「お祝い事好き」な名古屋では、結婚式にもお金をかけ、周りと一緒に盛大に行う独特の風習があります。例えば、たくさんの嫁入り道具をトラックに乗せて(ガラス張りのトラックもあります)、紅白帯などの縁起の良いデザインを施し、新婦の家から新郎の家まで運ぶ「嫁入りトラック」。結婚式当日、新婦の家の屋根からお客様に向かってお菓子をまく「菓子まき」。結納品の一つとして送る、反物で宝船や鯛などの縁起物を模した「呉服細工」など。もっとも、最近はこうした風習は減って、名古屋の皆さんが結婚式にかける費用は全国平均とあまり変わらないそうですが…
こうした名古屋独特の風習を織り込んで、娘の結婚に直面した時の夫婦、親娘の感情の機微、名古屋人気質を笑いと感動と共に描いた傑作がテレビシリーズの「名古屋嫁入り物語」です。
1989年から1998年にかけ全10作が東海テレビ制作、フジテレビ系で全国ネットされ、毎回東海地方では30%前後、全国でも20%前後の高視聴率をあげる人気番組となりました。
関西発のヒットドラマは、いろいろありますが、名古屋発でここまで全国区になったことは画期的です。私は、最初の仕事で名古屋支店勤務の経験があり、地元採用の庶務職員さんが「今日は、名古屋嫁入り物語を見ながら、かみさんと一杯やるのが楽しみ」と話していたのを思い出します。
1989年1月、当初2時間の単発ドラマとして「名古屋嫁入り物語」が放送されましたが、視聴率が良かったため、新作が作られ、1991年3月の第3作「これが最後の名古屋嫁入り物語」で終了する予定でした。継続を希望する声に応え、1992年3月には「名古屋出戻り物語」で復活、以降1998年7月の「東海テレビ開局40周年記念さよなら大放送　名古屋嫁入り物語10」まで、毎年全10作制作されました。
毎回、東京から出張してきたサラリーマン(主におぼんこぼん)が、飲み屋や蕎麦屋などで、名古屋の悪口をさんざん言って盛り上がっているのを植木さんが聞きつけ、激怒して追い出すとか、東京人との結婚を反対していた植木さんによる結婚式での感動の挨拶、騒動があって結婚式を終えた植木さんと山田さんの夫婦の寂しい中にもほっとしたような会話など、お約束のシーンが思い出されます。

生粋の名古屋人夫婦に植木等さんと山田昌さん。二人の娘役には、愛知出身のかとうかずこさんや川島なお美さんが扮することが多かったです。植木さんは、お隣の三重県出身ですが、流暢な名古屋弁をマスターし、お父さん役を好演。山田昌さんは、名古屋を中心に劇団「劇座」の代表として活動されていましたが、この作品で全国に知られる存在になりました。第8作には、川島なお美さんの結婚相手として草彅剛さんも出演していますし、最終作の花嫁役は、水野真紀さんです。
テレビのヒットを受け、名古屋中日劇場での舞台化が実現、1996年10月「名古屋嫁入り物語」、1998年11月「続・名古屋嫁入り物語」、2000年10月「新・名古屋嫁入り物語」2002年1月「初春寿・尾張嫁入物語」が上演されました。

第4作は正月公演で、遂に時代劇となり、尾張藩大須の赤ひげ先生一家に巻き起こる「嫁入り騒動」、江戸vs尾張の対立はいかに…という華やかな舞台となりました。
私は、4作全て鑑賞、中日新聞の方を通じて楽屋に入れていただき、植木さんにご挨拶する機会もありましたが、毎回満員の観客で、皆さん、心から地域発の人気作を楽しんでいました。

中日新聞編集委員(当時)の黒川光弘さんは、舞台プログラムの中で、植木さんについて次のように語っています。
植木さんの話を聞くのは楽しい。なにしろ、エピソードが豊富なのである。つい、先日も東京・明治座の楽屋で1時間余りも話し込んでしまって、あわてた。出番が迫っているではないか。ところが植木さんは平然としたもの。「あっはっは。あわてない。あわてない」ーまるで"こつこつ、やるやつは、ごくろうさん"
と言わんばかりである。どうやら、その若さの秘密はこの明るさに由来していると見た。かってのクレージーキャッツ時代から、ほとんど変わっていない。
そんな植木さんなのだが、こと芝居、それも脚本となると真剣そのものである。納得ゆくまで譲らないが、そこから湧き出るアイデアが素晴らしい。加えて周囲の演技を冷静に見つめている。それも「こんど、あそこに出ている、あの若い子ね。これはいいよ」といった話が多い。どうやら、あらゆる人の長所だけを見つけだそうとしているらしい。

中日劇場では、第5作も企画していたところ、植木さんから「体調の関係で舞台の主役を務めるのは難しい。準備を進めて迷惑をかけてはいけないからおりる」との連絡があったと聞いています。次作を見ることができず誠に残念ですが、この「名古屋嫁入り物語」という地域発ドラマが、植木等さんの晩年の代表作になりました。

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