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地球が小さく感じた

UAEに引っ越した

2023年の8月に、アラブ首長国連邦に引っ越した。アメリカでの長い博士課程を終えたあと、学者一発目の職場が、中東の地、UAE。ここに至った経緯と、今の所感じたことを書いてみる。

経緯

面接で意気投合し、この場所なら良い研究ができるだろうなと感じた。ボスのプロジェクトベースのポジションではなく、かなり自由にやらせてもらえる感じだったし、世界中から集まる研究者と交流がしたかったので、大学の環境に対しては良い期待しかなかった。社会心理学の分野は比較的小さかったが、今から盛り上がっていくような活気が感じ取れたので、自分にはそういう小さい場所の方が合っていると感じた。オファーをもらった時点では、米西海岸の某有名大学の面接が残っていたが、こちら側のオファーを迷わず承諾した。「グローバル人材になる」という夢に近づくには、アメリカに留まるよりも自分にとっては必要な場所だと感じた。

9割が外国人の国

自分の予想は当たっていて、大学の環境はものすごくグローバルだ。アメリカ人はむしろ少数派で、多くの教員はヨーロッパやアジア各国から移住してきている。大学に限らず、国全体の9割近くが駐在員や移民で成り立っている国だ。外国人として暮らした経験がある自分にとっては、「外国に住める」マインドを持った人間のコミュニティの一員になることを想像した時、これは自分にあった環境であるに違いないと確信した。楽しみしかなかった。

立地も良く、アメリカよりも断然、簡単に行ける国が多い。ヨーロッパまでは9時間以内、日本までも直行便10時間という好立地だ。今年はアメリカ、スイス、ドイツ、間に日本帰国を挟みつつ、インドネシアに出張に行こうと思う。UAEにいると、地球が小さく感じる。

税金がない

UAEには所得税がない。法人税が最近やっと始まったくらいだ。

自分みたいな雇われ労働者にとってはタックスヘイブンである。一度経験してみると、何に使われているか分からない高い税金を払うことが馬鹿馬鹿しく思えてくる。税金を納めることを想定した経済ゲーム実験などが心理学では行われることがある。でももし「税金のあるゲームと、ないゲーム、どっちに参加しますか?」と聞いたら、普通の人間なら後者を選ぶに違いない。

2023年を表す漢字が「税」だった日本と比べれば度肝を抜かれるかもしれないが、これがオイルマネーの力。

ベンジャミン・フランクリンの「この世に確かなものは2つだけある。死と税だ。」という明言があるが、税が無くても成り立つ国が存在するとは彼には想像もできなかっただろう。

規制は多いが、人はリベラル

一応中東に位置し、イスラムが主要宗教の国なので、しちゃいけないことは結構多い。大学でもプロテストはダメだし、派手すぎる私服は場所によっては入れない所もある。大学の雰囲気は、アメリカの大学とほぼ同じ。ただ、モールなんかに行ってみるとほとんどが旅行者か外国人だし、基本的には西洋の街中という感じ。宗教よりもグローバル経済を優先しているのが目にみえる街中だ。喫煙者も多いし、高いが酒も売ってる。女性も自由な服を着てる。そもそも外国人労働者には結構めんどくさい手続きがあり、変な人間は入ってこれないようになっている。規制が厳しくても、安全が保てるなら大歓迎。表向きの規制はあっても、守っていないことも結構多い(ここには書けない)。実際に住んでみて初めて、統計や書面だけでは見えない部分が見えてくる。

圧倒的な雇用力

全体的に、ホスピタリティの高い国だなと感じた。多分その原因は、圧倒的な雇用の数だろう。他の国と違う点の一つは、圧倒的な人的資本だと思う。

まずオリエンテーションで驚いたのが、不必要なまでの部署の数だ。メディアから出張オフィスまで、起こりうる問題に対処するためにあらゆる部署が存在している。それぞれやるべき仕事が割り振ってあるから、研究者は研究だけしてればいいし、教員は授業だけ教えていればいい。効率的なのは言うまでも無い。

何か問題が起きたらその度に新しい部署ができるのではないか

オタクの同僚に連れて行かれたコミックコンでは、来場者とスタッフの比率が1:20くらいだった。これはUAEであるイベントのあるあるらしい。普通のレストランに入ってみては、各フロアーにマネージャーらしき人が配置されてる。これは、人を雇用できるほどの資金力があればこその話だが、とにかく人手が十分であればホスピタリティは高く保てるのだと思う。

ほぼスタッフしかいなかった
英語の漫画が売られてた

圧倒的資金力でエリートをさらにエリートに

手前味噌だが、自分の大学の教育水準はとても高いと思う。驚いたのが、授業で扱う書籍の質。経済学では国富論からウェーバーまで、しっかり古典を読まされる。どうやら全ての本はタダで支給されるらしい。これなら、教員もガンガン課題図書を与えることができる。自腹で買わなければいけないアメリカの大学でこれくらいの図書を課したら、即クレームが来るだろう。自分は授業を教えていないが、この大学で教えることができたらとてもやりがいがあるだろうなと感じる。

経済学の古典
おそらく心理学のイントロレベルで扱う本

教育とは、格差を縮める事ができる優れた社会制度であったはずのに、ここではエリートほどコスパの良い教育を受けられ、格差は広がるばかりである厳しい現実がある。実際、質の高い高等教育はそれなりにコストがかかってしまう。ただ、この環境で鍛えられた学生は世界規模で必要とされる人材に育つことはほぼ間違いない。ここで得た経験を何千倍と地球に還元して欲しい。

教育は、世界を変えるために使える最も強力な武器だ

夏以外、過ごしやすい

夏は暑くても砂漠気候だし、乾燥してたら大丈夫だろうと思っていたら、東京以上に暑く、東京以上に湿度が高かった。全然乾燥してない。

これは9月くらい、湿度70%

冬はとても過ごしやすく、常に23−25℃を保っている。雨も降らないし、風も強く無いので、基本天気、夏以外の気候は完璧だ。初めて1年通して半袖だけで過ごせるかもしれない。ただ基本、夏は暑いからみんな母国に帰るか、好きな国でリモートワークをするみたいなので、結局夏が暑くてもあまり問題がない。

とてもいい国

何一つ不自由なく過ごせているし、住む環境としても何も不満はない。あらゆる面においてチートで、他の国が参考にできる部分はほぼないが、こういう国に一度住める経験をさせてもらっているのは、とてもラッキーなことだと思う。もしUAEで働く機会があれば、100%おすすめします。

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