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第17回「谷啓が誘う美の壺」

先日、NHKのアーカイブで谷啓さんが、ジャズにのめり込むきっかけとなったデュークエリントン楽団演奏の「りんごの木の下で」のレコードを探してアメリカを訪ねる番組が放送されました。

谷啓さんはクレイジーキャッツでトロンボーンを担当、クレイジーに入る前から「スイングジャーナル」誌などのトロンボーン奏者人気投票で常に上位にランクされる一流のジャズマンです。中央大学在籍時から日劇などに出演、舞台と舞台の合間に、気になっていた大学の月謝を払おうと駿河台まで飛んで行ったが、月謝を納める学生が列を作っているのを見て「カネを払うのに行列まですることはないだろう」という勝手な理屈で、クルリと日劇に戻り、それっきり、当然、大学は自然に除籍になりました。
非常にシャイな性格の一方、ユニークな行動でも知られており、このへんはいずれご紹介したいと思います。
この谷啓さんを案内役に起用し、2006年にスタートした美術番組が「美の壺」(NHK)。毎回一つのテーマを取り上げ、暮らしを彩ってきたアイテムの選び方や鑑賞法などを、いくつかの「ツボ」に絞ってわかりやすく解説。BGMにジャズが流れ、題字を新進気鋭の女流書家紫舟さんが担当する新感覚のアート番組としてブレイクしました。

取り上げるテーマは、盆栽、藍染、古伊万里、風呂敷、和菓子、根付などで、谷啓さんは骨董品収集が趣味の古民家に住む旧家の当主として登場します。日本のアートを紹介する番組ですがBGMのジャズが番組をお洒落に引き立て、海外でも放送されて日本の魅力を紹介する番組となっています。オープニングテーマは、ブルーノートを代表する名曲、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの「モーニン」です。番組で使われた楽曲のコンピレーション・アルバムも発売されました。ジャズマンの谷啓さんにピッタリの番組と言えるでしょう。番組には、谷さんの旧友として犬塚弘さんが何回か登場、2006年の番外編には、谷さんの元に久しぶりに手紙が送られてきたという設定で、植木等さんが声のみ出演。また、谷家には、ネズミ取りの上手い「ハナ」という飼い猫(キャット)がいるという設定もご愛嬌です。
谷さんの体調を考え、2009年4月から案内役が草刈正雄さんに引き継がれ、現在も番組は続いていますが、谷啓さん晩年を代表する仕事になったと思います。

クレイジーキャッツが個々の活動中心になってからも谷啓さんの音楽への想いは変わらず、1975年頃には「谷啓とザ・スーパーマーケット」というバンドを立ち上げ、ホテルやステージなど、俳優の仕事の合間をぬって精力的にコンサートを続けられました。クレイジーキャッツファン仲間と一緒によく楽屋へお邪魔しましたが、いつも丁寧に対応していただき、恐縮したのを覚えています。今は、日本を代表するトロンボーン奏者となった中川英二郎さんも、高校生の時、ザ・スーパーマーケットの舞台で演奏し、谷さんが「彼は、これからが非常に楽しみな逸材です」と紹介されていました。数年前、県主催のジャズイベントで中川さんが徳島へ来られた時、「高校生の頃の演奏を聴きました」と、ご挨拶するとビックリされてました。
私にとって、谷啓さんの思い出として強く印象に残っているのは、2005年、四国放送のラジオ番組「ちょっとパジャマは早すぎる」(パーソナリティは、今も「日曜懐メロ大全集」で月1回ご一緒している梅津龍太郎さんと岩瀬弥栄子さん)で谷啓さんのインタビューを放送することができたことです。谷さんのマネージャーさんに連絡してお願いしたところ快諾していただきましたが、ちょうど大阪の梅田芸術劇場で谷さんが佐久間良子さんと共演の舞台(「好色一代女」)出演があるので、その時に来てくださいということになりました。
谷さんと佐久間さんと言えば、1964年に谷啓さん主演で公開された「図々しい奴」「続図々しい奴」(東映、瀬川昌治監督)では、谷さんが憧れる良家のお嬢様役が佐久間さんでした。

結局、私が一人で行ってインタビューを収録することになり、当初30分くらいホテルでお話しを聞く予定でしたが、1時間以上、いろいろなお話しを聞くことができました。舞台千秋楽が終わった後のインタビューで、その後舞台の関係者との打ち上げが予定されていましたが、谷さんは「せっかく徳島から来たのだから参加時間、少し遅れてもいいから」とおっしゃってくれました。
クレイジーキャッツは、皆さん紳士の集まりで、心優しい方ばかりですが、この時もそれを実感しました。息子が生まれた後、谷さんにお会いした時に書いていただいた色紙は、我が家の宝物です。

#美の壺 #クレイジーキャッツ#谷啓#谷啓とザ・スーパーマーケット#中川英二郎#ブルーノート

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