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インテルの野望

 2021年、世界最大手の半導体メーカー・米インテルは大きなターニングポイントを迎え用としている。元CTO(最高技術責任者)のパトリック・ゲルシンガー氏が、2月15日にCEO(最高経営責任者)となり、大きな事業戦略を3月23日に発表。自社設計・開発・生産の垂直統合型ビジネスモデルは堅持する。アリゾナ州に2つの新工場を追加建設。約200億ドルの投資。半導体受託製造(ファウンドリ)事業を始める新会社を設立。

 投資内容は、これまでやってきた自社ブランド製品の事業だけでなく、他社ブランド製品のファウンドリー事業も手がけていく。2つの相反するビジネスモデルを「両立」を目指す。

IDM

 インテルが発表した新しいビジネスモデル「IDM 2.0」は、同社の従来ビジネスモデル「IDM」(Integrated Device Manufacturer、垂直統合型半導体製造)を進化させるものだ。インテルはその誕生のときから自社工場を持ち、設計・製造・流通を垂直統合的に行うIDMモデルを続けてきており、それがインテルの強みになっていた。IDMモデルは、半導体工場という「天文学的な初期投資」を伴うリスクはあるが、実際に製造が始まってしまえば作れば作るほど利益を生むのが強み。ただ、垂直統合であ利、自分たちで作ったプロセスと設計で自分たちのために半導体を作る。利益も莫大だが、うまく立ち上げられなければその遅れもまた自分たちで取り返さなくてはならない。

 インテルが他の半導体メーカーに対して大きな優位性を維持できた最大の理由は、インテルの製造施設や技術が他社をリードしてきたが、2010年代半ばから他社が自社工場で半導体を製造するよりも、ファウンドリで製造したほうが高性能な半導体を製造できる状況になっていた。そうした状況を受け、インテルも最先端の製品の製造をファウンドリに委託して製造する可能性を昨年来探ってきた。

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ファウンドリー

 インテルは生産能力拡大は、アリゾナ州以外の北米地域と、他国の拠点でも検討中。計画が決まれば、年内にも順次発表するという。この新工場建設計画と併せて、インテルはファウンドリ事業を始めると発表。他社が設計した半導体の製造を請け負って自社ブランドの半導体は生産しない。インテルは、一度、ファウンドリ事業を手がけたが失敗した経緯があり今回再参入。となる。ゲルシンガーCEO ファウンドリを中心に、世界の最先端の半導体生産能力の80%がアジアに集中している。北米のハイテク産業を支える半導体生産の大半が、中国・台湾・韓国に偏る現状を変えるべきとの見方を示す。背景には、ファウンドリ市場で世界シェアの50%以上を握る台湾の巨人TSMCと、それに続く韓国のサムスン電子や中国勢などに対する危機感がある。インテルがファウンドリ事業に再参入すれば、TSMCやサムスンなどに製造委託で依存している米国のファブレス半導体メーカーたちには、委託先の選択肢が増えるので朗報。新興勢力や異業種を新規顧客に取り込む、インテルは、ファウンドリ市場が2025年までに1000億ドル(約11兆円)を超えるとみている。

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 米政府は年初に「チップス・フォー・アメリカ(CHIPS for America Act=米国半導体製造支援法)」を含む国防権限法が成立。半導体、AI(人工知能)、量子コンピューター、5Gなどの分野を強化する支援規定が盛り込まれている。北米勢の世界半導体シェアが1990年の37%から現在は12%まで落ち込んだことなどに言及し、競争力回復の必要性を強調している。

今後について

 アリゾナ州の新工場建設は反転攻勢の「序章」に過ぎない。こうした戦略を描く背景には、半導体産業において、とりわけ中国勢の急伸を「危険視」する米政府の国家安全保障政策の思惑も透けて見える。インテル自身も成長が止まり、中国・台湾・韓国のアジア3国の猛追に危機感があった。先端技術開発で台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に遅れを取っている。受託で起死回生狙うインテル、水平分業から垂直統合トレンドでチップ自社開発を急ぐビッグテック、そして米中摩擦で半導体サプライチェーン再構築を目指す国家、三者の思惑が一致したのか。ファウンドリ事業が注目されてしまいますが、基本的には半導体生産能力の強化計画とも読み取れ、特に米国内での生産能力を確保することが国策でもあるだろう。

#インテル #米国 #IDM #ファウンドリ #半導体


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