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5. ブロックチェーンの有効性【東大AI研究者のノート】技術者でないあなたもブロックチェーン技術が与える社会インパクトを正しく理解する

前回までのあらすじ

こんにちは!普段は東京大学松尾研究室ってところでAIの研究やっているたむこうです.今回は【東大AI研究者のノート】技術者でないあなたもブロックチェーン技術が与える社会インパクトを正しく理解する ~4. ICOと規制~の続きの記事になり,いよいよブロックチェーンで何ができるのか?について考察およびまとめをおこなった記事です.

15. ブロックチェーンは過大評価?

世の中では,ブロックチェーンの使い道について,様々な有用性が主張されています.例えば,

1. どんなデータでも安全に改竄されることなく保存できる
2. 第三者を信用することなく取引できるので,あらゆるものを効率化できる

などと行った主張です.しかし実際には,技術を理解すると以上のような主張は,誇張や拡大解釈であると感じます.

1. どんなデータでも安全に改竄されることなく保存できる ということに関してですが,ブロックチェーンはデータ保持の効率性は非常に悪いです.前の記事を読めばデータ保持の仕組みがわかりますが,ブロックチェーンでは何度も複製されたデータベースに書き込んだり,チェックをする必要があります.ブロックチェーンはただデータが書き込まれているだけで,検索など実際の用途において従来型のデータベースの方が優れています.また一度書き込んだデータが変更しにくいこと,一度開発したシステムを変更するには(特にPoWの場合)参加者全体の合意を得る必要があるため,非常に困難です.

これらはブロックチェーン界隈における技術開発によって解決される可能性はありますが,少なくとも現状の技術ではデータベースとしての使用は(特にビジネス適用において),非中央集権的であるという点をのぞいて有用性はないでしょう.また,特定のドメインで非中央集権であることが優れているという主張も多く聞かれますが,それらの多くはブロックチェーンによるコストと非中央集権的であるメリットのトレードオフにおいて見合ったものとは言えません.

もちろん,ブロックチェーンにおけるインフラ技術が発展すれば,データベースとしての使用も大きな可能性を秘めているでしょう.例えば,EthereumのコミュニティではEthereumのスケール性の問題を解決するplasmaなど,多くの開発が行われています.私は,こうした技術発展に期待し,今後も注目していきたいと思っています.

2. 第三者を信用することなく取引できるので,あらゆるものを効率化できる

こちらにおいても,既存技術よりも優れたものであるどうかという重要な視点から有用性を主張する必要があります.実際,中央集権的であることが大きな問題ではない場合,ブロックチェーンを用いる意味はほとんどなかったりもします

ブロックチェーンのデメリットとして,

1. 開発コストが大きい
2. インセンティブ設計が難しい
3. メンテナンスコストが高い
4. 悪意のあるユーザーを排除しにくい
5. アップデート性が低い
6. 拡張性がない

参考: ブロックチェーンは、メリットよりデメリットのほうが大きいのか?

ということが挙げられており,これらのデメリットを認知した上でもなおメリットがある領域に対しての適用が望ましいです.

例えば,「お金」は最たる例です.お金はインセンティブ設計が比較的容易で,かつ大きな変更が必要ない(というか変更しては困る)ものであるから,ブロックチェーン適用のメリットは大きいと考えられます.

- 価値のやりとりが頻繁に行われているもの
- 価値がお金よって数値化されていなかったが実際には価値があると思われる

ものに対してブロックチェーンを適用するメリットはデメリットを上回る可能性があるでしょう.

価値のやりとりが頻繁に行われている産業,例えば銀行(決済),不動産,自動車,証券など,今まで中央集権的に行われていた価値の送信におけるコスト(検索,契約,調整など)が大幅に下げられれば,社会的インパクトも大きいと期待されます.すでに価値があると考えられているものに対して,所有権のやりとりをブロックチェーンで行うことができれば,今まで仲介されていた手数料分の効率化が期待されます.

また今まで価値がお金によって数値化されていなかったが,実際には価値があると思われるもの(具体的には個人の内的動機や感情に基づく価値,およびボランティアなど社会や共同体を持続させるための行動など)に関して,トークンを定義することで価値を数値化することができます.こうすることで,コミュニティにおける価値観やシステムをコントロールすることが可能になり,新たな経済圏を定義できるようになるでしょう.

16. トークンエコノミーとは? 

ブロックチェーンによってなされる変革として,一番大きな有効性と考えられることはトークンエコノミーの設計が可能になったことだと言えます.既存の資本主義では,「実世界で役にたつかどうか」という単一指標によって評価が行われてきましたが,今後は様々なものに「価値」を定義し,評価することが可能になります.さらに,今まで情報はインターネットによって送信することができましたが,「価値」は銀行などの中央集権機関の信用に依存して送信されていました.ブロックチェーンおよびスマートコントラクトによって,そうした中央集権機関を介することなく価値の送信が可能になりました.

価値の定義や送信が可能になったことで,誰もが新たな「経済圏」,トークンエコノミーを創成できるようになります.

16.1 持続可能な(トークン)エコノミーとは?

誰もがトークンエコノミーを創成できるようになったとしても,技術面以上での困難が存在します.それは持続可能な経済圏のシステム設計をきちんとすべきであるということです.これは非常に重要な考え方であると思います.AIでもブロックチェーンでもなんでもそうですが,技術というのは常にソリューションであって,目的ではありません.ブロックチェーンは,持続可能なトークンエコノミーの設計に必要な技術の一つにすぎません.

経済システムでは,以下のように言われています.

誰か特定の人は必死に動き回っていないと崩壊するような仕組みでは長く続きません
引用元: お金2.0 新しい経済のルールと生き方


またお金2.0 新しい経済のルールと生き方ブロックチェーンレボリューションには,持続可能な経済の要件や,未来をデザインする上での原則をまとめられています.

1. インセンティブ
2. リアルタイム
3. 不確実性
4. ヒエラルキー
5. コミュニケーション

16.2 分散型社会

現在,メルカリやAirbnb, Uber,シュアリングエコノミーのプラットフォーム,YouTubeなどの評価経済に基づくC2C系サービス,ビットコインなどのトークンエコノミーの流行は全て分散化のトレンドと見ることができるでしょう.
これらの仕組みは,面倒な手続きや機能を中央のサービスがインフラとして整え,経済圏を定義することによって,個人が参加し活動を行なっており,

近代の「代理人型社会」とこれからの「ネットワーク型社会」の良いところを混ぜたハイブリッド型のモデル
引用元: お金2.0 新しい経済のルールと生き方

だと言えます.

ブロックチェーンによって(というよりもEthereumによって) ネットワーク内で完結かつ独立する経済圏(トークンエコノミー)を設計することが可能になり,中央に集まっていた富が分散しています.

15.3 AIによる自律分散型Economic system

DeepLearning技術のブレイクスルーによって,多くの領域において自動化が可能になっています.
分散型社会において今まで人がやってきたものがAIによって自動化されると,ブロックチェーンの技術と組み合わせることで,自律分散型Economic systemを形成することが可能になるかもしれません.

17. まとめ

ブロックチェーンは,不可逆性や匿名性をもたらす優れた技術です.しかし,現状の技術や社会の需要を考えると,ブロックチェーンに対して技術理解が乏しい人たち,もしくは技術が目的になっている人たちによって,その有用性が誇張されています.それらの多くは,既存の技術との差分や,中央集権的に解決していた課題の存在や付加価値(不正の存在や本人確認など)を無視した主張が多い印象です.

私は,上述したようにブロックチェーンにおける有用性は,価値の定義と送信にあると考えています.

既存技術との差分は,Ethereumコミュニティなどブロックチェーンの基礎技術を支える技術者たちによって,今後解決されると期待しています.もし計算コストなどにおいて既存技術に対して同等以上のパフォーマンスを出せるとすれば,確かにブロックチェーンを用いる方が良いでしょう.

また今まで中央集権的に解決していた課題の存在や付加価値は,ブロックチェーンによって解決するのではなく,経済圏の設計やAI技術による自動化によって解決する必要があります.それらは現時点の課題を解決する重要な技術であり,AIの研究をしている立場としては,そうした技術の研究開発によって社会貢献,および将来訪れるトークンエコノミーの世界に貢献できたら幸いです.

以上



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