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エスコートの流儀

 ワンコールで繋がった。男は前置きせずに切り出す。
「女を頼みたい」
『レファレンスはございますか』
「AAA-012」
『議員のご紹介でしたか。ご利用ありがとうございます。ホテルにご滞在ですか』
「プラザ。1905号室」
『お好みは』
「見てくれはこだわらん。いちばん上手い奴がいい」
『……では七つ星、最高ランクのテクニシャンが一時間ほどで伺えます』
「じゃあそれで」

 きっかり一時間後にチャイムが鳴り、女が招き入れられた。美しいボディラインが際立つ白のカクテルドレス。長い脚の先で輝く装飾的なパンプス。世間の男たちが抱く理想を現実にしたようなブルネット美人だった。きっと五十年前は。それくらい老けている。汚く言えば、クソがつくババア。
「マンハッタンの歴史を知るいいホテルだったのにね」
 女はコンテンポラリーな室内を眺め、惜しむように言った。男は無言でドアに鍵をかけると懐からナイフを取り出し、女の背中に襲いかかる。女は電光石火の体捌きで振り向きざまに男の喉を突き、いとも簡単にナイフを奪いながら側面を取ると素早く三回刺した。男は死に、ドレスには血の一滴もついていない。
「覗きが趣味かい?」
 女は不愉快そうな顔で言った。一瞬の間があり、隣の部屋から身なりのよい少年が姿を現わした。
「すごいね婆さん。その人に決めかけていたのに。レベルが違う」
「お試しは別料金。部屋のクリーニング代もそっち持ち」
「いくらでも」
「ふん。で? 誰を殺したいの。ミドルスクールのいじめっ子だとか言わないでおくれよ」
「……僕の父と、そのファミリー」
 憎悪に燃える瞳を見て、女の眉が微かに動く。
「長い仕事になりそうだ。教え込むことも多くなる」
「教える?」
「聞いていないのかい、紹介者から」
「殺し屋でしょ? 雇うよ」
 女は鼻息を漏らし、血濡れたナイフを少年に手渡す。
「私はエスコート。手を下すのはお前」
「……え?」
「男だろ。安心しな、最後まで付き添ってやるから」

【続く】

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