見出し画像

物語の種④

④『聖牛』

 その昔、大草原の村に齢八百を数える伝説の牛がいた。名は老々(ローロー)。村の人々からは<聖牛>と呼ばれていた。老々は孤独な牛だった。生まれてからこのかた人間に飼われたことはない。また、誰ひとり老々の過去を知っている人間はいなかった。
 王国に仕える侍女がいた。この侍女はもとは村の娘で老々の<秘密>を知っていた。その秘密とは――老々は伝染病を流行らせてしまう動物であるという。侍女は老々を王国の城に招き入れた。
 城内にはたちまち伝染病が広がった。混乱を治めようとした姫の側近たちは次々と病に倒れてしまう。妃の座を手に入れるという侍女の狙いどおり事は進み始めた。
 それでもしかし、王国の姫だけは<聖牛>の存在を信じ続けた。
 伝染病で多くの死者が出た。だが、王国の姫の命だけは守られた。なぜなのか――この姫の祖先(ルーツ)は老々だったのである。これこそ誰ひとり語らなかった”聖牛の秘密”であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?