第19回アジア競技大会振り返り Part1

中国・杭州から帰国して2週間近く経ちました。9月23日から9月27まで参加した第19回杭州アジア競技大会ですが、7月からスタートしたチェス海外遠征を締めくくる大会でもあったので、そろそろ自分なりの振り返りを記事にしておこうと思います。

時系列的にはヨーロッパの大会が先なのですが、記憶の新しいアジア大会を先に振り返っていこうと思います。
ちなみに、日本チェス連盟の機関誌にもレポート記事を書くので、大会の雰囲気などはそちらをご覧いただければと思います。ここでは個人的な部分や分量的に書ききれないことを書いていきます。

普段、自分がどのようにトーナメントに取り組んでいるかを詳細に語る機会は今までなかったので、少しでも日本のチェスプレーヤーの皆さんの参考になる部分があれば嬉しいです。

長くなりそうなので、記事はいくつかに分けようと思いますが、今日は結果の総括と大会前の事前準備について書いてみます。


結果振り返り

最初に個人結果から。

スタート順位は参加者34人中30人スタートで、かなり厳しい戦いとなることが予想されました。目標は前回、2010年広州大会で記録した3.0P/9を超えることでしたが、確実にポイントを取れそうな相手は2人くらいでした(その2人も実際にはレーティング以上の選手でした)。URや2000未満のプレーヤーも多くエントリーしていた13年前と比べてもより難しいトーナメントだったと思います。

対戦相手が全員マスター(かつ格上)だったトーナメントは初めてです

蓋を開けてみると幸運も重なり、個人としては2010年の結果を大きく上回ることができました。
3勝4敗2ドローの4.0P/9で、全体順位は22位。数字上は負け越しでしたが、対戦相手の平均レーティングは2450、自身のレーティングから300近く上であることを考えれば、善戦といってよかったと思います。
チェスの内容も(早指しにしては)悪くなく、負けたゲームも含めて勉強になることが多かったです。総じて収穫の多いトーナメントになりました。

結果を残せた要因として、やはり直前までヨーロッパで遠征をしていたことが大きかったかもしれません。日本でGMやIMと連戦する機会はほとんど得られませんが、2ヶ月ほどそういった経験をして対マスター戦に慣れたことで、普段通りのプレーをする準備ができたかなと思います。

大会前の準備

日本チェス連盟のインタビューでも答えましたが、今年の早い段階から、アジア大会が今年最も結果が求められる大会であるとは考えていました。次にチェスが種目に入ったときに、「もう派遣しません」と言われるのも嫌なので、「いやいやこっちも頑張ってますよ!」といえるくらいの成績にはしたいと思っていました(笑)。
とは言え、アジア大会は(自分にとっては)重要度の高くないラピッドのトーナメントであり、大会に向けて特別な対策ができるわけでもないので、ヨーロッパ遠征で経験値を積むのが対策になればなあ、くらいしか考えていませんでした(結果的に、この経験が意外と大きかったのですが)。

なので、実際にアジア大会に向けて準備を始めたのは、9月頭のIMトーナメントが終わってからでした。

大会に向けた課題

私はトーナメントごとに自分なりの課題をもって臨むことが多いのですが、このアジア大会ではヨーロッパ遠征の反省を踏まえて、次のことを意識して指そうと考えていました。

  • 簡単なCalculationでミスをしない

  • 持ち時間で差をつけられないようにする。つまり決断のスピードを速くする

  • 集中を切らさずに候補手を探す

他にも遠征での大きな課題として「有利な局面での指し方を改善する」があったのですが、こちらは自分が満足行くまで練習するには期間が短かすぎたのであまり気にしないようにしました。そもそも格上ばかりのこの大会では、自分が大きく有利になる瞬間もそれほどこないと思っていましたし(笑)。
逆に格上と多く当たるくらいに頑張れれば、有利な局面のプレーを盗むチャンスが来るかも…という思いをモチベーションにする程度にとどめておきました。

序盤の準備

また、今まで大会の前は使う定跡のチェックをすることが多かったのですが、この大会ではあまり真剣に序盤の準備をしませんでした。小島くんと練習で指したゲームのラインはいくつか再確認しましたが、詳細を掘り下げたり補強したりということには力を入れませんでした。
流石に試合前には多少プレパレーションしましたが、さらっと研究手順を確認した後は、別のことをしたり休んでいたりという時間が多かったですw

これは、遠征での経験から、自分の序中盤が(少なくとも)2400くらいまでなら十分通用すると考えていたため、体力回復を優先したというのが主な理由です(ブダペスト→東京→杭州と、強行日程だったため)。また、経験豊富なIM、GMはオープニングの守備範囲が広いことが多く、深くプレパレーションするコスパはあまり良くないかなーと考えたのもあります。

今から振り替えると、これはちょっと見通しが甘く、特に黒番の内容は総じて良くなかったです。準備時間が少なかったラウンドでは、手順ミス、記憶違い、理解不足などがいくつかありました。相手がそれを咎められるくらい強いプレーヤーばかりだったというのもありますが…。

主な準備としてやっていたこと

結局、オープニングのチェックは最低限で済ませ、大会前や試合前の時間は大半をCalculation(というより思考プロセス)チェックに使いました。具体的にやったことは大きく2つです。

  • タクティクス問題をなるべく効率的に解く

    • まず、候補手を見落とさないように注意する。タクティクス問題は正解があることがわかっているので、候補手を見落とさなければ正解にたどり着くケースが多い

    • 候補手を出す→計算→局面評価、というサイクルのどの部分になぜ時間がかかったかをチェック。改善する時間はなくとも、自分が引っかかりそうなポイントを事前に抑えておく

    • 試合が近づくにつれて問題の難易度を落とす。スピードと正解率を強制的に上げることで、自分の計算に自信を持つ

  • GMの解説付きゲームを並べながら、意思決定の方法を再整理しておく

    • 自分の感覚に照らし合わせて、感触が良いプランは基本的に信用する

    • 指す前に必ず短く具体的な読みを入れる

時間が少なくなってきたときのプレーには全く自信がなかったので、とにかく難しい局面を時間切迫で迎えないように、決断のスピードについて考える時間が多かったです。遠征中にうまく行かなかったゲームの大半は、計算ミスや自分の感覚を信用しないことが影響していたので、大雑把には自分の判断に自信を持つ練習だったとも言えるかもしれません。

時たま指していた3+2ブリッツの内容や戦績は散々でしたが、インクリメントが10秒になるラピッドのゲームではプレーが安定する感覚を得ていたので、まずまずの準備をして当日を迎えることはできていたかなと思います。

次回は、9試合の簡単な振り返りをしようと思います。


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