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心理カウンセリングの構造について

今年は、心理カウンセリングでは、場所や時間など一定の構造を保つことがなぜ大切なのかということをよく考えました。

秘密を守り、
同じ時間に、
同じ場所で、
同じ人と人が会って話すことを続けること。

それは相談者の方のこころを守るのに必要なことと信じて続けてきました。しかし実際の心理カウンセリングの構造は、ただ厳格であればいいわけでもなく、かといって自由すぎてもよくないわけです。

そこで、心理カウンセリングの構造としてどのようなイメージを持ち、心理カウンセリングを続けていけるとよいのか、臨床の諸先輩方の文献から学び直すことをしてみました。その中で学んだことや感じたことを書きとめておこうと思います(また、私と同じように、心理カウンセリングの構造について思い悩んだり、考えたりしている心理職の方に読んでいただけたらと思います)。

精神科医・臨床心理士である大野裕先生は、「治療的柔構造(大野、1990)」という論文の中で、治療構造は「あくまで治療者と患者が作り出した取り決め」であると記し、「実際の精神療法過程では、心の揺れ、関係性の揺れ、構造の揺れが適度に続き」ながらも維持される相談者と治療者(あるいはカウンセラー)との関係性があり、その関係性を「治療的柔構造」と名付けています。

臨床心理士である馬場禮子先生は、精神分析の構造を作るということは「守る」と「縛る」という一見相反する意味があると述べています(1999)。相談者の方のこころの揺れ動きを守って支えつつ、その方本来の自由なこころの表現ができるように、構造(枠組み)が必要であると説明しています。心理カウンセリングの時間やその空間が、相談者の方にとって、<特別で守られている>とか、<ここではどんな気もちも安心して話せる>と感じられるものとなることを目指して構造作りを考えていけるとよいのでしょう。


精神科医・臨床心理士である岡野憲一郎先生は、本来治療構造は「治療者と患者の両者の間で創造されるべきものです。そしてそのプロセスを通して、患者さんははじめて能動的に治療にかかわっているという実感を持つことができ、またそこで治療者が発揮する判断能力を借り受け、次第に自分のものとして身に着けていくことができるかもしれません」と述べています。

さて、改めて整理してみると、多くの臨床家が治療構造について相談者の方とカウンセラー(セラピスト‐クライエント)の相互作用に力点を置いていることが確認できました。

今の私が、心理カウンセリングを受けようか迷っている方や、心理カウンセリングに通う方たちに向けて、治療構造を伝えるとしたらこんな感じです。

「相談者の方が安心してご自身の悩みや考えを語り、その方のテーマにじっくり向き合っていくためには、心理士の私自身が落ち着いて相談者の方をお迎えできることが基盤となると思います。相談者の方も心理士の私も、安心できる条件を整えて心理療法を続けていけるように、相談のスタイルを守っていけるといいのかなと考えています。」

(こはる心理カウンセリング室ブログより)


ちなみに、私が治療構造や心理カウンセリングの構造という言葉から最初に想像したのは植物でした。特に、風に吹かれながらも伸びていく草花のイメージでした。根から続く茎の中には細かく機能分化した組織、管があり、柔らかく生命を育み保つ構造が存在しています。私のイメージする心理カウンセリングの構造は、はかなくてもろくて簡単に壊れる、けれどもしぶとい部分もある、そういう構造であるように感じるのです。

この機に柔構造についてもう少し知りたいと思い、植物に関する本を読んでみました。植物は光や重力から身を守るために独自の植物細胞を進化させており、特にセルロースを主成分とする細胞壁はコンクリートより強固な構造と言えると記されていました。興味深かった一節を以下に引用します。

「(植物の)細胞成長が止まった後には、リグニンと呼ばれる高分子が加わり、(セルロース構造の)細胞壁の木化が進み、さらに力学的な強度が加わります(富永、2020)」

成長や進展が止まったように見える時がきて、だからこそ、より静かにより強く守られる構造が備わっていく(内在化される)と捉えると、心理カウンセリングのその先というか終了後のイメージにつながるものを感じました。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

(参考引用文献)
「治療的柔構造-共有錯覚から心内現実へ」 大野裕  「治療構造論」 岩崎徹也他編 岩崎学術出版社1990 (下記の岡野先生著書内に資料として掲載あり)
「精神分析的心理療法の実践 クライエントに出会う前に」 馬場禮子 岩崎学術出版 1999
「治療的柔構造 心理療法の諸理論と実践との架け橋」 岡野憲一郎 岩崎学術出版社 2008
「図解よくわかる植物細胞工学 タンパク質操作で広がるバイオテクノロジー」 富永喜樹 日刊工業新聞社 2020 


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