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問いかけから始まる、「自分の言葉」でプロジェクトの進め方を表現する本

23年8月1日に新著『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本』が刊行されることになりました。この記事では、「想定読者と目的」、「目的を実現するための工夫、特徴」に分けて紹介致します。

想定読者

本書は、プロマネになるべくして、正統な学習(PMP資格取得など)をしている方は対象としていません。
どちらかというと、プロジェクトマネージャやリーダーになろうなどとは考えていない方。ルーティンワークのなかで、たまたま、あるプロジェクトを任されちゃった人を対象にしています。
任されちゃったプロジェクトは新製品の開発、新制度の策定、新しい手法やツールの導入など、種類も規模も様々です。
こうした方々は、プロマネの教育を日ごろから受けているわけでもなく、プロマネになろう・なりたいと思っていないですから、自分で学習や経験を積もうとしているわけでもありません。
本人にそのつもりがないのですから、これは至極まっとうなことです。ちなみに、私もまたそのようにして生きてきた人間で、自分がプロジェクトマネジメントに関わる仕事をしたいと願ったことはありませんでした(今も、そうです)。
このような方々にとっては、正統な資格を取得する金銭的・時間的コストは高く、自分のプロジェクトやキャリアプランには見合わないのです。

本書の目的

そこで、できるだけコストを抑え、プロジェクトという「やったことのない仕事」の仮説・計画立案や、共に活動する他者(プロジェクトメンバーやクライアント)と合意形成して進めていくための思考の方、原則を身につけていただこうというのが、本書の目的です。

目的を実現するための工夫

この目的を実現するため、本書に5つの工夫をこらしました。

  • 架空のプロジェクトを題材にする

  • 対話形式の採用

  • 問いかけリスト

  • プロジェクトドリル

  • 問題症候群マップ

これはそのまま、これまで出したプロジェクトの書3部作との違いになります。

架空のプロジェクトを題材にする

本書では、AI会議Saasを運営する企業とそのサービスのクライアントが登場します。
ある一つのプロジェクトでも、立場や役割によって複数のテーマも規模も異なるプロジェクトが存在します。プロジェクトマネージャーはサービス全体のプロジェクトを広く遠くまで見る一方、あるメンバーは近くの新規見込客獲得のプロジェクトに集中しています。あるメンバーと他のメンバーは、相互に関係し合うプロジェクトを分業しています。
上記のSaasはこのプロジェクトメンバーにとっては目的そのものであっても、このSaasを手段として用いるプロジェクトがあります(Saasのツールベンダーにとっては顧客)。
プロジェクトを任されちゃった人が遭遇するであろう状況や問題を少しでも多く、かつまとまりのある形で扱えるよう、下部のような架空の設定を設けました。

なお、描ききれなかった顧客とツールベンダーのカスタマーサクセスのストーリーは、下記のnoteにスピンオフ企画として掲載しています。

対話形式の採用

上述した読書像と、様々なプロジェクトの進め方の勘所や注意点を伝えるにあたり、採用したのが対話形式です。
これは出版社の編集者からの注文でした。対話形式のほうがわかりやすい、読書にスッと入ってくる、ということで、そう言われてみればなんとなくそんな気がします。ただ読みやすい気がするものの、それが書籍内容の理解を促すかどうかはわかりません。
漠然と読みやすいからという理由で対話形式を採用したくないと思っていたのですが、個人的な経験から「こういう形なら対話形式にする効果・意味がある」、というものがありました。

それが「問いかけから始まる対話」です。
なぜ、問いかけから対話を始めるのかということについて、少し長くなりますがその経緯をお伝えしたく存じます。

私は2018年の書籍刊行依頼、平日早朝にプロジェクトの進め方をプ譜で構造化する「プロジェクトカウンセリング」という活動を続けています。
当初は、相談者がプロジェクトの進め方をプ譜に書いてきて、書き方についてわからないところがあれば、それに対してアドバイスをするというものでした。ところが、ほとんどの人は書き方についての質問をしてきません。
では、なぜ私に相談をするかというと、最も多いのが「勝利条件を決められない」「勝利条件がこれでいいのか、わからない」といった「勝利条件」に関するものでした。

勝利条件とは、「そのプロジェクトがどうなったら成功と言えるか?」という成功の定義のことを言います。
プロジェクトを任されちゃった人、しいてはプロジェクトを任せちゃう人の特徴として、プロジェクトそのものは与えられるものの、勝利条件は与えていない、もしくは考えていないということが非常に多いです。
しかし、勝利条件はプロジェクトの進め方を規定するものであり、その表現によっては進め方をガラリと変えてしまうものです。

このような人に「成功の定義はなんですか?」と質問しても、出てくることはほとんどありません。会社からある日とつぜん、成功の定義が抜け落ちた状態でプロジェクトを与えられたら、出てこなくても何もおかしくありません。
勝利条件は自分で考えて表現する必要があります。

なぜそのプロジェクトが起案されたのか?
プロジェクトを成功させて、プロジェクトに関係する何がどう変化していれば成功と言えるのか?
誰・どこ・何にどんな兆候・サインが出ていれば成功しそうか?
あれこれ手を変え品を変え、異なる視点からプロジェクトを任されちゃった人が自身のプロジェクトの勝利条件を、自分の頭で考えるよう、問いかけによってそのスイッチを入れていきます。

ここで行っていることは、問いかけと対話によってプロジェクトの勝利条件を言語化することです。
本書の対話パートは、常に問いかけから始めることで、読者の方にもストーリーの登場人物に成り代わって考えてみることや、実際に自分のプロジェクトの仮説・計画を自分の言葉で表現するときの例としていただくことを企図しています。

問いかけリスト

この言語化を助けるための道具として本書の巻末に「問いかけリスト」を収録しました。
このリストは私がプロジェクトカウンセリングや企業研修・ワークショップ等で実際に使用してきたものを収集・分類したものです。
私のプロジェクトカウンセリングやプロジェクト支援活動では必ずプ譜というフレームワークを用いてプロジェクトの進め方を構造化します。
フレームワークはどこに何を記入するかが決まっているため、なんとなく枠を埋めることはできますが、それは自分の言葉で考え抜いて、自分の言葉で表現しているとは限りません。
枠を埋めることを慌てず、リストにある問いかけを用いて、自分の言葉を見つけるのに役立ててください。

プロジェクトドリル

本書ではプロジェクトの仮説立案や進め方の原理や技法・勘所を紹介していますが、そうしたものを任されちゃったプロジェクトに着手する前に、練習用のプロジェクトで試すということはほとんどできません。
そこで、少しでもこれらのものを疑似体験するためのドリルが度々登場します。
ドリルは実際のビジネス事例や漫画、歴史、スポーツなどを題材に私が所有する200近いドリルから本書の内容に合う形で選んでいます。プロジェクトの事前トレーニングとして取り組んでみてください。

問題症候群マップ

この地図は私が支援したり見聞きしたりしてきたプロジェクトで発生・遭遇した問題を分類・整理して可視化したもので、医療の世界で用いられている病態関連図から着想して制作しました。
問題は単独の原因から発生しているのではなく、相互に関連し合っています。ある問題は別の問題の原因にもなり、ある問題が別の問題の症状を重くしてしまうこともあります。問題の原因がわかれば予防・対処のしようがあります。
本書ではプロジェクトの種類や規模、段階別によく発生・遭遇する問題を各章の冒頭に掲示しています。

以上の工夫をこらした書籍を、ぜひお読みください!

未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。