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【グランプリ受賞記事】僕らはひたすら草を土に置く #未来のためにできること

畑の傍らで生きる草花

 夏の農作業はほぼ除草という畑も少なくないが、僕らもひたすら草を刈った季節であった。そして、その大量に刈りとった草をこちらもただひたすら畑の土の上に置いていった。自然農界隈では、この作業を草マルチ敷きと呼んだりする。

ビニールマルチシートが貼られたレタス畑

 マルチというのはマルチシートの略で、よく畑にビニール製のカバーがかけられているのを見たことがないだろうか。あれのことである。雑草や害虫の予防になる他、畑の保水効果も期待できるので、マルチを利用する農家は珍しくない。このマルチをビニールではなく、畑で刈った草を敷いたのが草マルチである。

サトイモ畑の草マルチ

 草マルチはやがて茶色いワラになり、土に分解されていく。永い目で見れば草は栄養になるのだろうけれども、何よりも土がやわらかくなっていくのがよい。おいしい野菜づくりには、やさしい土が必須だ。また、畑に水やりしてから草マルチをすると、保水がよくなされて、さらに土が喜ぶ。

畑の害虫を食べてくれるテントウムシ

 土がよくなると、ミミズやテントウムシなどの畑をよくする生き物も増えてきて、畑がにぎわっていく。土の下が多様になっていくのだ。僕らはそんな地中のパーティーを夢見て、ひたすら草を刈っては野菜の傍らに置いていく。僕なんかは街でたくましく生きているイネ科の雑草群を見ると、無性に草マルチをしたくなるから、ほぼ職業病といってよいのかもしれない。

イネ科を中心とした草マルチ

 最近は地中だけでなく、地上のダイバーシティ(多様性)もにぎわってきた。農福連携といって、障害をお持ちの方々をはじめとした生きづらさを抱える仲間と一緒に、草を置いては未来の土を耕している。僕ら自身もまた多様であり、僕自身の中にも色々な僕がいるのだろう。

新たなる芽吹き

 年間でどれほどの草が破棄されているのか、僕にはわからない。しかし、今現在も大量の草がゴミとして捨てられているのだろうと思う。もしその草の一部をどこかの畑にそっと置くことができたなら、新たなよき未来が人知れず芽吹いていくのではないだろうか。

地上の多様な緑

 たった一本の草を土にそっと置く。

 そんな弱々しいはじまりの共生社会の実現があってもよいではないか。草マルチ敷きは夏の猛暑に少しやられてしまった僕にとって、ある種の祈りに等しい。

#未来のためにできること
#草マルチ #農福連携

この記事が受賞したコンテスト

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