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ぼくが自分なりの教材(NEJとNIJ)を作ったわけ

はじめに
 「コーディネータ(主任)の役割と責任、そして立場」(https://note.com/koichinishi/n/n8e73ad9cbf22)という記事で、コーディネータの仕事((1)から(3))の(1)として以下のように書きました。
 (1) コースの企画と計画
  (a) コースのエンドで達成されるべき目標の設定
  (b​) 目標に至る「日本語上達の経路」の構想
  (c) コース企画の策定(総括的評価の計画、形成的評価の計画を含む。)
  (d) (a)から(c)をかけ合わせての中心となる教材の選定(制作)
  (e) 具体的なコース計画(授業スケジュール)の作成
 本記事では(d)をめぐって書きます。

1.(a)から(d)の順でいけるか
 この(1)で重要な点(困った点)は、「(a)から(d)の順でいけるか」です。
 (a)から(c)の手順で、立派なコース企画ができたとして、さて、そのコース企画の下で適切な教材があればいいのですが、たいていはないでしょうね。あるいは、別の言い方をすると、コースの企画と計画は、既存の利用可能な教材をにらみながら進めているというのが実際の状況でしょう。つまり、既存の利用可能な教材にコースの企画と計画が「拘束」されているのです。
 一方で、既存の教材が、明確な(a)から(c)の下に作られているかというと、たいていそうではありません。たいていの教材は単に、教えることの「提示」と、授業で実施する活動の「提案」になっていて、「学習を支え、教育の実践をサポートする材料の提供」というふうにはなっていません。言語学習・言語教育の教材は、本来「学習を支え、教育の実践をサポートする材料の提供」であるべきだろうと思います。

2.既存の教材と自分なりの教材
 大学から協定関係の海外の大学に短期間(1年や2年?)出向する可能性をずっと前に想像したことがありました。海外大学に出講したとして、基礎(初級)コースや中級コースの担当になったとして、よく使われている既存の教材や、当該大学で制作した教材(海外ではしばしばある)をコースの教科書として使わなければならない状況になったとしたら、ぼくの海外大学でのお仕事は何とも「不本意な」ものになるでしょう。ぼくが(当時から!)イメージしている(a)から(c)に、既存の教材等はまったくそぐわないからです。
 それが理由ということではありませんが、いずれにせよ、基礎段階の日本語コースと中級段階(取りあえずは中級前半)の日本語コースの教育は改革しなければならないという思いをもっていました。そして、そんなふうに思っているところに、前任校のときに、「入門・基礎から上級までの独自のカリキュラムを開発しよう」というプロジェクトが始まりました。(概要は、https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/50713/MESE_14_001.pdf。科研費のページと関連論文は、https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-21320093/21320093seika/#product_1。)
 同プロジェクトをきっかけにして、それ以前から胸に秘めていた教育企画と教材制作を実現しようとなって、生まれたのが独自の教材、NEJとNIJです。

3.教育企画と教材
 これまでの大学の日本語コースや日本語学校の教育改革と言うと、結局は「教科書の変更」となっていました。まれに、「教科書の変更でない場合」もありますが、今度は、教育改革ではなく、「教材開発」になってしまいます。教育改革と言うのなら、本来的には、教育の企画の改革がまず行われて、それに関連する形で教材の制作が続くべきです。表現活動の日本語教育(教育企画)と、NEJとNIJはそのような関係になっています。

4.教育企画の移植
 表現活動の日本語教育の教育企画とそれを支えるNEJとNIJがあったおかげで、現任校の教育改革は順調に進んでいます。教材の変更ではなく、教育改革です。
 教育企画があるだけでは教育改革はできない。既存の教材では(たいてい!)教育改革はやはりできない。受入れ可能な教育企画と、その教育企画を支える教材の両方があってこそ、具体的な教育改革ができるということのようです。

5.(補論)学校生活・学生生活の日本語
 表現活動の日本語教育の基礎段階である自己表現活動の基礎日本語教育は、その名の通り、自己表現活動を採り上げて、中身の表現活動を中心として日本語の基礎力を育成しようとする教育企画です。しかし、その教育企画には、「学校生活・学生生活の日本語」を習得させようという目標は含まれていません。ですので、同コースを修了した学生は、必ずしも学校生活や学生生活を日本語で運営することをうまくすることができません。自己表現活動を主目標として、副目標のコンポーネントとして、基礎段階後半の教育に追加するのが適当だと以前から思っています。その教育を支える教材のタイトルは『リンさんの学校生活』? 現在、研究中。
 


 


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