神様

続き。

ふたりが来てから三日後。
ある が吐くようになった。
正しくは、えづく。
えづいてえづいて液体しか出ない。
様子を見ていたけれど夜になり
ぐったりしてごはんも食べなくなった。

必死で夜間救急を探したけれど
近くにあったのは名前も知らない動物病院。
どんなところか分からないけれど
このまま見守るなんて無理だと思い
タクシーを拾って直ぐに向かった。

着いたのは、こんなところにあったっけ?
と思うようなところにあった動物病院で
薄暗くてなんだか怖い印象。
でも今はこんなこと言ってられない!
とすがる思いで重いドアを開けて入った。

助手のような方が検便と称して
うんちをとって隣の部屋へ行った時に
医師らしき人に

「アレはダメですね」
と言っている声が聞こえた。

耳を疑ったしたぶん聞き間違いだと思った。

まもなくして医師が入ってきた。
ある を見て

「普通はごはんを食べてたら体重は増える」
「これだけ個体差があるんだから何かあるでしょ」

と言い放った。
ある のことをきちんと見ずに捨てるように言葉を吐いた。
不安と焦りと怒りでグチャグチャな感情が爆発して

「そんな普通のこと分かってます!!でもどうしたらいいか分からないから来たんです!」

と大声で私は言った。
鬼の形相であろう私にその医師は

「分かってたらなんで来たの?」

と鼻で笑った。
死ぬのなんか見てわかるでしょうと言わんばかりに。

「もういいです!!!!」

と強制的に ある をゲージに連れ戻し
ドアを思いっきり押し開けて病院を出る私の背中に
その医師は

「はいはい。どうぞお帰りください~」

と笑っていた。
その時、感情が入り乱れていたにせよ
今考えてもなんであんな人が獣医師なんだろうと
疑問も怒りも拭えない。


雨の降る外でゲージを抱えて
出先のだんなさんに電話したところ
帰ってきてくれることになったので
到着までの間に、大きな夜間救急病院を探した。
少し遠いところに設備が整ったところがあり
そこへ行くことに。

1時間後くらいに病院へ到着。
まさに救急病院といった感じの病院で
待合室には私と同じく藁にもすがる思いの方が
愛する小さい家族と共にたくさんいた。

子猫ということもあってか
ある は早めに呼んでもらえた。
食べなくなった理由は、便秘がひどくなっているから。
下から出し切れないものを上から出そうとして
えづいているとのことだった。
とりあえず出来ることは、排便を促す点滴ということで
小さい身体に注射器を刺してもらった。


帰宅したのは午前1時。
いろんな疲れで、ぐったりした あると
一緒に連れていって心配と退屈で暴れ倒したい にこ
対称的なふたりを、それぞれに相手しながら
いつの間にかみんな疲れて寝てしまった。

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それから、ある は持ち直した。
点滴のおかげもあり少しずつ、うんちが出て
ほとんど垂れ流し状態だけれど
前よりはよく出るようになった。
ごはんも以前通り少ないものの
頻繁に食べるようになり
ほっと胸をなで下ろした。

のは、ほんの数日だった。
夜間救急に行ってから四日目。
お昼までは普通の下痢だったのに
夕方になって突然にダムが崩壊したように
ものすごい大量の下痢がでた。
点滴を打って排便を促してもらえたから
なのだろうけれど
どうしてもどうしてもそれだけだとは思えず
おしっこの色も、いつもより濃くなってきて
だんだんとなぜだか分からないけれど

あ。この子もうダメかもしれん。

と思うようになってきた。
一気に真っ黒い闇が追いかけてきて
逃げようにも逃げようにも
逃げられない感情が押し寄せていた。

これは待っていてはダメだ。
とすぐに車を出してくれる親戚に電話をして
もともと行くべきだった、こむききのかかりつけ医に行った。
いつもタイミング悪く行けていなかったが
初めからここに来ていれば良かったのだ。

·····またダメだと言われるんだろうな。
ともう何回目かの命の期限の宣告を
自ら予想するようになっていた。
ダメな母親だなとつくづく思う。
ある ごめんね。


順番が来て、あるを見た先生は

「ちっさいなー。ちょっと見てみようか」

と優しい声をかけてくださった。
そして今までの医師と違ったのが
ある の目線まで身体を落として
目を見て話をしてくださった。
ぷるぷる震える ある に向かって

「大丈夫大丈夫。ごめんね。怖いよね」

と何度も声をかけてくださった。


これももう何度目かの検便をして
初めて、あるの便秘の原因が分かった。
顕微鏡で見たら、うんちにたくさんの鉱石が混じっていると。
鉱石いわゆる石がたくさん腸に詰まっていて
それが通せんぼをして流れが悪くなっていると。
腸の始まりらへんから詰まっているから
恐らく前にいた家で、砂利のある床を舐めていたのか
猫砂を食べていたのか·····。
成分解析をしていないから特定は、していないけれど
ほとんどそういった原因かと思うとのことだった。

そしてひどい脱水症状をおこしているようで
これは下痢とごはんをたくさん食べられないことが原因のようだ。
おしっこの色の変化を見ていて良かった·····
と初めて自分にグッジョブ!!!と心で思った。
ちなみに、下痢は点滴の影響で点滴が吉と出て良かったね
と言ってもらえたので夜間救急にもあの日行ってよかった。

どうなるかは分からないし
もしかしたら先で何か病気が見つかるかもしれない
その時に育児放棄とかしないですよね?

と聞かれたので食い気味に

「しません!!!育てきります!!」

と答えた。
そしたら先生は、にこっと笑って
また ある の目線まで身体を落として

「じゃあ、もうちょい頑張ってみよか!」

と言ってくださった。
とりあえず脱水症状の緩和のために毎日、点滴に通うことと
腸の発育と状態が不十分なので
排泄をうまく促す繊維質の多いごはんに切り替えるのと
お薬も出してもらった。


次の日。
我が家に来てからちょうど1週間。
結果が顕著に現れた。

下痢がピタッと止まり
それはそれは立派なうんちをした。
それに今までと比べものにならないくらい
ガツガツごはんを食べるように。

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そして、生まれて初めて
自分で水を飲んだ。
思いっきり顔を突っ込んでしまい
ぷひっ!と言ったあとに
チロチロと少しずつお水を飲んだ。
こむきき用のお水は大きいので
にこある用に小皿にお水を入れると
頻繁に飲みに行くようになった。

胸がいっぱいとは、こういうことか。
と32年生きてきて初めての感覚だった。
暖かくきゅうっと心が締まるような。

続く

それではまた🐈

yuki

#猫 #ねこ #子猫 #猫のいる暮らし #日記

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