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詩|潮

人もまばらな浜
さみしさでできた
おおきな砂の山に
トンネルを掘る

たったひとりで
たったひとりだけど
見えない手と
つながりそうな気がして

陽が高い
汗が垂れて
髪が口に入る 
顎にも砂つぶがつく
スカートは腿まで捲って
トンネルを掘り進む

ふと
指先が
柔らかいものに触った
やっぱり誰かいたのね
掴もうとしたそれはするりと逃げた
わたしはさらに掘り進む
声も聴こえる
それはわたしへの歌?
それはわたしへのことば?
夢中になって
腕まくりじゃ足りなくて
タンクトップ一枚になって
腕の付け根までぜんぶ使って
掘り進んだ

今度は向こう側から掘った
陽が傾き出すのも
空腹も忘れた
疲れは感じなかった
歌声はときどき聴こえた
何か通じてる気がしていた

そしてトンネルは通った
砂地に頭をつけて向こう側をみると
ただ夕陽の色の水平線が見えるだけだった

手に触れた柔らかなものは
流れ着いた海藻だった
歌声は 波のおとだった

わたしは誰と話してたんだろう

項垂れると
この薄い胸にも穴が空いていて
風が通りぬける

もうすぐ潮が満ちて
ぜんぶ流れて消えてしまう
明日の朝には




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