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おからの猫砂、だめ、ゼッタイ|猫エッセイ#1

 2か月ほど前から、わが家の飼い猫チルが、ふしぎなトイレのしかたをするようになった。オシッコはぜんぜん問題ないのだけれど、ウンチのときに、トイレのふちに前脚をかけてコトを致すようになったのだ。

 トイレのふちの高さは10センチほど。チルはなにやら神妙で思索的な顔をしながら(猫がウンチのときにみせる例の表情ですね)、ふちにかけた前脚をピンと張って、股を広げ、そうして、ぼとり、ぼとり、とウンチを猫砂に垂らしていらっしゃるのです。

前脚をトイレふちにかけるチル

 はじめこそ、「妙な格好でやりよるなあ、ま、それも個性か」というていどに、こちらもたいして気にもとめてはいなかったが、毎度のウンチのたびにこの格好をやられてしまうと、だんだんと心配になってくる。ネットで調べてみたところ、どうやら、「トイレが気に食わない」ということの意思表示であるらしい……。

 うちのトイレはいわゆるシステムトイレではなく、排泄物で固まった猫砂を、そのつど片づけるノーマルなタイプ。チルが致すたびに(可及的速やかに)当該のかたまりを片づけてはきたものの、そうはいっても、トイレはトイレである。日が経つほどに汚れも雑菌も溜まり、いつしか、チルの許容度を超える不潔な便所(もはや公園の公衆便所並み)になってしまっていたのかもしれない、いや、すまない。

 ということで、まずはトイレを入念に掃除。トイレをパーツに解体し、ウタマロクリーナーを使いながら(困ったときのウタマロ頼み)、お風呂場ですみずみまで汚れを洗い流してみる。

 そうしてにおいも消えて多少は居心地がよくなったのか、しばらくは、チルはしかるべき体勢でウンチをしてくれるようになった。

 けれども、それも数日のあいだだった。結局、またすぐに、前脚をふちにかける例のスタイルに戻ってしまったのだった。

 そもそも、わが家のトイレは、チルを飼いはじめたときから同じものを使っていた。迎えいれた当初こそ、片手に収まりそうなほどの愛おしい大きさだったチルも、生後半年以上経って(まだまだ子猫ではあるのだけれど)、今では体重も4キロ(!)というなんともふてぶてしいボリュームに。

 なるほど、要するに、トイレが狭くなったのだろう。物理的に。

 ということで、今度は、それなりに大きなサイズのトイレを買ってみることに。

 そうして新しいトイレを設置したところ、広々として快適になったからか、あらためてしかるべき体勢でウンチをしてくれるようになるにはなった。けれど、またしても……。

 これまた、数日のあいだだけだった。この新しい大きなトイレのほうでも、(毎回ではないにせよ)しばしば、前脚をふちにかけて致しおるのである。

 連日連夜におよぶ妻との話し合いのすえ、ひとつのシンプルな原因がみえてきた。ははん、ほほん、もしかすると、この、猫砂そのものに原因があるのではあるまいか……?

 現在使っている猫砂は、ヒノキ製のものだったが、チルがトイレをするようすを見ると、砂の粒がやや小さいためか、なんだか砂の「踏み心地」が悪そうに見えないこともない。脚の指のあいだに砂をくっつけたままトイレから出てくることもしばしばで、さも厄介そうに脚先をふるわせて、それを払っていたりすることもある。

 ちょうど、郊外のカインズホームに車で行く機会があったので、藁にもすがる思いで、新しい猫砂を買ってみることに。

 そうして買いもとめたのが、「おから」タイプの猫砂だった。

 猫砂には、紙製のもの、木製のもの、鉱物系のものなどがあり、そのほかにこのおからを使ったものがある。それぞれにメリットがあるわけだが、このおからタイプは、「猫がもしまちがって口に入れても(さほど)問題がない」ということらしい。

 さて、それは日曜日の夜も10時を過ぎて、そろそろ人間どもは寝支度をしようというころだった。わたしはいそいそと、そのおからの猫砂をトイレに流し込みはじめた。これでようやく、チルはあのじつに不格好な、見るに痛ましいウンチングスタイルから解放されることになるのだ。よかったね、チル。

 ところが、である。

 おからの猫砂をトイレにドバッと入れたところで、チルがとことこ目ざとくやってきて、やたらと猫砂を嗅ぎだした。ほおお、さっそくにおいにつられて便意をもよおしたのかしらん、こりゃ、すごい、おからパワー、全開。などと感心したのもつかのまで、チルのようすをよくよく見ると、なんと、猫砂をぺろぺろ舐めて、口に入れようとがんばっているではないか。

 チル?!

 とわたしはあわてて制そうとするけれど、おからのにおいはますますチルの食指を動かすらしく、「こうと決めたらこうするんだ、ゼッタイに!」という、猫らしい例の強い意志の力を発揮して、なんとしてでもおからの猫砂を食べようとする。

 トイレには、おからの猫砂だけでなく、もとあったヒノキの猫砂も入っており、それらはもしかすると、これまでのチルの糞尿の残滓がこびりついているかもしれず、まちがってそんなものをチルが口にしてしまえば、腹を壊して病院送りになること、まちがいない。

 しかし、時すでに遅し。もう、おからの猫砂は、大量にトイレにぶちまけてしまっている。そしてヒノキの猫砂と撹拌させてしまっている。

 そんなこんなで、妻にも手伝ってもらいながら、ひたすらに、おからの猫砂とヒノキの猫砂を事業仕分けするはめになったのだった。ビニール手袋をはめて、トイレに手を突っこんでは、一粒ひとつぶ、おからの猫砂を取り除くという、無給の、サービス残業。

 作業は深夜におよんだ。日曜日の、深夜である。ああ、明日からまた給与生活者のユーウツな一週間がはじまるというのに……チルよ、なんでこんなものをおまえは食べようとするのか。それなりに値のはるキャットフードを、いちにち3食あたえているというのに。

 終わりのない猫砂の仕分け作業をしているうちに、チルへの幻滅はしだいにおからの猫砂、製品そのものへのいらだちへと変わっていく……そもそも、こんな製品があってよいのだろうか。おから製の猫砂だなんて、こんなにおいのついたものに食いつかない猫がいるのだろうか。

 おからの猫砂、だめ、ゼッタイ。

 このできごとを教訓に、もう二度と、わが家でらおからの猫砂は使わないようにしようと思ったのだった(とはいえ、個体差があるのでしょうから、なにとぞ、あしからず)。

ダンゴムシでしょうか? いいえ、チルです。

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