組織における多様性について

〜ぶっちゃけ多様性って何だ?〜

多様性はしばしばダイバーシティと訳され、グローバル化、グローバル企業などというワードと併用されることが多いと思います。本文は、この多様性という曖昧な用語を組織の中でどのように捉えて行ったら良いのか、より詳しく理解することを目的としています。(日本という国だけに絞った多様性の議論は、前にこちらのブログで触れていますので是非。)

多様性と聞くと、いろんな疑問が出てくると思います。

「多様性って、いいの?悪いの?」

「多様性が必要とされているなら、違った人が多く集まった方がパフォーマンスが上がるのではないか?」

「でもいろんな人が集まったら、衝突も多く起こりそう。」

「似通ったもの同士で集まったら、組織としては上手くいかないんじゃないか?」

今回は、これらの疑問に対して、前半では今まで学術的に明らかになっている点をまとめ、そして後半ではこれから明らかにされていくべきであろう展望について、まとめたいと思います。

心理学の文献を読んでみると、次の結論にたどり着きました。

「組織における多様性は良いものなのか?というシンプルすぎる問いからまずは脱却すべき」

どういうことかというと、より的確な問いとは

「どのような多様性がどのような状況でどのようなタスクにおいて良いのか悪いのか」

というように、パターンに分けて考えた方が良いということです。

そこでまず、学術的によく使われる多様性の定義を最初に提示してしまうと

「人が他人と自分は違うと判断するときに用いる特徴の違い」です。

この定義からは人が「何をもってして」他人と違うと判断するかについては読み取ることができません。

けれどこれこそがミソであり、今までの学術的研究から明らかになってきたのは、

「多様性の種類によってチームパフォーマンスにおける効果は変わってくる」ということです。

以下、多様性のタイプ別にどのようなことがわかってきているかをまとめたいと思います。

年齢・ステータスの多様性

Furtune 500の31社のトップマネージャークラスを対象とした研究報告によると、年齢やステータスの違いは退職率と相関関係があったと言います。チーム内での年齢やステータスに差がありすぎると、年上が社会的な距離感を感じてしまいより早期に離脱する可能性が高まりました。

性別の多様性

性別の違い(チーム内での性別間のバランスの欠如)は、他の要因に比べてチームの生産性をそこまで下げないことが報告されています。しかし、異性に対しての偏見やステレオタイプによって精神的なストレスを与える可能性はあるでしょう。

人種の多様性

人種の違いは、一般的にチーム内での衝突を生むことが報告されています。人種の違いは職場満足感の低下と関連しており、また仕事とは関係のない感情的なストレスを生むことも報告されています。

価値観や信念の多様性

価値観や信念の違いはチーム内の軋轢を生み、退職率や職務満足感の低下などと関係があることが多く報告されています。

スキルや専門性の多様性

スキルや専門性の違いも、作業中に軋轢を生むことが報告されています。しかし、ここでの軋轢はネガティブな意味ではなく、その後の生産性にポジティブな影響を与えることがわかっています。高い専門性の融合は、よりクリエイティブな解決へと導いてくれるということです。


以上の多様性の区別が大まかなところですが、さらに大枠に分けて二つのタイプの多様性に分けられます。

表面的な多様性

一つは、性別、人種などの見た目による多様性です。これらの特徴は、観察することが容易であり一般的に多くの人が他人と区別するために使っている特徴ではないでしょうか。

内面的な多様性

二つ目は、価値観、スキルなどの多様性です。これらの多様性は、観察することがより難しく見落としがちな部分であると思います。

これらの多様性において言えるのは、「表面的な一体感よりも内面的な一体感」の方が組織において大きな影響を与えることが知られています。つまり、表面的なマッチングを目指すよりもより内面的なマッチングに重視した方が、組織にとっては高い効果が期待できるということです。ただし、スキルや専門知識などは多様性を担保した方がより効果的な結果に結びつくでしょう。

また、多様性に関するスキルや専門知識においても、さらに2パターンに分けられます。

単調な作業

事務職などの創造性を要さない、より単純な作業においては、チーム内のスキルや専門知識は似通っていればいるほど良いということが報告されています。

クリエイティブな作業

より柔軟な作業が求められる場面においては、スキルや専門性は違っていればいるほど良いということがわかっています。この場合、経営陣やデザイナー職などが当てはまるでしょう。

以上のことを大まかにまとめると、

「人種などの表面的な違いと価値観の違いはネガティブな効果を生むが、専門的な知識やスキルの違いは生産性を生む」

ということが言えるでしょう。

一般的に、メディアが「多様性」という言葉を用いるとき、人種や言語などの表面的な多様性に目が行きがちです。しかし、これら表面的な多様性は組織にとっては悪影響である可能性が高いことがすでに研究されています。

ドラクエに例えるなら、全員戦士のチームで固めるよりも、戦士、魔法使い、僧侶など、様々な職業を組み合わせた方が良いが、さらにそれぞれのメンバーの価値観は統一されていた方が良い、ということです。

これからの展望

これまでの学術的研究は、多様性という言葉を一括りで語るよりも、より複雑なパターンに分けて考えていった方が建設的だということを明確に示してくれています。しかし、まだまだ解明されていないことがたくさん残っています。

例えば、スキルの多様性は単純作業ではあまり効果を発揮しないように、タスクの種類によって多様性の効果は違ってくるという点です。しかし、世の中に存在する様々なタスクにおいてパターンを一つ一つ調べていくというのは、測定できるだけのテクノロジーの発達が欠かせないものであり、まだまだ未知の領域といえるでしょう。けれど、現時点で明らかにされていない事実そのものは、多様性の効果の否定にはならない事も覚えておく必要があります。

また、多様性の組み合わせも今までの研究では「性格」「価値観」「宗教」と一括りにされがちでしたが、より細かい組み合わせによって多様性の効果は変わってくるかもしれません。例えば、性格に絞ってみても、内向性x外向性 の組み合わせと 個人主義x集団主義 の組み合わせは、それぞれ微妙に違った効果があるかもしれません。カトリックxイスラムの組み合わせと 仏教xイスラムの組み合わせでは、違った効果が現れるかもしれません。このように、より複雑なパターンに分けて多様性の効果を解明することは、まだまだ時間がかかるでしょう。

以上、多様性について今までの研究内容と今後の展望をざっくりとまとめました。

一つ確実に言えることは、「多様性」という言葉を用いる際には、どの多様性を指しているのかを意識することがより深い理解につながるのではないでしょうか。

元記事

引用:Mannix, E., & Neale, M. A. (2005). What differences make a difference? The promise and reality of diverse teams in organizations. Psychological Science in the Public Interest, 6, 31-55.

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