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暖を取りたいだけ


午後二時過ぎ。

太陽の日差しが入っていてぽかぽかと暖かい窓辺にあいつはいた。

相変わらずこの時間は眠たそうな顔をしているな、と目を細めて見つめる。

俺の視線を感じ取ったのか、あいつはそっぽを向いて丸くなる。

そのうち寝るんだろうな、羨ましい限りだよと心の中で呟く。

そんなあいつを尻目に、こっちはノートパソコンを取り出して仕事の続きを始める。

この部屋には時計がない。

だからキーボードをたたく音と、自分の静かな呼吸音だけが耳に入って来る。


三十分ほど経過した時、窓の方から控えめなくしゃみが聞こえた。

反射的にそちらに顔を向けると、あいつが背中を丸めて顔だけ横に振っている。

そしてまた先ほどと同じくしゃみの音。

……どーした、だいじょうぶかー

立ち上がって側に行くと、あいつは一度だけこちらを確認してまた顔をそむけた。

おい、きこえてるんだろ

その態度はなくない?

人差し指で背中をつんつんすると、あいつは気に障ったのか威嚇して部屋から去って行った。

……なんなんだ

頭をガシガシと掻いてノートパソコンのもとへ戻る。

確かに好かれてはいないと知っていたけれど、あんな態度をとられるとは思っていなかった。

あいつにとって俺は目の上のたんこぶ的な存在なんだろうなと考える。

急に一緒に暮らすようになった妙な男。

しかも彼女はだいたい俺と一緒にいるのだから、あいつにさいていた時間は確実に減ったし、なんなら給餌と外出時と帰宅時。

あとは、起きた時と寝る時の挨拶くらいか、と仕事をしつつ考える。

でも、と手を止めて考える。

彼女が言うには、あいつはかなりの甘えん坊らしく常に誰かの側にいるとか。

しかし俺がこの家に来てから数カ月経ったと思うけれど、そんな様子は一度も見たことがない。

甘えん坊はあれか、ビジネス甘えん坊だったのか?

それとも俺がいない時は、相変わらず彼女にべったりなのか?

考えてもしょうがないことなので、かぶりをふってまた手を動かし始める。



夕日が射してくる時間になると、心なしか部屋の温度が下がった気がする。

季節が変わったことを感じていると足下にふわふわした何かがあることに気がついた。

……?

そっと足下を覗いてみると、側面がくっつくかくっつかないか……いや、地味にくっつくくらいの場所にあいつが丸まって居座っている。

触るべきか触らないべきか迷っていると、バチリとあいつと目が合った。

椅子を少し引いて距離をとってみる。

目が合ったまま互いに動かない。

するとなにを思ったのか、あいつは一度その場で伸びてから俺の膝に乗ってきた。

意外と重いなと、少し表情に出てしまう。

あいつはそんなことは気にも止めず、そのまま膝の上で丸くなる。

よくわからないが、恐らくこれは降りていかないやつだと直感する。

俺は、取り合えずこのまま飽きるまで放っておこうと決めてまた仕事に戻った。



その後、帰宅した彼女の声を聞きつけると、あいつは爪を立てて俺の膝から降りていった。

俺とあいつの和解というか、ごく普通の生活というか、わだかまりのない日々?

それは、まだまだ先になるんだろうなと思った。






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