チェスレッスンでやっていること

最初に

会社員から専業のチェスコーチに転職して、9ヶ月ほど経とうとしています。おかげさまで仕事の中心になっている個人レッスンはそれなりに好評をいただいております。転職した当初は、家賃も払えなかったらどうしようとかそんなことも考えていたわけですが(笑)、なんとか形になってきました。

ところで、チェスのコーチ/トレーナーという職業は、日本ではかなりマイナーなお仕事です。日本ではチェスの競技人口自体が少ないですが、ある程度真剣に競技をやっている人でもコーチをつけてトレーニングしている人は少数派のハズです。
おそらく、ほとんどの人にとってコーチをつけてのチェスレッスンというのは未知の領域だと思いますので、この記事では私の最近のレッスン内容を例に、チェスレッスンではこういったことをやっているよ、というのを紹介したいと思います。

なお、以下で紹介する内容はあくまで私のレッスンの例であり、指導方法は人によってかなり違うということはあらかじめお断りしておきます。
また、実際は生徒さんのレベルや性格によっても内容を変えているので、一例として参考にしていただければと思います。


目標を設定する

一番最初にやることで、かつ大事なことはなるべく具体的な目標を設定するということです。
私は、生徒さんとのレッスン初回に、かならず本人なりの目標設定を聞いています。これまで教えた経験と自分自身がチェスに取り組んできた経験からですが、目標が具体的な人ほど上達が早いです。

目標は数字的な目標(例:lichessのレーティング1500)でも良いですし、OTBの大会に出場して楽しめる力をつける、大会中継を観戦して意味がわかるようになる、といった具合でもOKです。

ゴールが明確になって、自分の現在地との距離がある程度イメージできれば、練習のモチベーションがわきやすくなります。なので、チェスが強くなりたい人は、まずなるべく具体的な目標を考えてみることをおすすめします。

コーチ(私)の方では、目標と現在の実力を分析し、必要なスキルセットを把握してレッスンのメニューを考えます。

先を読む能力を鍛える

チェスで大事なことは先を読む能力です。チェスの用語ではCalculation(計算)と言ったりします。

読むことができないと、チェスの勉強はすぐに行き詰まってしまいますので、まずは読む練習からはじめてもらいます。

例えば初心者の方には2手メイトの問題を解いてもらうことが多いです。これは将棋でいうと1手詰と3手詰の詰将棋にあたります。
特に2手メイトは「こちらが指す→相手が応じる→こちらが指してメイト」という構成になっており、読みの基礎ができていないと解けないため、2手メイトを解けるようになると、「読むことができるようになった」と考えてもらって良いでしょう。

例えば、生徒さんには次のような問題をたくさん出して、練習してもらいます。

白番 Mate in 2(3手詰)

詳しい人は元ネタをご存知だと思いますが(笑)、知らない方はぜひチャレンジしてみてください。

実戦ではメイト以外にも、様々な技(Tactics)を決めるチャンスがあります。これらを探して正確に読めるような訓練も必要です。

Miles - Martin バーミンガム 1977. 白番白勝

レッスンではこのような局面でどうやってタクティクスを探すか、どうやって正確に読むか、を教えています。もっともタクティクスは自分でたくさん練習して身につけるしかない面もあるので(笑)、強くなりたい方はレッスンに加えて、本やオンラインのタクティクストレーナーなどで練習することをオススメします。

戦略・指すときの方針を学ぶ

ある程度技を使えるようになってきたら、戦略(Strategy)を学んでいきます。戦略を学ぶことで、ゲーム中に考えられることが増えていきます。独学するのに時間がかかる分野でもあるため、初中級者の方には最も効果が大きいジャンルといえるでしょう。

チェスの戦略理論は、分厚い本が何冊もかけるほど膨大にあるのですが、レッスンでは生徒さんの課題にフィットするようにテーマを決めながら、モデルゲームとともに戦略やその扱い方を学んでいきます。

よくレッスンで教えている戦略の一部を以下に書いてみます。もちろん、他にもたくさんのテーマがあります。

  • オープニングの原則

  • 自分のレパートリー特有の戦略

  • オープンファイル/オープンダイアゴナル

  • アウトポスト

  • 弱点の探し方・使い方

  • プランの立て方

  • 典型的なポーンストラクチャー などなど…

戦略とモデルゲームを結びつけて学習することで、戦略を自分のゲームで活かすときのポイントも合わせて学んでいきます。

Iordachescu - Aleksandrov, Nakhchivan op 2012 白番

白が有利ですが、局面の一番大事なポイントをつかんでアドバンテージを拡大していく必要があります。

エンドゲームを学ぶ

少し力がついてきて、トーナメントで結果を出したいと考えている方は、エンドゲームの勉強をすることを強くおすすめします。
エンドゲームの勉強は大きく理論と実戦に分かれますが、私のレッスンでは最低限の理論(主にポーンエンディング)を学んだあと、実戦的なエンドゲームをどう指すか、という点を重視しています。

ライバルに差をつけやすい分野でもありますので、レッスンの中でもかなり力を入れているところです。

Harikrishna - Erigaisi, Chennai Grand Masters 2023 白番

1ポーンアップの白が優勢ですが、はっきり勝ちとも言えないポジションです。白はどのようにアドバンテージを活かせば良いでしょうか。

レッスンでは、こういった局面を一緒に分析したり、ときには実際に対局してみたりすることで、実戦で上手にプレーする下地を作っていきます。

実戦力をつける

トーナメントで結果を出したりレーティングを大きく伸ばしたい生徒さんには、実戦で役に立つ内容もレッスンの中で教えています。

もちろん、教えたからうまくできるものではないので、レッスンでの練習を通して少しずつ、心構えを身に着けていってもらいます。
一例としては、以下のような項目があります。

  • タイムマネジメントのテクニック

  • 重大な意思決定のタイミング・方法

  • いつCalculationするか、どこまでCalculationするのか

自分で言うのもなんですが、自分自身がもっと前からこの考え方を知っていればなあ…と思うようなテクニックを教えているつもりです(笑)。

Shirov - Bareev, Lvov 1990 白番

上の局面は時間を使って、重大な意思決定をするべき局面です。レッスンの中ではコーチのサポート付きで意思決定の練習をします。
実戦ではサポートがありませんが、練習を重ねることで、短時間で質の高い手をえらぶことができるようになるはずです。

コーチとトレーニングしてみよう!

いかがだったでしょうか。なるべく私が普段行っているレッスンの雰囲気が伝われば嬉しいです。

現代では、良質な本やオンライン学習プラットフォームがあるため、昔に比べるとかなり効率的に強くなれる環境があります。
ただ、コーチがいるとより素早く自分の弱点を補強したり、コーチの経験に基づいたテクニックを身に着けやすくなると思います。

特に、自分が伸び悩んでいるときに、相談相手がいるというのはそれだけでも心強いものです。私の場合は不定期のレッスンも受け付けているので、一度レッスンを受けてみて、また悩みがあったらレッスンを受けてみるというスタイルも選択肢に入れてみてください。

この記事でチェスの本格的なトレーニングに興味を持たれた方は、ぜひ一度チェスレッスンを体験してみてください。
私のレッスンに興味がある方は、このページを参照して申し込んでいただければと思います。

自分にあったコーチを見つけて、良いチェスライフを送りましょう!

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