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ムービーパス騒動の現状まとめ

【2018/5/2:更新】5/2になって、ムービーパスが見放題プランを当初の通り$9.95均一に戻したと発表しました。ということで一部加筆してます。

今週はゴールデンウィークで、月曜祝日が休刊のmofiはお休みでした。そのことをすっかり失念していたため、締め切り(だと思っていた期日)までに書いたコラムは翌週までおあずけに。でも、それに合わせてしまうと挨拶文か編集後記で触れたかったニュースが古くなってしまう。

そこで、はみだし文を書いて発散することにしました。

毎回、しつこいくらいに「ムービーパス」というサービスの動向をピックアップしてますが、ここは流し読みでかまわないので一緒に追いかけて欲しいところ。

それも、この「定額制の映画見放題サービス」というビジネスモデルに、相当な未来があるからこそ。アメリカの多くの映画ファンが、眉唾ものだと疑いつつも、その存続に期待をかけています。だから、この数ヶ月間で揺れに揺れている現状を無視できないんですね。

ということで、例に漏れず、おさらい記事を貼っておきます。

続いて、先週までの騒動の動向はこちらで。

さて、その後の動きを追いかけましょう。二転三転の錯綜状態です。


ムービーパス、規約変更

まず、4月13日付で同サービスは「1日1本、映画見放題」に加えて「同じ映画は1回のみ観賞可」という条件を設定しました。何度でも劇場に足は運べるけれど、同じ映画は一度しか見られないことになりました。

これ、実は月額$9.95の価格破壊を実行するまではもともとあったルールでした。なので旧来の会員にしてみれば「最初から無理しなければよかったのに...」という話だったりします。

そして、重要なのはこちら。新規の加入者にも根本的な制限が加わりました。新しい会員は「1日1本、映画見放題」ではなく「月4本まで見放題」というリミットが追加されました。ただし、既存の会員は変わらず「1日1本、見放題」。

これはムービーパスが、オンラインでラジオを聴取できるアメリカの総合プラットフォーム「iHeartRadio(アイ・ハート・ラジオ)」との提携パッケージの提供をはじめたことが背景にあります。つまり、iHeartRadioの無料トライアルを抱き合わせにすることと引き換えに、ムービーパスを使って見られる映画の本数を制限してきたわけですね。

詳しくはこちら:

なお、ムービーパスCEOのMitch Loweは、見放題プランを再び提供する予定はあるかという問いに対して「わからない」という(身も蓋もない)返答。それでいて、ムービーパスの広報は「今回はiHeartRadioとの提携があるから通常のプランを一時的に差止めただけ。再び提供する予定がないわけではない」と発表してます。

これについてはこちらで報じてます:


...と、思いきや。

規約変更から3週間ほどの5月2日、ムービーパスは突然、プランを元通りの「月額$9.95で1日1本見放題」に差し戻したようです。詳しくはこちら:

「最初から、定額見放題プランをやめるなんて言ってない」とCEOのLowe。「わからない」と答えていた半月前と言っていることが全然噛み合わない...と思っている人には、「マーケティングの基本じゃないか。プッシュしたい(iHeartRadio抱き合わせの)プランを霞ませるわけにはいかないから」と返答。

単にノープランなだけなんじゃないかと思わずにはいられませんが...。戻ったことに関しては、新規加入者予備軍には良い報せですね。


余裕綽々? 勝算は3つのビジネス戦術

少し話の時間軸を戻します。先に挙げた先月のTHR独占インタビューの記事に関連して興味深いポストが、もうひとつあります。

THRの取材と同じラスベガスのイベントを発信源にして、ニューヨーク・タイムズの記者がムービーパスについて、上記のハリウッド・リポーター紙とは異なる論調で記事をアップしてます。

こちらでは、「心配するな」の押しで余裕綽々な経営陣の発言が読めます:

面白いことに、いくつか数字に絡んだポイントが散見できます。これらがポイント。

ムービーパスは、この記事で「ムービーパスは全会員のうち、88%のメンバーで黒字なんだ」と言ってます。つまり、ほとんどの会員が月に一度映画を見るか見ないか、という利用頻度なので赤は出ていないのだそう。

ところがNYTは、各主要都市の映画チケットの価格が、MPAA(アメリカ映画協会)の発表した平均($8.97)よりも大幅に高い$16.50ほどだ、とも指摘してます。最終的に、ヘビーユーザーの損失に足を引っ張られることになるのでは、という話です。

これに対し、ムービーパスは3種類の商法にサービスの存続がかかっている、とします。すなわち:

【1】各劇場チェーンと、バルクで会員用チケットの購入契約を交わすこと。

【2】配給会社と、ムービーパスのプラットホームを利用した新作映画のプロモーション契約を交わすこと。そして、

【3】ムービーパスが現在の10倍程度の会員数に拡張した際には、劇場側のポップコーンなどのコンセッション売上のパーセンテージ配分の契約を交わすこと。つまり、映画館のポップコーンの売上の一部をよこせ、というわけですね。

「3」は劇場側の売上の要でもあるので、よほどの会員数がいない限り難しいでしょうが...残りは早いところで成立させないと、損失額がふくらむだけ。時間は、そういつまでもあるものではありません。


競合も登場中

ちなみに、ムービーパスには競合他社がいないわけでもないんですよね。「SiNEMiA(シネミア)」という新規サービスは、月額$8.99で月に2本まで映画を見られる定額サービスを始めました。

こちらの強みは、ムービーパスと違って2Dのみならず、3DやIMAXの上映回も自由に見られるという仕組み。本数と現実的な使用頻度だけで計算するなら、実はなにもムービーパスにこだわる必要はない、という話でもあるわけですね。


当座のまとめ。

「2019年までには黒字化する」と宣言したムービーパスCEOのMitch Lowe。実際に、あっという間に登録者200万人を越えて成長している点は好ましい傾向です。しかし、これまでの発言を辿っていく限り、彼の言葉には一貫性がなく、発信内容は常に場当たり的。経営にも、ベンチャー企業特有の芯の弱さも垣間見えます。

親会社Helios & MathesonのCEO、Ted Farnsworthは、すでにムービーパスの運営資金を先々2年分は調達したとの話ですから、急な店じまいが起きることはないでしょう。けれど、このタイムラインについて考えると「2019年までには黒字化する」のではなく、「黒字化していなければ保たない」というのが本当のところだ、とも言えるでしょう。

なにはともあれ、もう少し仕事のデキるパブリシストを雇って、広報活動を一本化するところから取り組むのが第一歩かもしれません。

この数ヶ月のブレ具合は、実にお粗末で無様だったものですから。

(文責:小原 康平)


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