榊英雄氏の報道を受けての私的見解

先般の榊英雄氏の報道を受けまして、幾度となく作品づくりに関わった立場から、私個人の意見や今後について綴らせていただきます。
思いのまま多岐に渡って書くため、長文となること、ご容赦ください。

まずは、榊氏により、また他にも同様な被害に遭われた方々には、心よりお見舞いを申し上げます。
そして、この度ご自身の辛い経験を告白された方々には、心からその勇気に敬意を表させてください。非常に胸を締め付けられ、また勇気づけられもしました。
私自身、氏への怒りや悲しみ、嫌悪など色々な感情が込み上げるとともに、この先もう誰も同じような被害で傷つくことがあってはならないと強く思い、そのために私ができることを考えております。
できることのひとつとして記していきます。

最初に、私と榊氏との関係やこれまでの経緯についてご説明をいたします。
2011年、榊氏は監督、私は俳優として、ワークショップで知り合いました。
翌2012年、榊氏監督の『捨てがたき人々』という映画で、出演者兼スタッフという立場で撮影に参加しました。
当時、多くの俳優がワークショップには参加しており、女性の中には氏と性的関係を持ったことを吹聴する人がいたり、氏に恋愛感情を持っているという女優から相談されたこともありました。この頃の氏への印象は「モテる、女性に手が早い」程度のものでした。
思えばこの頃から私自身、自らそうしたバイアスをかけて都合の良い見方しかできなくなっていたのだと感じます。
2013年6月、映画『木屋町DARUMA』の撮影に参加以降、いくつかの作品で脚本を担当するようになり、ワークショップにも参加しなくなりました。
2015年からは、氏のピンク映画4作品で脚本・助監督・出演をしています。本件の契機となった石川優実氏がご出演の作品もあります。
2016年末には、匿名ですが明らかに榊氏のこととわかる性加害を告発する記事が週刊大衆より出されました。また、「同様の手口で誘われたが逃げた」という女優である知人の話も聞いたことで、私の中で榊氏への不信感が芽生えました。
ですが、奥様から激しく叱責を受けたことや「懲りた。反省してる。もうしない」と話す様を見て、私は一応信じることにしました。
さらに「ピンク映画はもうやらない」とのことで、最後になるという作品に参加しました。これが2017年のことです。
その後はこちらから連絡をすることもほぼなくなり、最後に会ったのは2018年7月NHKドラマ『満願』の撮影です。ちょっとした出演で声がかかり、半日で撮影終了。夜二人で食事をし、双方の仕事の近況報告をしました。その中で、準備中の次回作で助監督をやらないかと打診され、お断りしたことを覚えています。
念のため、この打診は私の今後のキャリアにプラスになるように、との配慮からであったことも書き記しておきます。
以来、仕事で組むことはなく現在に至ります。

長くなりましたが、自身の整理のためにも書きました。
被害に遭われてる方におかれましてはご不快な思いをされるかもしれませんが、フラットに判断をしていただくため、良いことも悪いことも書いています。
榊氏とはプライベートでの親交はありませんが、こと仕事に関しては、言葉を選ばずに言ってしまえば、可愛がってもらっていた方だと思います。私も、脚本家として引き上げてもらった一定の恩義と、いち仕事人として慕っていた部分はあります。
この点に関しては、いかにご批判を受けたとしても、その感情自体に嘘をつくつもりはありません。
ですが、今回の性加害報道の件に関しては、まったく別の問題です。
一切の擁護の言葉もありません。
同じ業界人として、いえ、人として、最低で下劣な行為であると考えます。

一方で、自身を振り返り、多くの反省と後悔の念にも駆られます。
週刊大衆の記事と、未遂とはいえ渋谷に呼ばれるという手口を聞いていたこと、それらから合理的に判断して、他にも被害に遭われた方の存在は容易に想像できたのではないか?
気付かないように、鈍感であろうとしていたのではないか?
私は距離を置くことで逃げてしまったし、傷ついた、あるいはこれから傷つくであろう人から目を背けてしまったのだと思い、弱く身勝手な自分を悔い、深く反省しています。

同時に、私自身の感覚をこの業界特有の風土だとか常識だとかで塗り固めて麻痺させていたことを、改めて認識しました。
例えば、件のピンク映画の1〜3作目において、私は榊氏と二人で出演者の面談を行いました。その際、候補の女優さんに事前の確認としてショーツのみの格好になっていただくこともありました。
今、この行為の正当性に自身がひどく疑問を抱いています。
ピンク映画は、性行為(濡れ場)の描写があり、またその分量が作品尺に対してかなりの割合を占め、バストトップも映すのが慣例です。
(そうした作風の是非そのものは一旦ここでは置いておきます。)
私は当時、この行為を脚本家・助監督として正当性のある確認行為だと捉えていました。誤解なきように言うと、榊氏からの指示でということでもありません。私の立場は作品がつくれるか否かを左右する程度には強く、氏に意見することのできる立場でしたから。
つまり、私自身の判断に基づいて行なっていたわけです。「低予算で時間もない中、現場で刺青や大きな火傷や皮膚疾患が発覚したら大変だ」などと言い訳はいくらでもできました。
しかし問題なのは、それを当たり前のこととして疑わず、「濡れ場のある映画に出演するつもりで来てるのだから大丈夫だろう」と、無神経に、無遠慮に、女性に肌を晒させてしまっていたことです。
(女性だから男性だからという話ではありませんが、この例では女性に、という意味です。)
今ならもっと他の方法を考えるでしょう。仮に適切な方法がなかったとして、もっと言動や環境など配慮すべきことがあったはずです。
他にも、私が自主制作で作品をつくる際に濡れ場のシーンを求めることもありました。お願いする女優さんは面識もあり、事前に脚本や演出を十分に説明していますが、それだって“三輪が考える十分さ”でしかなく、相手は本当に納得できていたのか?本当に主体的に選択したのか?という疑問が残ります。
もし私が関わった作品において、不適切、不用意な要求、不十分な説明により傷つかれた方がいらっしゃったら、少しでもお気持ちの平穏を取り戻せるよう、誠心誠意の謝罪をさせていただきたいと思っています。

表面的な強い言動を伴わなくても「キャスティング権」という要素を内在させた上でのコミュニケーションは、どうあっても一定の「圧力」を感じさせるものであると、今は強く自覚しております。

そこで、

この業界に従事されている方たちへ。
今、当たり前のように行なっている業務、人間関係、コミュニケーションなど、それらすべてを一度疑ってみませんか。
立ち止まって考えてみてください。
そして、それを続けてください。
「自分には関係ない」と考えている人だって、何かしら反省すべき、改善すべきことが見つかるかもしれません。
また、相互に指摘し合える空気をつくっていくことも重要だと思います。各々がそうして自覚的であることで、関わるすべての人にとって心地良い、健全な業界になると考えます。
諸先輩方、もちろん私も誰かの先輩として、新たな文化を築いていきましょう。

現役の俳優業、また、俳優業を志している方たちへ。
キャスティング権を持つ人間に対して媚びる必要なんてありません。俗に「枕営業」などと言われる行為なんてもってのほかです。あたかもそうすることが当たり前かのように吹き込んでくる人たちもいますが、そんなのはまったくのデタラメです。騙す、時には暴力的に支配することが都合の良い人間による、一方的な洗脳であるとさえ思います。
私自身、役者や脚本や監督をし、キャスティングをされる側でも、する側でもあります。純粋に個性や演技力を評価してくれる監督やプロデューサーをたくさん見てきました。キャスティング権をチラつかせ性行為を要求する人間などクズです。
そういった人間を目の当たりにした時、それ以外の選択肢がないかのように錯覚し、心が麻痺してしまうかもしれませんが、そんな時はどうか思い出してください。
断じて、そんな要求に応じなくても仕事はできます。
「でも売れてるあの人も枕営業して売れたと聞く」「した方が近道なら」と思う方。
果たして本当にそうでしょうか?
むしろ性的な要求に応じた結果、心や体が傷つき、後悔の念に苛まれ辞めていった方を知っています。
そうした方たちが「近道だったよ」などと言うでしょうか。
「枕営業」というカジュアルな言葉に包んでいても、それが地位・関係性からくる不自由な選択であったなら、それは立派な「性被害」です。
(決して過去に性被害に遭われた方を非難するような意図はありませんことをご理解ください。)

最後に、

声を上げられた当事者に心ない言葉を投げかける方たちへ。
「役が欲しかったんだろ」「嫌ならその時に逃げればよかったじゃないか」
などの言葉は、二次的な加害となり、当事者をさらに深く傷つけ追い込む行為です。
また、今はまだ声を上げられずにいる方の声を奪う行為でもあります。
厳に謹んでいただきたいと、切に願います。


まとまりなく長文となってしまいましたが、今思うことのすべてを記しました。

今後、私個人としては、より十分な配慮の下、作品制作に携わっていくこと(例えばインティマシーコーディネイターの起用など)を誓うとともに、業界への働きかけを行なっていきたいと考えております。
より詳細な取り組みにつきましては、適宜ツイッターやブログなどでご報告をして参ります。

2022/03/15
三輪江一

追記
この度の契機となった石川優実氏、早坂伸氏の記事です。
まだ読まれていない方は、当事者の、関係者の抱える想いに一度触れてみてください。

石川優実氏
『日本の映画界には地位関係性を利用した性行為の要求が当たり前にあったな、という話』
https://ishikawayumi.jp/actress/

早坂伸氏
『榊英雄氏の報道について』
https://shin1973.hatenablog.com/entry/2022/03/10/025155

下記は、性被害に遭われた久保山智夏氏のブログです。
二次加害への無理解を減らす一助となるかと思い、掲載します。
『榊英雄氏の事件の報道を受けて』
https://note.com/kubochiiko/n/n6bed2ef8097a

※掲載に問題がございましたら、削除しますのでおっしゃってください。


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