey M. Conte」の教科書より抜粋。各論文へのリンクはアクセスできない為省略してます。)

ストレスの父と呼ばれるハンス・サイルによると、ストレスとは「人体にかかる要求に対する反応」と定義されます。一般的に「ストレス」といえば、ポジティブなものとネガティブなものがあり、本記事では身体に悪影響を及ぼすネガティブなストレスのことを説明することにします。

そして、さらにネガティブなストレスとは肉体的なものと精神的なものに分けられるでしょう。「肉体的なストレス」とは、直接体に刺激を与えうる音や衝撃などから生じる、身体的な反応です。一方で「心理的ストレス」とは、直接身体には刺激を与えずとも発生する恐怖や不安などに対する心理的な反応です。これら二つのタイプのストレスは少なからず関わりあっているでしょう。例えば長時間労働によってワークライフバランスが欠如し、それにより家族の将来のことについてどんどん不安になってしまうケースや、逆に将来への不安から自ら肉体を酷使してしまい、腰を痛めたりして疲弊してしまうケースもあるでしょう。

両者を完全に切り離して考えることは建設的ではないかもしれませんが、本記事では主に3つの心理的ストレスに焦点を当てていきたいと思います。なぜなら職場での心理的ストレスについては多くの研究者が科学的に研究されていて、ストレスチェックが義務化された日本の企業様に対して有効な解決策が提供できるかもしれないと思ったからです。

コントロールの認識の欠如

職場環境においてのストレス要因の一つに、コントロールの認識の欠如というものがあります。これは「自分の置かれている環境を自分自身でコントロールできないと感じる」状態を意味していて、一般的にヒトは、自主的に環境を自分の支配下におけない状態に強いストレスを感じると言われています。例えば仕事のペースやスケジュールなどが完全に固定されていて融通が効かないような状況がそれに当たるでしょう。

これに対する研究によると、柔軟なスケジュールや業務ペースを持たせることでコントロールの認識を促進させることがわかっています。オフィスと自宅で柔軟に仕事をする約450人の社会人を対象にした調査によると、その中でもより柔軟なスケジュールを立てている人ほど自分でコントロールしている認識が高く、またそのような認識の高い人の方が低い人よりもワークライフバランスの衝突(ストレス)は少なかったというデータがあります。

他にはフレックスタイム(Flextime)という、労働者にスケジュール設定の余地を与えて柔軟なスケジューリングを組ませるという方法があります。フレックスタイムとは、例えば朝10時から午後4時までの出勤時間は必須で固定はするが、残りの2時間は従業員各々が好きな用意割り当てても良いという仕組みになっていて、従業員に柔軟かつ自主的に働く時間を選んでもらおうという試みです。わずかではありますが時間の使い方の裁量権を与えてあげることによって「自分の仕事(人生)は自分自身がコントロールできている」という感覚を身につけさせてあげることができます。この方法を導入している会社の従業員の方が、そうでない企業に比べて生産性や業務満足度を高く報告していることを示す調査結果もあります。

このように、「自分にはどうしようもできない」という心理的なストレスを取り払うことで、それが組織の生産性にもつながる可能性があるのです。

対人関係の衝突

もう一つの職場でのストレス要因には「対人関係の衝突」が挙げられます。対人関係の衝突は主に、二つの場合によって起こると言われています。

一つ目は、職場の人との関心や性格のミスマッチです。例えば、細部にこだわり丁寧に順序立てて仕事を進めたい人と、大まかな全体像だけを立てて仕事を進めたい人との間には亀裂が生じやすいでしょう。

二つ目の場合は、自分が人から公平に扱われていないと感じる時に生じるストレスです。例えば、自分は結果だけを出せば良いと思って頑張って結果を出したが、その過程までもが評価基準に入っていて正当な評価を受けられなかったり、仕事とは直接関係がないと思っていたプライベート上での出来事が原因で正当に評価されなかった、などのケースがあるでしょう。フィンランドの24歳から64歳までの約1万5千人を対象にした大規模な調査によると、こうした仕事での人間関係のトラブルは精神疾患の確率を予測するものであり、また対人関係のストレスは社会的地位、結婚歴、夫婦喧嘩、ストレスを感じやすい性格などといった他のストレス要因よりも強いストレス要因であることがわかっています。

日本経済団体連合会の新卒採用に関するアンケート調査によると、日本企業が採用基準においてもっとも重視している要因は2001年から連続で「コミュニケーション能力」であることがわかります。対人関係の衝突によって起こるストレスの問題点と重要性は、広く認知されてきているのではないでしょうか。

業務役割に関するストレス 

最後に挙げられる心理的なストレス要因は、「業務役割」からくるものであると言われています。業務役割のストレスとは、さらに次の三つの場合に分けられます。役割超過、役割のミスマッチ、役割の曖昧さです。

一つ目の「役割超過」は、単純に仕事の量というよりも、与えられた役割の多さのことを指しています。例えば営業社員として入社した(またはそうだと期待していた)のに、いつの間にか広報のような仕事もさせれているようなケースでしょう。

二つ目の「役割のミスマッチ」とは、自分の与えられた役職と自分の知識や経験がマッチしていないときに感じる心理的なギャップのことを意味しています。

三つ目の「役割の曖昧さ」とは、従業員が自分の与えられた役割において何をすべきなのか、何を求められているのかが曖昧で自覚ができていない時に生じます。これら三つの業務役割に関するストレス(データによると役割の曖昧さが一番高いストレス要因である)は不安感の増加につながり、さらには退職の意図などを予測することが分かっています。

このように様々な心理的ストレスが仕事では生じるが、防ぐ方法はあるのでしょうか?一般的な策としては、アンケート調査にも見られるように「コミュニケーション能力」の高い人を採用することです。もしくわ、採用をする前に「ストレス耐性」というものを測り、各々がどの程度ストレスに強いかを調べておき、ストレス耐性の高い順に採用する方法があると思います。確かに、ストレスを感じやすい性格の人もいれば感じにくい人もいるように、ストレスを感知する敏感さについては個人差が存在します。しかも、心理学の世界ではそのような性格は生涯通してある程度一定であるというのが通説です。

では、もともとストレスを感じやすい人はどこからも歓迎されないべきなのでしょうか?「コミュニケーション能力」という曖昧な定義のもと、コミュニケーション能力のない人が不利になる採用でいいのでしょうか?

必ずしもそうである必要はないことが、一連の研究から分かってくるように思えます。上で述べたように、個人の持つ性質以外にもストレスになり得るものは、対人関係や業務役割のミスマッチによって生じる場合が多いです。既出のフィンランドでの研究では、対人関係のトラブルの方が個人の性格よりも高い値で精神疾患を予測しています。

例えば、仕事の進め方の違いや仕事の捉え方の違いによってストレスを感じてしまうケースがあるでしょう。この場合、同じくらいストレスを感じやすい人二人を比べたとしても、仕事の進め方やキャリアの目標においては異なっている場合もあるだろうから、そこでのミスマッチをなくせば無駄なストレスをできるだけ軽減できるということになります。

どのような環境や役割で仕事をしていきたいかは、人生のステージによっても大きく異なってくるでしょう。交際相手の有無や妊娠しているかどうかで、また性別や年齢によってプライベートを重視する割合も変わってくるでしょう。新卒でまだ自分のやりたいことがわからない人にとっては、とにかくいろいろな種類の業務を経験してみたいと思う事もあるだろうし、ある程度経験を積んで自分のスキルに自信のある人物ならば、明確に一つの内容に集中したいはずです。会社でどのような役割を果たしたいかは個人差があるはずなので、もしかしたらストレスを感じにくい外向的な人でも業務内容のミスマッチによって結果的にストレス耐性の低い人よりもストレスを感じてしまうケースもあるかもしれません。一方で、ストレス耐性の低い人でも仕事環境や役割の上でのミスマッチを減らしてストレスの起きにくい環境を整えることができれば、ストレスを最小限に留めることができます。

このようなミスマッチを減らすための前提として、採用や配属の段階でなるべく多くの情報を事前に可視化しておくことが大事なのではないでしょうか。どういうタイプの人と仕事をするとうまくいきやすいのか?会社ではどういうポジションで仕事をしていきたいか?そのようなことを事前に確認しておくことで、入社後の曖昧さをなるべく排除し、それによって起こるストレスを軽減できるはずです。対人関係のストレスや業務内容のミスマッチによって起こる心理的ストレスは間接的に退職率を予測しているから、このようなストレスを軽減する試みには十分価値があるはずです。

定期的なストレスチェックの際には、このような点に着目して軌道を修正していくことも可能でしょう。そして究極的には、ストレスを最小限に留めるのと同時に、それぞれの個性が光る適材適所の人材配置を目指せたら良いと思っています。

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Kodai Kusano

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