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藍羽放浪記6ページ目【小説】

どれくらい経ったのだろうか…

そんなことを考えながらゆっくりと目を開ける。

「これが…知らない天井ってやつか…」

どこかの小さい部屋の天井が目の前に映し出された。
ゆっくりと体を起こして辺りを見回すと、小さいテーブルと食器の入ったガラス張りの棚があるのがわかる。

部屋の大きさ的に店員の休憩所・・・といった感じだ。
僕はソファの上に横になっていたようで、少し腰が痛い。

ガチャ・・・

音のした方に目を向けると、この喫茶店の店主。ハンクの姿がそこにあった。

「おや。起きてたのか。突然ぶっ倒れるもんだからビックリしちまったよぉ~大丈夫そうかい??」

ハンクは心底安堵したといった優しい声で僕に話しかける。

「はい・・・まだちょっと体はだるいけど・・・大丈夫です。」

「そうかそうか!何か飲むかい?店は閉めちまったから、大したもんは出せねぇが・・・」

「あ、いえ。大丈夫です。」

「そう遠慮しなさんなぁ。こういう時は素直に甘えておいた方がお得だぞ~??」

「・・・では、暖かい甘いものが飲みたいです。」

「そうか!用意してやるから待ってな!!」


ハンクは僕がそういうとパぁっと顔を明るくして店の方へ出て行った。
グイグイ来るから苦手だと思っていたけど・・・
とても人情深い、いい人なんだな。

ハンクが出て行った後、テーブルの上に先ほどの指輪が置いてあるのが目についた。

恐る恐る手を伸ばす。指が触れる・・・


何も起こらない。


一瞬、あれは何だったのだろうと思ったが僕には心当たりがある。

「創作の具現化・・・」

外の世界で創作されたものが具現化している街があった。
誰かが創りあげた世界だと勝手に思っていたが、もしかすると

「ここは・・・僕の空想から生まれた世界・・・?」

一人で思考を巡らせていると、また部屋の扉が音を立てて開く。
ハンクがホットミルクを持ってきてくれた。
テーブルを挟んでハンクが椅子に腰を据えてマグカップを差し出して僕に話しかける。

「ほれ、地上の知り合いが教えてくれたホットミルクってやつだ。」

「ありがとうございます。いただきますね。・・・っ」

「はっはっはっ。お前さん猫舌ってやつかい?店終わってるからって急いで飲み干そうとしなくていぃ~よ。」

「あはは・・・ありがとうございます。」

「お、やっと笑った。よかったぁ・・・おじさん嫌われちまったのかと思っていたよ。」

「・・・グイグイ来る人でちょっと怖いかもとは思いました。」

「あちゃ。そうだったのかい。俺の悪い癖だねぇ。すまんすまん。」

「いえ、そんな!こうやって労わってくれるとことか、僕の気持ち組んでくれるとことかすごくいいですよ!!!」

「がはははは!!そんなに必死になんなくていいんだよぉ。そんでまぁ本田言っちゃ本題なんだが・・・何かあったのかい?突然ぶっ倒れて・・・」

「んー・・・それが、僕にも確証がなくて何とも言えないんですよ。」

「ん、そうかい・・・そのまぁ、なんだ。困ってたら何でも聞くらよ。あんま思いつめなさんなよ。」

「ありがとうございます。・・・あの指輪。もしかすると知り合いの物かもしれないんです。」

「んあ?そうなのか。それならなおのこと持っていきな~・・・と言いたいとこだが、触って大丈夫なのかい?」

「実はさっき触ってみたのですが・・・何も起きなかったんですよね。」

「そんなら大丈夫か・・・?とはいえ、ちょっと待ってな。」

ハンクは食器棚を開いての奥の方を漁ると、百円均一にあるよな小さな箱を出してきた。

「落としたらまずいから、こいつに入れて帰んなよ。」

「あ、何から何まで・・・ありがとうございます。」

「おうよ!!もう行くのかい?」

「はい。ちょっと確かめないといけないことができたので。」

「さっき言ってた『確証がない』ってやつか。その指輪はお前さんの知り合いと関係があるかもしれないって話だし、悩みは早く解決するに越したことはないな。」

ハンクは少し寂しそうな声で話をする。

「・・・また来ますよ。コーヒー、ミルク。美味しかったですし、何よりハンクさんとまたお話がしたいです。」

「ありゃ、気ぃ使わせちまった。嬉しいこと言ってくれるなぁ。そんならまた来んさいな。」

「はい!では、そろそろ行きますね。」

「おう。達者でな!旅の方も楽しめよ!」

ハンクと店の外に出て握手を交わした後、僕はもう一度イルカのタクシーを捕まえて、一度恭赤の所帰ることにした。彼は僕の姿が見えなくなるまで外で見送りをしてくれていた。

「さて・・・恭赤にこっちで何があったか聞きださないとな・・・」

イルカに揺られながら、僕はそんなことを考えていた。

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