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『シビル・ウォー(原題)』:シリアスな社会派ドラマ、に見せかけたド根性戦争サスペンスな記者物語

『Civil War』(2024年)★★★・。
IMDb | Rotten Tomatoes | Wikipedia
公開日:2024年4月12日(北米)
公開日:未定(日本/2024年4月現在)

背景

アレックス・ガーランドといえば、ダニー・ボイル監督とのタッグで名を挙げた英国出身の小説家、脚本家、監督。小説『ザ・ビーチ』を執筆し、レオナルド・ディカプリオ主演の映画化(2000)でボイルと初めて絡んだ。同作は酷評されたが、タッグはゾンビ映画の名作となった『28日後…』(2002)で開花し、その脚本でゾンビ・パンデミックものの定義を塗り替えた。

その後『サンシャイン 2057』(2007)『わたしを離さないで』(2010)とSF作品の脚本執筆に徹するガーランド。『ジャッジ・ドレッド』(2012)ではクレジットこそないが演出にも携わったと言われている。初監督作『エクス・マキナ』(2015)ではアカデミー賞でオリジナル脚本賞にノミネート。続く『アナイアレイション -全滅領域-』(2018)でも興行的成功を収めた。

『シビル・ウォー』はそんな過去作品たちを、点と点でつなぐ監督最新作。ゾンビ・パンデミックで描いた廃墟のカオス、危険地帯へ向かうロードムービーのサスペンス、そして現実に「もしも」の想像力を盛り込んだ事件性。その三拍子を揃えた、ガーランドらしい装いのSF物語が展開する。

もしも:「現代アメリカで内戦が起きたら」ー。

物語

時は不詳の近未来。二期制のアメリカ大統領制度で最高司令官の座を譲らず、三期目に入った米国大統領(ニック・オファーマン)の勝利宣言から物語ははじまる。戦う相手は「カリフォルニア・テキサス連合(意訳)」と、「フロリダ解放戦線(これもまた意訳だがご容赦)」。自由を取り戻そうとする複数の州が、ファシズムの台頭を許した合衆国政府を相手取って内紛を起こしている、という世界線が紹介される。

主人公は写真家でジャーナリストのリー(キルスティン・ダンスト)と、その相棒のジョエル(ヴァグネル・モウラ)。2人はとある目的を秘密裏に掲げて、暴動と自爆テロが多発する戦地ニューヨークを出発。予想外の乗客2名を乗せて、数百マイルのロードトリップに出る。

解釈

「シビル・ウォー」はアクション・サスペンス・ムービーだ。「現代アメリカが抱える社会問題をスクリーンに映す鏡」と言って片付けるほど、思想じみてはいないところが特徴。ロードムービーのサスペンスとアクションを、A24史上最高額の制作費(5,000万ドル=日本円にして75億円あまり)で描く娯楽重視な映画だと捉えた方が得。

メッセージがあるとしたら、軸はむしろ「報道の力」と「ジャーナリズムの意義深さ」を謳っている点だろう。そして何よりも、「アマチュアがプロになる過程」を描いた、もっと個人的な物語でもある。

それを好むか否かが、この一本が気に入るか否かを決める。

もちろん、現代アメリカの精神的・物理的断絶も、皮肉を込めて描いてはいる。海に面した州が軒並みリベラルである一方、内陸の州は極度に右寄りに偏る現代アメリカの思想的乖離は明白だし、それは「シビル・ウォー」の世界線にもありありと表現されている。

でもカリフォルニアはともかく、テキサスやフロリダが左派についている、という作中の設定には「捻り」がある。良くも悪くも「現実の延長線を描こうという気がない」。本作の政治情勢のモチーフは、どちらかと言えば「アメリカ右派をナチス・ドイツに置き換えたら」と表現した方が正しい。そのくらい割り切った方が、細かい点に疑問を感じなくて済む。

その代わり

それよりも着目して見るべきは、撮影と美術のスケール感と、達成度。本編の技術面は、めざましい。それと音楽の使い方の切れ味がすこぶる鋭い。

ニューヨークでの暴動の緊迫感、州をまたいで移動した先での戦禍の表現。交戦中の銃撃戦の激しさ。そこへ、狂ったアメリカ原理主義者たちとのシーンの緊張や、現代の戦争を現実味たっぷりに描く進攻の段取りが入り込むl。激しい映像表現に、息を呑む。演出も出色で、「中部・南部アメリカ人とは関わりたくない」と思わせる生々しさが、道中のトラブルが起きるたびによく伝わってくる。

その点で、ガーランドの作品歴と地続きな印象を持てる。どの作品も、ハッとするようなビジュアルが伴ってきていたし、『シビル・ウォー』もその例に漏れなかった。物語の結末にも驚かされるけれど、何よりも、眼福。そんな楽しさと、純粋なスリルを楽しむのが正解。

どうでもいいけれど…。

本作のプロモーションに出ているキルスティン・ダンストが歯に絹着せず現代ハリウッドを斬り刻むコメントを連発しているのが話題になっている。スーパーヒーロー映画の火付け役となったフランチャイズに出演した彼女の、商売に流されず遠慮をしない物言いには、すこぶる好感を持てる。

英語が読めれば以下をぜひ。

(鑑賞日:2024年4月13日 @Regal Cinemas Irvine Spectrum)

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