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セッション定番曲その69:Fragile by Sting

グルーヴ系のセッションでの歌モノ定番曲。ゆったりとしたテンポでも、ファンキーにアレンジしても、メロディーが際立つ名曲です。どんな内容の歌なのでしょうか。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:人は脆く弱いもの

ロックスターが歌うメッセージとしては、なんだか悲痛というか、弱々しさを感じますよね。まさにその点がこの曲のポイントです。かつて尖りまくっていたスティングが「ホントにヤバいよ、みんな」と歌うからこそ説得力があります。同じようなメッセージを偽善的なMJも歌っていましたが、どうも白々しく響いたものでした。

The Police時代の初期にはコワモテのイメージだったStingが環境問題などの様々な社会問題に徐々に目覚めて、ブラジル熱帯雨林の保護活動を行ったり、各地の人権侵害に対する発言を行ってするようになっていました。

「目を覚ませ 見つめ続けろ」 ~スティングからのメッセージ~|NHK

ポイント2:Ben Linder

この曲はBen Linderという人に捧げられています。日本では無名ですが、ザックリ言うと「中南米の共産化を防ぐ為に米国政府が密かに支援していたニカラグアの右翼組織に殺された米国人のボランティア技術者」でした。発展途上国の国民の為に支援活動をしていた善意の米国民を間接的とはいえ米国政府が殺害した、という事件。

Stingは英国人ですが、米国政府の理不尽さに憤ってこの曲を作り歌いました。相手を「テロリスト」と呼んでいるお前らこそテロリストじゃないか、と。歌詞で直接的にこの事件に触れている訳ではありませんが、その後も様々な社会問題について言及するたびに「Fragile」は歌われています。

ポイント3:ジャズミュージシャンの起用

The Policeも隙間の多い音作りが特徴のバンドでしたが、ソロ以降後のStingはジャズミュージシャンをバンドメンバーとして起用します。Branford Marsalis、Omar Hakim、Kenny Kirkland、などいずれも腕利き。彼らのテクニックやセンスを買ったのはもちろん、そういうジャズミュージシャンに大きなステージを提供する意図もあったのではないかと思います。1980年代のアコースティックジャズミュージシャンは、大きなフェスなどでない限りはジャズクラブか、せいぜいホールくらいの会場でしか演奏機会が無かったはずで、Stingなどの大物がステージに引っ張り出すことで注目を集める機会となったはずです。

この「Fragile」でもKenny Kirklandがキーボードを弾いていますし、この曲が収録されているアルバムのオーケストレーションはギル・エヴァンスが担っていました。
ケニー・カークランド - Wikipedia

ポイント4:On and on the rain will fall

On and on the rain will fall
Like tears from a star like tears from a star

この曲の歌詞の一番素敵な箇所がここだと思います。
何かを嘆いて降り続く雨は、まるで星から零れ落ちる涙のようだ、と。

On and on the rain will say
How fragile we are how fragile we are

そして、その雨は「自分達がいかに脆弱であるか思い出せ」と言っているかのようだね、と。

壊してしまえば元には戻らない自然環境や人々の営み、それが何故か蔑ろにされてしまっている、もう一度「大事なもの」を確かめ合おう、と。

「rain」が大事なキーワードになっています。「R」音をちゃんと発音しましょう。
「the rain will fall」は「R」音と「」音をちゃんと区別出来るように明快に。
「fragile」も実は発音の難しい単語です。ここにも「R」音と「」音が含まれていますね。

ポイント5:Tomorrow's rain will wash the stains away

冒頭の部分では何らかの暴力が行われたことを示唆しています。

If blood will flow when flesh and steel are one
Drying in the color of the evening sun
Tomorrow's rain will wash the stains away
But something in our minds will always stay

「flesh=肉体」が「steel=鉄で出来た武器、ナイフ?弾丸?」によって侵された時、血が流れる。それは夕陽の色(オレンジ色?)の中で乾いていくだろう。その「stains=染み、血痕」は次の日の雨で洗い流されてしまう。でも我々はそのことを忘れることはないだろう。

情景描写の中で色彩を想像させる言葉を巧みに使った印象的な歌詞です。

「one」と「sun」は韻を踏んでいます。
「away」と「stay」も同様。
さりげないですが、歌のリズムを整えている大事な要素。

ポイント6:That nothing comes from violence and nothing ever could

ここでは直接的に「暴力で問題が発展的に解決したためしはない」と訴えています。この前後の詩的な歌詞があるからこそ活きる箇所ですね。

音楽で世界を変える」ことは出来ないかもしれないけれど、少しでも声を届かせ続けることが大事なことだと思います。

ポイント7:様々なバージョン

原曲
何だかスペインっぽい(南米?)響きがしますね。

2010年のライブ


ジャズミュージシャン達のカバーも多い曲です。

Cassandra Wilsonはラテンアレンジで歌っています。ドラムはTeri Lynne Carrington。


Kenny Barron


Freddie Hubbard


原曲にあるスペイン風味を更に膨らませたもの


Esperanza SpaldingとHerbie Hancockによるカバー


Pedro Aznar、いい声ですね。


Simone、ジャズバラード(風)


Christine Milosi、タブラがいい味を出しています。

こちらも民族楽器による演奏。


普遍的なメッセージと無国籍的なメロディで、誰がどこで歌っても、しっとしとした印象になる名曲ですね。

■歌詞

If blood will flow when flesh and steel are one
Drying in the color of the evening sun
Tomorrow's rain will wash the stains away
But something in our minds will always stay

Perhaps this final act was meant
To clinch a lifetime's argument
That nothing comes from violence and nothing ever could
For all those born beneath an angry star
Lest we forget how fragile we are

On and on the rain will fall
Like tears from a star like tears from a star
On and on the rain will say
How fragile we are how fragile we are

On and on the rain will fall
Like tears from a star like tears from a star
On and on the rain will say
How fragile we are how fragile we are
How fragile we are how fragile we are

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