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税務実務気まぐれ日記 #12(租税法の大原則と実務)

※この記事は約1,000文字の日記のため目次は入れていません。

日頃、さまざまな案件に忙殺されていると、租税法の大原則から税務実務を考える機会がほとんどない。そのため、試験で習った計算や理論、実務よりの専門書、通達などに沿った形のいわゆる通説というか標準思考に基づいた形で業務を行うことが多い。
このような標準思考に基づくルーティンワーク的な働き方は、業務の効率化という意味では望ましいのかもしれない。ただ一方で、税務の専門家の働き方としては疑問に思うことがある。

木山泰嗣先生は税法独学術という本の中で、このような標準思考は「資格試験の勉強をして、税法にかかわる専門性を獲得された方に、生じがちな現象である」としている。

実際、試験を受けた身からすると、テキストの暗記からはじまり、いかに標準思考で他の受験生も書きそうな答えを答案用紙に書くかということを重視してきたので、木山先生のご指摘は否定できないと思う。
だからこそ、今一度立ち止まって、試験勉強的な観点からではなく、租税法の大原則から税務実務について考えてみることも重要なのではないかと思っている。

私の最近の標準思考の例をいうと、今年の2月ごろに話題になった信託型ストックオプションのときが標準思考に固まったいい例だと思う。

この信託型ストックオプションの課税上の取り扱いについて、国税庁の見解がネットなどで取り上げられてから、国税庁が正式にQ&Aを公表するまでは結構なタイムラグがあった。
ただ、その間、クライアントからは見解を知りたいと頼まれたため必死に調べるということをした。そもそも、この件に関しては比較的新しい論点だったことから標準思考のようなものはなく、顧問先からの質問に対応するためには条文や論文などを読むしかなかった。
そして、その中で、国税庁の見解が租税法の大原則である憲法84条の租税法律主義に反しているのではないかなどと社内で上司や同僚と議論をして、さまざまな角度から検討を行ってあくまでも参考としてということで見解を出すということをした。

今思い返すと、標準思考にとらわれずにひたすら検討するというとても貴重な経験だったと思う。

しかし、その後、国税庁からQ&Aが出されたとたん議論をほとんどしなくなったということがあった。

これは、私が日頃から通達に沿うように税務業務を行なっていて、その時もQ&Aが出た途端に解答が出たと思い込んで思考停止に陥っていた、いわゆる標準思考の代表例だったように思う。

もちろん国税庁からQ&Aが出されて以降、クライアントの関心が信託型ではなく、税制適格ストックオプションに変わったことも大きく影響している。しかし税務の専門家としては、租税法の大原則に戻って、そもそもQ&Aに問題がないのかなどを考える必要があったのではないかと今振り返ると思う。

このように、税務実務上の取り扱いを、標準思考から離れて批判的な視点から検討してみることも重要なのではないかと考えたりする。
もっというと、これから数十年、税務に関わる可能性があることを考えると、試験で身につけた標準思考の知識を食い潰す生き方をするのではなく、改めて体系的に学問としての租税法を勉強する機会を設けることも必要ではないかと最近は考えている。

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