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マトリックス医学への道(2)

 コラーゲン線維周辺の水分子の状態から、慢性炎症への準備段階へとつながるミクロの環境について前回は解説しました。今回はそれに引き続く、末梢循環のミクロな環境において、どのように循環不全の火種が生じるかを考えていきます。

 末梢循環のモデルとしては動脈が枝分かれして次第に毛細血管へ移行し、ガス交換の後に、静脈へと合流していく。そこではガス交換に限らず、栄養やホルモンといった物質の移動も行われ、組織外液は一部、盲端となっているリンパ管に吸収され静脈へと環流される。これが通常の解剖生理学における末梢循環の説明である。
 しかし近年、この細胞外液のエリアにおいて、プレリンパと称される液体を内包する管が生体の直接観察により判明した。いわゆるコラーゲン線維に囲まれ内皮様の細胞の内側に、このプレリンパが存在する。つまり、ただ外液として存在しているのではなく、管様の構造物内を液体が通っていることになる。
 またファシア内部にも液体が存在するから、毛細血管周辺には血管内の血液だけでなく、リンパ管のリンパ液、さらにはファシアの内包するプレリンパが大量に存在することになる。とりわけ、血管周辺にはファシアが多く存在するから、「瘀血」と言われるうっ血がある場合には、その周辺もまた液体がうっ滞していることになる。

 こうした環境は、うっ滞がひどくなれば、毛細血管観察鏡では不明瞭な毛細血管像として観察される。また、毛細血管のうねりや湾曲などの変形像も、周辺の微細なコラーゲン線維の束により生じた引きつりと考えれば、後天的な変化として説明がつく。
 では不明瞭にさせているものは何か。今度は光学顕微鏡や、暗視野顕微鏡にて観察可能な新鮮血で考える。ここでは病的状態として、赤血球の連銭形成がみられ、毛細血管通過困難な状況から血管像の消失(ゴースト血管)を生じたり、またフィブリン網が藻状構造物として観察されることから、それらが血管外で析出して血管不明瞭像を形成すると考えられる。これらはいわゆる従来の「瘀血」といった概念だけでは、明確な説明になっておらず、コラーゲン線維の集合体としてのファシアを念頭に置かないと説明しにくい。

 これは実際の刺絡治療において、多くの瘀血が引かれることや、それらの粘性が極めて高いことなどの説明として不可欠である。つまり従来の瘀血は、その実態としては血管内部の停滞した血液に加え、血管外かつファシア内のプレリンパも大量に混在していることになる。
 こうした末梢血液の環境により、「瘀血」が形成される可能性が高いので、むしろ血だけの問題ではなくファシアが大きく絡むことから「ファシア瘀血」と称することが妥当であると考える。

 こうしてファシア瘀血という概念を導入することにより、慢性炎症などからファシア重積などのファシア病変へと連続する筋道が立ったことになる。この末梢循環の理解を基礎として、いよいよファシアの病態、さらには線維化へと解説を進めていくことにする。

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