小晴る

吉本興業所属の芸人。ちびっとブラジリアンなコントの子。不思議な子。 過去のネタをショー…

小晴る

吉本興業所属の芸人。ちびっとブラジリアンなコントの子。不思議な子。 過去のネタをショートショート風にして、だいたい毎週金曜日の夜にお届け中。

最近の記事

第38話 大学デビュー

茶色を基調としたチェックのワンピース、茶色のショートブーツ。丸いベレー帽からは三つ編みにした黒い髪が2束。 少女は両手を後ろで組んで、一歩一歩跳ねるように歩く。 田舎の高校を卒業して、今日からついに都会の大学生!…はぁあ…。ここが新しい学舎かぁ 。ステキ…。一体どんな出会いが待ってるんだろう。楽しみ! …きゃあっ! 何かに躓く少女。見ると、青々と繁った芝生の中庭で、一人の青年が、両手を頭の後ろで組んで仰向けに寝転がっていた。 あ、ごめんなさい!気持ち良さそうにお昼寝され

    • 第37話 怪盗

      繁華街から少し離れたところにある一軒の喫茶店。外に看板はなく、見落としそうなほど町並みに溶け込んだ店。中に入ると、少し照明をおとし、レトロな調度品が上品に並んでいて、落ち着いた雰囲気を醸し出している。 カランコロンカラン お手本のようなドアのベルがなって、黒いサングラスをかけた女が店に入ってきた。店内には客が3組。皆静かに午後のひとときを過ごしている。暇そうに掃除をしていた、アルバイトとおぼしき青年が女に声をかけた。 「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」 女はサングラスを

      • 第36話 スパイの拷問

        ギィィ… 重い鉄の扉が開き、髪を後ろに撫で付けたオールバックに、銀縁の四角いレンズのメガネをかけた細身の男が、暗い無機質な小部屋に入ってきた。 「ちょ、痛い痛い…」 男の後ろから、別の大柄な男に連れられて黒ずくめのスーツ姿の女も小部屋に入る。女は両手を後ろに括られていて、大柄な男がせっつくようにその身体を押す。女は苦痛に表情を歪めていた。 「痛い痛い痛いってば!」 女の剣幕に、大柄な男は手を離した。 「捕まってる側の分際だけど言わせて。あんた、ずっと私の足踏んでるから!このヒ

        • 第35話 いけにえの少女

          その村には鬼がいる。20年に一度、村で生まれた15歳の少女をいけにえに捧げることで、鬼の怒りを鎮め、村の平和が保たれるという。いけにえに捧げられた少女は、六畳ほどしかない狭い祠に入り、外に出ることは許されず、その命が尽きるまで、村の平和のため、祈り続けなければならない。 今年は、いけにえを捧げる20年の年にあたり、村に住む1人の少女がいけにえに選ばれた。少女が祠に入って一週間。 バタンッ 祠の真ん中で、いけにえの少女が倒れた。入学式の日、たった一回しか学校に着て行けなかっ

        第38話 大学デビュー

          第34話 人魚姫

          夕陽に照らされた浜辺。そこは海水浴場ではないようで、若い男と女が2人きり。男性はTシャツに短パン、ビーチサンダル。よく日に焼けた小麦色の肌にやや長い金髪。彼女の方は白いワンピースに麦わら帽。長い黒髪を潮風にたなびかせている。 「…そっか。直也、本当にサーファーになったんだ」 「おう」 「すごいよね。だって、ずっと憧れてたもんね。それで散々周りから「現実を見ろ」って言われててさ」 「そうだったな」 「私、アレ衝撃的だったな」 「ん?」 「高3の進路指導の時にわざわざ学校にサーフ

          第34話 人魚姫

          第33話 フリー楽器

          待ち合わせ場所の駅に少し早く着いたので、スマホをいじりながらぼーっと待っていた。 程なくして、待ち合わせ相手である友人の佳江(よしえ)が来た。 「おっすー」 「…ん」 おや。いつも私と同じくらいテンションの高い佳江が、大人しい。朝が弱いからとかいうアレではなさそうな。スマホから顔を上げると、私の前に立っていたのは、それは佳江で間違いなかったのだが、彼女は声を押し殺すようにしながら泣いていた。 「おぉう、佳江!?めっちゃ泣いてるやん!どうしたん?」 私は耳を澄まして佳江の声を

          第33話 フリー楽器

          第32話 ショー

          真っ暗な中に上からのスポットライトが一筋。青いポロシャツにベージュのチノパン姿の女が一人、佇んでいる。 「最初は、ほんの出来心だったんです。あの…もちろん、よくないことだっていうのは分かってた、つもりです。…でも、だんだんエスカレートしていって、そしたら何か楽しくなってきちゃって…!気付いたら、こんなことになっていました…」 スポットライトが消える。女も消えた。 …………… ………… ……… …… … パンパカパーン! 賑やかなファンファーレが鳴った。 青空の下、広い公園

          第32話 ショー

          第31話 組織の科学者

          いくつもの階段を降り、何枚もの分厚い扉を開けた先。一人の男が厳重に警備された地下の薄暗い一室の扉を開くと、白衣を着た女がこちらにゆっくりと歩いてきた。 「ずいぶん遅かったじゃない」 カツン、カツンと固いヒールの音が響く。 「あぁ、いろいろとあってな」 「女物の香水の香りに、首筋のキスマーク…。ふふっ、あんたもレベッカも飽きないわね」 男は慌てて己のジャケットを嗅いだ。 「犬並みの嗅覚だな」 「あら、"組織の犬"って意味じゃ、あんたもおりこうな犬じゃない?」 「フン…」 女はク

          第31話 組織の科学者

          第30話 推しがいる世界

          歩美が頼んだメロンソーダと自分用のアイスレモンティーを持って席に戻る。ファミレスに行くとよく自分の席を見失いがちだが、今日はどれだけ席から離れていても、一緒に来ている友人の歩美がこれ以上ないくらいに興奮していて、その熱気と圧で席を探す手間が省けて助かる。まあ、わたしも充分興奮していて、自分の周りだけ気温が高いのを実感している。 「おまたせー」 血走った目でソファに座っている歩美の前にグラスを置いた。 「メロンソーダで合ってたやんな?」 「うん、ありがとう」 わたしも席につく。

          第30話 推しがいる世界

          第29話 予告状

          美術館の玄関で2人の刑事を待っていた女は「学芸員の小林です」と名乗り、素早く2人を中へ通した。ベージュのジャケットを来たその学芸員…小林は、小柄ながら堂々とした足取りで館内を進む。 「お客さん、少ないんですね」 と、若い刑事が話しかけると、 「今日はもともと休館日なんで誰もいないんですよ」 と答えた。そして、 「刑事さんには誰か見えてるんですか?」 と不思議そうに尋ねた。実際、館内には小林と2人の刑事しかいない。 「あ、いえ…そういうつもりでは…」 「平日の午前中でも常に20

          第29話 予告状

          第28話 おしゃれ着洗い

          大丈夫、私は変わったんだ。 もう、こないだまでの弱い私じゃない。 大丈夫、私は大人になったんだ。 あの子たちみたいに、幼くない。 大丈夫、もう怖くない。 この土日で、私は変わったんだ。 教室へ続く長い廊下を歩きながら、私は心の中で何度も繰り返した。大丈夫、大丈夫。 土曜、日曜の週末休みが明けた月曜日。今までの私は憂鬱でならなかった。クラスの女子からの陰湿な嫌がらせ。何か暗い雰囲気が気に入らないんだとか。私が強く言い返せない性格なのを知っててやってくる。クラスに友達はいない。

          第28話 おしゃれ着洗い

          第27話 パフェ

          「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」 店員さんがにこやかにやって来て、大きなパフェをテーブルに置いた。かの有名な海賊冒険漫画みたいに「どどん!」って字が空目するくらいに大きい。どれくらい大きいかと言うと、パフェグラスのサイズがほぼ洗面器ってくらい大きい。それ一つでテーブルの天板が見えなくなるくらい大きい。そして、カラフル。つまり、存在感がすごい。 「わぁ!ありがとうございますー!」 わたしはきちんと店員さんにお礼を言った。 「わ、すっごい、デッカい!ね!」 「あー、う

          第27話 パフェ

          第26話 カラオケ合コン

          時刻は午前2時ちょっと前。こんな時間なのに、体力があり余っているのか周りの部屋からは上手なんだか下手なんだか勢いだけなんだか判別がつかない歌声が漏れ聞こえ続けている。 きっと私がいた部屋でも盛り上がってるんだろうな。3対3の合コン。私以外の5人が意気投合して、そのまま5人で行けばいいものを、わざわざ私も誘って2件目のカラオケ。ここで朝までオールで騒ぐらしい。…よくやるわ。 誰もいないドリンクバーで空のグラスを片手に、私はふぅ、とため息をついた。 さすがに、ずっとここにいる

          第26話 カラオケ合コン

          第25話 路上シンガー

          こんばんはー! ガールズ・クリエイティブ・アーティスティック・ソロ・singerのミカです。今日はミカのlive見てくれてありがとう! 今日の茶屋町はアレだね。すっごい…寒い! こういう寒い夜って、ミカ、誰かにギュッ!ってしてほしいなーって思うんだけど……ミカ、可愛くないからきっと誰も来てくれないんだろうなーって、思うの。 …え?そんなことない?小さくて可愛いよ?? んもぅ!「小さい」はいらないってばぁ! でも、ありがと。みんなのloveで、ミカのheartあったまった。

          第25話 路上シンガー

          第24話 転生

          雲一つない青い空。視界を遮るものは何もない。心地よい風が吹き抜ける。ここは校舎の屋上。私以外、誰もいない。 私は脱いだ上履きを揃えると、フェンスに手を掛けた。 「よし。これを登りきれば新たな世界…。さらば、高校生活。いざ、新しい世界へ!」 ぐっと腕に力を込めて、フェンスをよじ登る。細い金網が腕に食い込んで少し痛い。でも、これしきの痛みは「痛み」なんてものじゃない。この先に新しい世界が待っている。 およそ3mの高さがあるフェンスのてっぺんに手が届いた。 「いざっ!」 グッと腕に

          第24話 転生

          第23話 別れ話

          「すいません。ごちそうさまでした」 私はレジにいた店員さんにそう告げると、先にドアを開けてそとで待っている信二くんのところへ向かった。 「信二くん。今日は素敵なレストランに連れてってくれてありがとう」 「いえいえ。喜んでもらえて…」 「ありがとうなんだけど、別れてください」 私は頭を下げた。 「…え?」 「驚かせてごめんなさい」 「待って、俺、何かしたっけ?」 「うん。「何かした」から別れてほしいの」 「えっ…」 そう言って信二くんはしばらく固まった。 「…いや、ごめん。

          第23話 別れ話