貯蓄と運用

新しいスタッフとの飲み会で
「一定の年齢を超えて個人として成長を志向することはベストなあり方とは思わない。それまでに貯めたものの運用効率を高めることにフォーカスする方が意味がある」
という様な話をしたのだが、
これって
「貯金を増やす事にフォーカスするか、それまで蓄えた種銭を運用することにフォーカスするか」
の違いであって、「自分の存在価値を高めよう」とする事には違いがないとも言える。

じゃあ厳密にそこを峻別する相違点はなんだろうと思うと
若者によくある(ぼくにも大いにあった)いわゆる「成長したい!」という思いって前提に「不安」があり、同時にその不安を解消するために「いつ必要になるかわからない」スキルや知識を「あてどもなく」貯め込もうとするマインドセットだと思う。

今求められてるわけじゃないけれど「英語力を高めよう」とか「プログラミングできるようにしとこう」とか。もっと身近なところだと誰に頼まれたわけじゃないけれど「もっと器の大きな人間になりたい」みたいなのもそういうものの一つだろう。

つまり「可能性」の貯蓄をしたいという気持ち。

これはビジネスや投資をするのに「種銭」が必要なのと同じで、あるところまでは絶対やればやっただけ有利だと思う。種銭の多寡(=可能性の多寡)は特にスタート時において成功率を大きく左右するファクターになり得る。

でも自分の人生と言う事業をはじめ、某かの成果を得るためにはいつまでも「種銭」を貯めることにフォーカスし続ける訳にはいかない。別に起業するとか投資するとかじゃなくても、自分の人生の可能性を増やすことじゃなく、何かを選び、その何かに自分を投じ、それによってリアルなリターンを得る取組みにフォーカスする事が求められるフェーズは必ず来るものだ。

種銭を「貯蓄」するフェーズから、つくった種銭を「運用」することにフォーカスするフェーズに実人生でも移行すべきタイミングというものがあるんだと思う。

じゃあ「運用」にフォーカスしてる状況とはどういう状況なのか?

前述したように「自分の存在価値を高めよう」とする意味では「貯蓄」の動機付けと変わらないわけだが、その実現方法や、取り組み方が異なるんだと思う。

「運用」にフォーカスしている人は「今」にフォーカスしている。「貯蓄」にフォーカスしている人がいつかの「未来」のための可能性を増やす事にフォーカスしている事に比べると「運用」にフォーカスしている人が「今」目の前の課題において成果をあげることに全神経を集中している事は際立った違いだ。

「運用」にフォーカスしているひとが「勉強」する場合、それは喫緊の課題に迫られて行なわれる事だろう。いつかの「未来」のためではなく「今」目の前の課題を解決するために。

「運用」に集中するという事はある意味で将来の可能性、選択肢についてある種の「締念」を持つという事でもあると思う。ただその「締念」は「自分の存在価値は今のままでいい」という方向にではなく「そもそもここから先は今いる場所で最大限機能していれば自ずとたどり着く先にしか自分の価値を増して行くあり方はなく、頭でいろいろ考えて計画したり予想したりには限界があるよね」という方向の「締念」なんだと思う。

ぼくがなんだかあれやこれや書いてきた事は「貯蓄」が未熟で「運用」が成熟みたいな事が言いたくて書いてるわけじゃなく。それは年代やタイミングによって、当人が望むと望まざるとに関わらず「成人」しなければならないタイミングがやってくるってこと。

準備が整ってない。安心できるだけの可能性の貯蓄ができてないって思ってるのに強制的に「成人」と認定され、学校を放り出されて「社会人」にされてしまうのと同じで「個」としての生き方も実はだれも教えてくれないけれどもう「運用」にフォーカスする事が求められてるんだよっていうタイミングがあるんだと言う事だ。

なので「貯蓄」フェーズにあるときは大いに「貯蓄」にフォーカスすべきだ。可能性の「貯蓄」が不十分なまま「運用」にフォーカスせざるを得ないフェーズに放り出される事はやはり大きなハンデと言わざるを得ない。

ただ、ビジネスでも投資でもはじめるときの「種銭」の多寡が成功可能性において「決定的」な要因かと言えば案外そうでもないのも事実なのだ。ビジネスにおいて言えば人によっては当初は資金が多すぎない方がいいなんて言う人もいるぐらいなのだから。

まあぼくなんかは相当グダグダしてたので34歳くらいではたと気がつくまでは延々「貯蓄」する事にしか意識が向けられていなかった口なのだが、、

「成長したい」という言葉は一見すると絶対的に「正しい」姿勢のように聞こえるのだが、それはあくまでもフェーズによるんじゃないかという一つの仮説というかそんな事をグダグダと話して若いスタッフにウザったがられた夜であったという事です。

初出:2014年9月18日facebookノートへの投稿

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