何かの終わりというのは同時に何かの始まりであること―
そして始まっている瞬間というのは意外と気づかなかったりするもので、後になって「あぁ、あれが始まりだったんだなぁ」と思うこと、ありますよね。

そんな事をしみじみと感じさせてくれる、
日テレの土曜10時のドラマ『コントが始まる』が非常に面白い！という事で、以下ご紹介。（第１話のネタバレあります）

菅田将暉、神木隆之介、仲野太賀の3人が演じるお笑いトリオ「マクベス」とそれを取り巻く2人の姉妹の群像劇。小説を原作としないオリジナル脚本とのことで、オリジナル脚本のドラマってやっぱりいいですねぇ。

このドラマの秀逸なところは、第１話から「あと2ヶ月でトリオが解散する」という、言わば“終わり”から始まるところ。その終わりをきっかけに、トリオ結成からの10年間を3人が再認識したり、新たな人間関係や物事が始まっていく様子を描いたドラマになっています。

第１話ですごく気になる部分があります。
触った水が全部メロンソーダになってしまうコントの元ネタが自分だと知った中浜さん（有村架純）が、笑いながら「あれが始まりだとは思いませんでした」と言うシーンがあるのですが、その直後に「あれが私達のはじまりだったとは思いませんでした」という意味深なナレーションが入ります。
「あれが始まりだとは思いませんでした」という何気ない一言ですが、私はこの言葉がドラマを貫く重要なキーメッセージな気がしています。

何かの終わりというのは同時に何かの始まりであること。
そして、始まりの瞬間というのは意外と気づかなかったりするもので、後になって「あぁ、あれが始まりだったんだなぁ」としみじみ思うことがあると思います。

ルネサンスは14世紀イタリアのフィレンツェで始まったと言われていますが、当時のフィレンツェでは誰一人「いま自分はルネサンスの始まりにいる」とは思わなかったと思います。ルネサンスの思想は、その後200年に渡って西欧諸国を次々と席巻することになるのですが、そもそもルネサンスという言葉すら後付けのものなので、振り返ってみればあれが始まりだったという事なのだと思います。

始まりと同様、終わりも曖昧なケースが多いと思います。
タピオカブームはいつ始まっていつ終わったのか？
戦後ってもう終わったのか？いつ終わるのか？
など。

無論、始まりや終わりの瞬間がはっきりしているケースもあります。
「今日から大学生活が始まった」
「さあパーティを始めましょう」など。

こんなふうに「始まり」と「終わり」と一口に言っても、実はいろんなバリエーションがあるという事が分かります。さらに言えば、
　始まりの終わり
　終わりの始まり
なんていう捉え方もありますね。
英国の元首相ウィンストン＝チャーチルの名言で「今は終わりではない。これは終わりの始まりですらない。しかしあるいは、始まりの終わりかもしれない」というのがありますが、これは混沌として捉えがたい始まりや終わりの概念を、国民に希望を見せるやり方でうまく表現した言葉だと思います。

もう一つ、始まりと終わりの概念をうまく捉えている例として、日本を代表するロックバンド・ポルノグラフィティの『黄昏ロマンス』という曲を紹介したいと思います。
この曲は、恋愛初期の浮足立った時期を過ぎて、すれ違いや倦怠感を抱え始めたカップルの斜陽を描いた曲で、「はしゃぎすぎた季節から黄昏に変わっていく」という歌詞がある種の“終わり”を感じさせます。
しかし、そんな憂いを帯びながらも曲の最後は次の言葉で締めくくられるのです。
「僕らには始まりや始まってないものばかりさ。ねえ気づいてる？」
この言葉を聞いた瞬間、ガチャンと発想の転換をさせられたような、何一つ物事は変わっていないのに急に未来に希望の光が見えたような、そんな気分になります。
個人的な話ですが、私は高校2年生の時にこの曲を聴いて、終わりの捉え方というか、何かの終わりのように見えても未来にはまだ始まってすらいない始まりがあるのだという希望的思考に、素直に「いい歌詞だ」と思いました。

『コントが始まる』が終わる頃には、トリオは終わりを迎えるのかもしれませんが、それと同時に３人の新しい人生が始まることになるでしょう。その意味で、このドラマは終わりの始まりを描きながら、始まりの始まりを描いているのかもしれませんね。
古い言葉に「禍福はあざなえる縄のごとし」というのがありますが、幸や不幸は縒り合せた縄のように交互に現れ、幸が不幸の元になったり、不幸が幸の元になったり、人生とはそういうものだという事を感じさせてくれます。
トリオは終わってしまっても、彼らにとって今度は台本のないコント（喜劇）が始まるといいですね。


次回は第８話
６月５日（土）夜１０時～
まだ観てないけど気になった方はHuluでも見逃し配信してるので是非。