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法制審議会家族法制部会第36回会議議事録読む3~大石委員・棚村委員

議事録読み再開しよー、ようやく!

違法な助言撲滅を祈願しながら


○大石委員 

委員の大石です。ありがとうございます。この項目について三つ意見を申し述べたいと思います。
  まず、第1の(1)の子の意思に関してなのですけれども、正直なところ私自身は迷っている部分もありまして、こどもに意見を求めてその結果を押し付けるのは非常に酷であるという御意見もあるのですが、多少パターナリスティックすぎるといいますか、佐野幹事がおっしゃったように、そういった懸念なしに意見を表明できる体制を求めるということが重要なのではないかという意見は、非常に納得できるところがあると考えております。その一方で、この中になじみがいいのかという御意見にもある面、賛同する部分もありまして、ですので、私たち自身は後ほどの附帯決議のところにその項目について入れそびれていたのですが、何かそういった形で扱うことができないかと考えているところです。
 2点目は、人格の尊重という言葉です。これは(1)だけではなく(2)にも出てきておりまして、先ほど原田委員がおっしゃいましたように、そういう規律を設けるのであれば、例えばDVの事案などというのは、子の安全・安心という利益を損なう行為であり、互いの人格尊重という規律に反する行為であると解釈できると私も考えております。と同時に、戒能委員の出されたような懸念や問題が生じるような運用にならないようにと希望しております。
 それから、3点目は(1)の、その子が自己と同程度の生活を維持することができるようにというところですけれども、これは養育費の水準設定ですとか支払義務についての根拠になる規律であると私は理解しております。と同時に、落合委員が先ほど指摘されていましたけれども、自己と同程度の生活というのが、例えば貧困水準を割り込んでいるといったようにこどもが育つのに不十分な水準である場合に、社会あるいは国がそれをサポートすることを排除するものではないということも、強調しすぎることはないと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。大石委員からは3点御指摘を頂きました。1点目は子の意思について賛否両論、双方からの見方を示していただいた上で、最後に、附帯決議での対応もあり得るのかもしれないといった御意見だったと受け止めてよろしいでしょうか。
○大石委員 はい、そうです。
○大村部会長 ありがとうございます。それから、2点目は人格の尊重ということについて、先ほど原田委員が述べられたような解釈を採った上で、出てくる懸念については適用で対応していく必要があるということだったかと思います。3点目は、余りこれまで発言が出ておりませんけれども、自己と同一の生活ということについての御理解を示されたと受け止めさせていただきました。
 以上で一応、前回の最後に残っておられた方々の御発言を伺ったと思いますが、もし指名漏れがあれば。棚村委員、ごめんなさい、前回手を挙げておられましたか。それとは別にということですか。

人格の尊重は大事よ

○棚村委員

 はい。
○大村部会長 分かりました。棚村委員も含めて、第1について、もし更に少し発言したいという方がおられたら、前回からの持ち越しの方々の発言に限定するという趣旨ではありませんので、御発言を頂きたいと思います。
○棚村委員 民法の研究者ということで、子の意見について見解を述べさせていただきます。
 池田委員がずっと主張されてきているように、児童の権利条約の第12条とか、2023年4月から施行されたこども基本法というところにも年齢とか成長発達の程度に応じたこどもの意見表明権を尊重するということが規定をされていますので、私自身も、当初は、暮らしの基本法である民法の中に何らかの形で入れた方がいいと考えてきました。
 基本的には、子の意見に関する規定を入れるかどうかという議論をするときに、どこにどういうふうに入れるかということも含めてですけれども、大きく分けると二つの考え方があると思います。離婚後の親子法制の問題でも、例えば離婚時の情報提供とか親講座、それからこどもの養育に関する合意の義務化とか、これを協議離婚制度の中で実現すべきだという意見がかなりあって、私も当初そういう考え方だったのです。つまり、こどもの意思とか意向とか意見というのを尊重すべきだという理念を尊重し、規定をとにかく作っておいて、その支援とか運用とかそういうことについては、ある意味ではこれをスタートとして方向を定めていくという考え方が一つあったわけです。いわゆる、理念・規定先行型という考え方です。
 これに対して、もう一つは、正に離婚時の情報提供とか合意の義務化のときに、協議離婚という制度が余りにも重くなるのではないかという懸念と、その内容とか、誰がどういうレベルで実施するかという具体的な環境とか基盤を整備しないと、結局その規定だけを設けたとしても、紛争の本当に解決とかプラスになっていかない問題点があるということで、ある意味では環境整備とか条件や基盤を充実させてから規定をきちんと置こうという考え方があります。基盤整備先行型といいますか。
 今はどちらかといいますと、子の意見については、水野先生も多分そうだと思うのですけれども、一般的な理念的な面で規定を置くということ自体の意義を否定するという人はいないのではないかと思うのです。ただし、その環境整備とか具体的な支援策みたいなものまで整えないと、法の規定だけを先に置いても、どの場面で誰がどういうふうに聴いて、どういうふうにそれを生かしていくかということも含めて考えると、今の段階では少し難しいかなという御意見ではないかと思うのです。私は、今回はこれに賛成をします。
 なぜかといいますと、海外でこどもの意見表明権とか意向とか心情を配慮するというときに、非常に細かく場合を分けています。つまり、問題が起こる前の基本原理としてそれを入れていくということについては、ほぼ問題がありません。ところが、紛争が起こったときの解決基準とか考慮事項ということになると、親も含めて、子の意見をどのように扱うべきかについては少し慎重な対応が必要ではないかと考えます。繰り返しになりますが、こどもの権利を誰がどういうふうに守っていくシステムにしていくかというときに、まず、どの場面で誰がどのようにこどもの意見を考えなければならないかという名宛人の問題です。先ほど石綿幹事からも言われたように、お父さん、お母さんに向けた話なのか、それとも司法の関係者とか社会全体に向けられた、こどもの意思の尊重の責務みたいなものを規定する場面で、果たしてお父さん、お母さんだけでいいのか、誰がすべきかという問題が出てくると思うのです。
 海外で参考になるのは、私もオーストラリアとかアメリカとかいろいろな国の実情や取組みを見たときに、こどもが意見を言いやすい環境や仕組みがどう守られるかということと、それから裏表一体になるのですけれども、それによってこどもが不利益を受けたり板挟みにならないための工夫や仕組みをどうするかということがポイントになります。そして、こども自身が手続に直接参加する場合に、どんな方法で参加を認めていったらいいのだろうかという、これは年齢とか発達の程度にも応じて異なるわけですけれども、そういう一つ一つの細かい場面や状況での配慮する仕組みや担い手などを具体的に考えてやって、30年とか40年の経験を持ったところですら、ある意味ではそれでもなお非常に悩ましいことが起こっています。
 私自身は30年近く家裁の調停委員をさせていただいて、両親が争いにお子さんたちを巻き込んでしまって、例えばお子さんのお手紙とか陳述書とかを用意されて、お父さんとは絶対会いたくありませんとか、お母さんのことは顔も見たくありませんとか、そういう手紙を見せられたときに、調停委員としても、それから担当する裁判官もそうです、調査官もとても心が痛いのです。なぜかというと、こどもの意見というのはすごく大事にして、こども自身の思いというのを誰かが届けなければいけないはずですけれども、争っているお母さんやお父さんにその役割ができるのか、もっと安心して言える誰か、届けてくれる人とか、きちんとそれを確認してくれる人に安心してこどもが言えるような環境とかそういうものがないと、かえってこどもにとっては本当につらい状況が生まれてしまうのではないかというのが、私は水野先生が一番言いたい趣旨なのではないかと思うのです。
 そこを考えると、とても悩ましいのですが、理念・総論としては規定を入れることに反対はしません。ところが運用として、では具体的に紛争が起こったり何かしたときに、どういうふうに誰がどんなふうにこどもの意見の確認をしてやるのかとか、支援をどうするのかというと、もし規定を先に入れることのメリットと、デメリットを考えに入れるとすると、どうすべきかでは迷ってしまいました。先ほどから附帯決議とかというところでもいろいろ出てくるのですけれども、この問題については、誰に向けられたルールなのかということをはっきりさせないといけないのではないか、逆に言うと、お父さんやお母さんがそれを受け止めて実現することがなかなか難しいのがこどもの意見なのではないかと考えるに至りました。つまり、適切な第三者がきちんとした形で、社会的養護の計画とか一時保護とか、そういうところもそうですけれども、こどもの意思について、こどもの権利擁護についての支援員みたいなものを用意し、具体的な要件や考慮の方法も含めて実施要領とかいろいろなものを厳格に定めた上で、中立公正にそれを何か確認できるような人たちをきちんと確保するような努力をし、海外のように何十年か経験と蓄積を積み重ねながら、ルールとかガイドラインとかを形成しなければうまく法律の規定は機能しないのではないかと危惧しています。それから、オーストラリアの裁判所で裁判官がチェインバーという私室に呼んでお子さんの意見を聴くという場面も見させてもらったのですけれども、その裁判官が言っていたのは、普通の裁判官とかそういう人にはできませんよということを言っていました。30年とか、ワンファミリー・ワンジャッジみたいな、そういうところでなくて、転勤をしていっていろいろな裁判所も回るローテーションシステムのところでそれを実現するのがなかなか難しそうだなと感じました。まずお子さんの目線に立って、しゃがんで、怖がらせないようにこどもの目線に立って、経験豊富な裁判官が研修やワークショップに参加してスキルを磨き行っていました。
 私自身は、たくさん言うことがあるのですけれども、そういうことを踏まえても、理念としては置くべきだという考え方については非常に共感を覚えます。ここから仕組みをいっぱい作って、きちんと強化してくのだ、予算を付けてというようなことが実現しそうであれば、子の意見の規定化に賛成しようと思ったのですが、今回の盛りだくさんな改正のなかで、いろいろなことに多くの支援や手当が必要だと思っているので、今回については、離婚後の講座とか情報提供と同じように、運用とか支援についてしっかりとした環境整備とかそういうものをした上で導入をしていくということに現段階では賛成をさせていただきたいと思います。
 池田委員とは研究会とかいろいろなところで議論をしていて、ほぼ考え方としては同じ考えを持ち、佐野幹事とも皆そうなのですけれども、私自身は、子の意見の問題については、離婚後講座とか情報提供のときもそうだったのですけれども、最初は入れるべきだということで積極的発言をしていました。途中でころっと変わったというのは、逆に言うと、むしろ情報提供の内容をどのレベルで誰がどんな形でするかというのを今、法務省も含めていろいろ作業をさせていただいている中で、法律の中に条文を入れる前にやらなければいけないことがこどもの意見についてもかなりありそうだと考えている次第です。特に、お子さんを巻き込んでしまうとか、巻き込まれないような保障みたいな、不利益を受けないような保障、安心できるような保障みたいなものを確実に確保しておかないといけないという思いを強く持っております。そこで、安心してこどもが発言できる環境を整え、こどもが自分の言ったことで責任を問われない、不利益を受けないという条件整備もしないと、なかなか規定だけを入れたら、父母の争いの道具とされたり、板挟みにされかねないというデメリットの払拭までは自信がないので、やはりお子さんにとっていい方向に行かない可能性があるのではないか、次のステップにきちんと力を入れていくという前提で、現段階では入れない方がよろしいのではないかという意見を述べます。
○大村部会長 ありがとうございます。棚村委員からは、先ほどから話題になっている子の意見について、現段階ではということでしたが、見送った方がいいのではないかという御意見を頂きました。それについて二つおっしゃったのだろうと思うのですけれども、一つは環境整備というか支援の問題ということで、これは何人かの方々が触れられていたことかと思います。それからもう一つは、どこにどのように入れるのかということで、これは石綿幹事がおっしゃっていたのと共通のところがあると思うのですけれども、法制度の作り方として、なお検討を要するところがあるのではないかということだったと受け止めました。

悪用の心配があるわけね

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