「美しく老ゆ」あとがき・作品解説

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あとがき

不老不死に本当に憧れている人ってどのくらいいるのだろう。

僕は飽きっぽい性格なので、いつまでも続くものにはあまり興味がない。どんなにおもしろいテレビドラマでも7話くらいで見なくなってしまう。同じようにだらだらと続く若さに少しばかり倦んでいる気持ちがある。

もちろん同時に若さを惜しむ気持ちもあるのだが、早く歳を取りたいなという気持ちが少なからずある。(恐ろしいのは結婚できないことだ。)

「老い」は一般的にはネガティブなイメージの言葉かもしれないが、避けられるものではないから、その受け止め方はポジティブな方がいい。というか、愛する以外に選択肢がないのだ。目周りや口元の皺も白く染まる髪の毛も。

歳を取るスピードは人によって違うが、それを選んだり設計したりすることはできない。ただ結果として現れるだけである。

歳を取るということは、色々なものをすり減らし失ってゆくということである。一方で自分らしさは年々蓄積されて行く。だから歳を取るにつれて自分の芯は浮き彫りになり外観や振る舞いに強く現れるようになってくる。それが美しいものであった時には唯一無二の輝きを手にいれることになるし、醜いものであった時のことは言うまでもないだろう。

そして、その美しさは取り外したり着飾ったりすることができない美しさである。どんな時にも否応なしに現れてしまう。たとえ、何も喋らなくても、動かなくても現れてしまう。そして死んで灰になるまで輝き続けるだろう。

やがて失われてしまう若さや着脱可能な美にすがろうとすることは、もっと崇高で恒久な美を放棄することである。

だから歳は積極的に取りたいものだ。歴史の教科書に載る時、総じて若い頃の写真は使ってもらえないのだから。


作品解説

1 【写真集】「死して尚咲く花」

2010年の作品です。友人の結婚披露宴でもらってきた花を部屋に飾っておいたのですが、そのうちに枯れてきたのにも関わらず面倒くさがってそのままにしておいたのです。そしてふと見た時、枯れた花の美しさに心奪われ、思わずカメラを手に取って撮影したのがこの作品です。みずみずしさを失った時に初めて顕れる花の形や葉脈の美しさを留めておきたいという想いで撮りました。


2 【詩】「枯れてゆくことについて」

1の「死して尚咲く花」を撮ってから、枯れてゆくものの美しさについて考えるようになりました。また好きな作家の一人であるJ・M・G・ル・クレジオが著書の中で時折老いたものの美しさについて言及していたことも影響していると思います。そうしてよくよく世の中を見回してみると、歳を取るにつれて美しくなってゆく人がたまにいるのだということに気がつきました。そして、2014年の春にまた結婚披露宴で卓の花を持ち帰れる機会に恵まれた時、再び「死して尚咲く花」を撮ろうと思い、それに先立ってこの詩をつくりました。


3 【イラスト】「無題」

noteでマガジン機能がリリースされて本誌の作成を思いついた時、6の「老木と雲」の話を書こうと思いつきました。頭の中で構想を練りながらも、いつも書いているものよりも少し長くなりそうだという理由から、面倒くさがってなかなか書き始めていなかったのです。そんな風に「老木と雲」について考えながら手持ち無沙汰に筆ペンを手に持っていたら、なんとなく描いてみようと思ってこの絵を描きました。以前電車の中でとても頬の大きな中年の女性を見かけたことがあって、とても美人とはいえないお顔立ちではあったのですが、娘と話をしている姿がなんとなくチャーミングで大きな頬に福をたくさん詰めているようなそんな印象を持ったのを思い出して描いた絵えす。


4 【短編小説】「夜と朝をつなぐ青」

とても好きな映画のひとつに「潜水服は蝶の夢を見る」という映画があります。DVDも持っていて、もう何度も見ている映画なのですが、この映画の主人公が父親と電話をするシーンがとても印象的で、その父親から足腰が不自由でアパートから出られない老人という設定を持ってきました。     また、ベランダから通りを眺める老人というのは確かカミュの「ペスト」にも出て来ていたような記憶があって、そこから何か物語をつくろうと思い書いた作品です。                           物語を書く時はたいていいつもそうなのですが、まず人物の家庭環境から考えます。家庭環境や育ちがその人物の動き方や話し方、考え方さらに行動の選択に大きく影響すると思うからです。この老人の家庭環境を考え、孤独に設定した時に、この老人はあまり孤独を感じていないように思えて来ました。それが何故かと考えると、この老人が何にも期待をしていないからだと思いつきました。この老人が全く波風の立たない湖の湖面だとしたら、そこに何かを投げ込めばよい。それがどんなに小さなものでも、凶悪なものでも、この物語には十分だと思いました。


5 【写真集】「死して尚咲く花 #2」

前述したように、再び花をもらって帰る機会があり、また枯れた花を撮ろうと思っていました。だからといって、わざと枯らすようなことはもちろんしません。水に活けて自然に枯れるのを待ちました。この時、わざと形を操作しようとか何かを予測したりはしないように努めました。それでも「うまく枯れるか」と心配したりもしましたが、そもそも「うまく枯れる」という考えがナンセンスでした。結果として枯れた花が美しいのであって、そこにうまくいくもいかないもないのだなと思いました。この撮影をした時、もう少し待つべきかなとも思いましたが、結局待ちきれずに撮ってしまったのが今作品です。


6 【短編小説】「老木と雲」

このマガジンのために書いた作品です。歳を取らない雲と老木の会話という形で、僕が「老い」に対して考えたことをストレートに老木の言葉に乗せようという趣旨で書き始めました。しかし、雲が歳を取らないものだと適当に設定したのがおもしろく働いて、書いている途中で僕もいろいろと迷い、考えることになりました。あまり独善的で自己満足な作品にならないようにするためにも、その考えの迷いや疑問もそのまま台詞に乗せることにしました。結果として、なんだかまとまりのない作品になったような気もしますが、面倒くさいし、そんなまとまりのなさも嫌いじゃないのでまあいいかということにしました。別の作品でもちょくちょく登場していますが、最近雲や風といったものにただならぬ興味と不思議を抱いていまして、それいついてたらたら書き出すとまた収拾がつかなくなりそうなのでやめておきますが、そんなわけでたまたま雲を登場させたおかげで前半はすこしくどい文章になってしまいました。「少年と老木」でもよかったのかもしれませんが、ちょっと小奇麗な感じにまとまりそうだったので雲にしました。


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