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癒し系男子と囚われ生活 徒然コラム

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単行本1巻カバーイラスト

前書き


これは私、漫画家・聖ゆうか が、
漫画を休んでいる間に暇潰しに書き溜めた、
完結済みの著作について語った文章を再編集したものです。

ネタバレを含め本編の内容や、当時の思い出話、
話せる範囲の裏話などを徒然と語っております。

著作を知らない方も未読の方も、そもそも私のことを知らない方も、ネタバレを気にしない方ならどなたでもどうぞ。
暇つぶしに冷やかしていって下さい。
不器用な漫画家の苦労が垣間見えて、面白いかもしれません。


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単行本1巻カバー
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単行本2巻カバー

竹書房公式作品紹介ページ▶1巻
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この作品を描いたキッカケと漫画家「聖ゆうか」のはじまり


「癒し系男子に監禁されるTL漫画を描いて下さい」という、編集部のリクエストで描きました。
当時の私が、「癒し系男子は監禁なんかしねぇ!!」と一刀両断したのは言うまでもございません。

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まあ、結局はこのようになんとかしたのですが。

当時、私は同社の男性向けのレーベルの方で先に連載のお仕事を頂いていたのですが、元々アマチュア時代に少女漫画を描いていたこともあり、
ちょこちょこTL漫画の読み切りを単発で描いていたこともあり、
それなら新しく立ち上げるTLレーベルでも是非、という流れだったと思います。

結果的に、元々描いていた男性向けよりもこの作品の数字の方がグンと伸びまして。

同じ会社だったので、TLの連載に集中して欲しいと、
男性向けの方は打ち切りになってしまったのですね(笑)

その後も、来世らむたとして一般向けの少女漫画や女性漫画を描きながら、
聖ゆうかとしてはメンズコミックではなく、TL漫画を描き続けることになった。

というのが、漫画家・聖ゆうかのはじまりです。

ちなみにペンネームは、元々は男性向けを意識して
「聖⭐︎チャイルド」という名前を使うつもりだったのですが、先にTLの読み切りの原稿の掲載が決まってしまったので、その雑誌の編集さんに「もっと女性らしい名前にして欲しい」と。
まあ、言葉を濁さず言うなら、強制されまして(笑)
それならまあセクシー女優っぽい名前にしましょうかと、聖という漢字だけ残して下の名前は適当に考えました。

人にこんな急ぎの仕事を切実な状況で頼んでおいて、作品の内容ならまだしも名前にまで注文をつけるとは、編集者というものは皆こんなに不遜なのか?と、当時は正直思いましたよ(笑)

まあでも、結果的に女性の読者が作品に入りやすくなったのは確かなので、
変えて良かったと今は思ってます。

なので、正直この作品の特に初期の濡れ場シーンは、
ほぼほぼ男性向けのタッチとノリですね。TLについては本当に勉強不足でした。
期待したものと違った読者の方には申し訳ない。

元々私は男性向けも、積極的に仕事にするつもりはありませんでした。
そもそもはダウンロード同人誌を個人的に作ろうと思っていたのです。
絵が上手くなりたいという一心で。
裸とアクロバティックな構図の練習が目的で、燃え滾るエロ魂やフェチズムが動機ではありませんでした。
今にして思えば、そんな不純なエロ漫画は誰が読んでもつまらないので出さなくてよかったと思います(笑)
男性向けのエロ漫画家さんって、本当に素晴らしく絵が上手いじゃないですか。
こんなふうに描けるようになりたい!と憧れていたのですよ。

TLは、個人的に好きな作家さんのものはずっと読んでいたのですが、ジャンルの特性を意識して読んだことも描いたこともなかったので、
TL漫画を仕事としてその後も描き続けていくというのは、なかなか大変なことでした。
しかし苦労の甲斐なく、私の漫画は今もTLじゃないとよく怒られています。
辛い(笑)



内容について


これはもう、完全にアダルトチルドレンの話ですね。

アダルトチルドレンへの世間の風当たりの強さがそのまま内容のレビューに出ており、大変興味深いです。

私の一方的な見解ですが、同じ毒親育ちの人の方がアダルトチルドレンに対してより厳しい、という印象があります。

人生で大変な思いをしてきた人ほど、
それでも自分はまともに生きなければと気を張って努力し続けている人ほど、
犯罪じみた行動を起こす和馬や、他人に流されてフラフラする彩乃が許せないのかもしれません。
勝手な憶測をして申し訳ございません。
異論は受け付けますのでどうぞコメントして下さい。
私は、それは非常に正しい反応だと思っています。

私は描いてくれと言われれば、大抵何でも描く、節操のない漫画家です。
いろんな作品を描くのが楽しいからです。
私は、自分の価値観が正しいと主張したい、という動機で漫画を描いたことは一度もありません。
この辺り、よく誤解されるというか、作者と読者(担当編集すら含む)の間で認識の隔たりがあるなぁとかなり前から感じているのですが、私自身は作品にメッセージ性を込めているつもりはまったくないのです。

自分の感覚を最終的には信じて作品を描いていますが、「正しさ」よりも、「面白さ」を追求しているつもりです。
そして、「面白さ」というのは、所謂定番のハッピーエンドだけではなく、ストーリーの先に色んな形で無限に広がっていくものだと信じています。

内容の話に戻ります。
当時、アダルトチルドレンを特に意識して描いた訳では特になかったんですが、今読むと和馬がもう…ものすごくアダルトチルドレン。
子供を手駒として扱う父親、子供を守るより自分の女としての自尊心を守るために不倫に走る母親、という機能不全家庭で育った和馬。自分も他人も、どうやって大切にしていいのか分からない。健全な愛し方がわからない。親から教えてもらった方法でしか、他人と繋がれない。精神的にも、肉体的にも。
どんなに酷いことをされても、親から愛されていなかったと子供はなかなか認められないものです。
そこに愛があったはずと無意識の深層心理で、盲目的に信じてしまう。そして親の行動をなぞってしまう。

束縛、拘束、モノ扱い。
これは呪いです。

それに比べて黒瀬は、普通に良い奴としか言いようがない。育ちのいい人は残酷ですよね。黒瀬が持ってる、当たり前の感覚が当たり前じゃない人もたくさんいるのですよ。だからと言ってもちろん、和馬の歪みを正当化していいということではありません。

でもね、アダルトチルドレンって本当に切なくて、やるせないんですよ。
子供なら当たり前に差し出されるはずの、大人からの救いの手が差し伸べられないまま、或いは差し伸べられていても目の前が真っ暗でそれさえ見えないまま、大人になってしまった人たちなんです。
そういう人たちを正しさで打ちのめすのが社会だとしたら。その様子を描いて読者がスカッとするのが漫画の役割だとしたら。あまりに排他的で悲しいと思います。

好きです、この話。
たぶん、初めての連載だったからだと思うんですけど…私の筆に気負いがないんですよね。全然背伸びしてない。

キャラクターも、等身大。
黒瀬も和馬も、男として全然かっこよく描いてない。むしろ、情けないところをよく描いてる。黒瀬など番外編にいたってまでダサいところを晒しています(笑)なんなら顔も普通ですし。
彩乃も、別に可愛く描こうとも、読者に好かれるようなキャラにしようとも、まったく思ってない。
こういう恋愛に依存しがちな女の子、いるよね〜って感じ。

男も女も、いくらかっこつけたって、こんなもんよね、でもだから、いいんじゃない、というゆるさ。
ていうかね、別に、弱くてカッコ悪くて当たり前だと思うんですよ、人間なんて。間違えて、当たり前。
和馬のように、まるで防衛手段のない子供が、その世界の全てである親に守ってもらえなかったり虐待されるのとは訳が違います。
この人たちはもう大人ですから。そして、若い。
若いうちは迷うことも間違うことも傷つけ合うことも、すべて財産になります。

改めて初期の作品を読むと、プロとして執筆経験を重ねるうちに、無意識に私は読者に嫌われる要素を排除しようとばかりしてしまっていたのだなと、気付きました。
でも、実際は全然排除してないんですけどね。
君抱きの東雲編なんて、編集部すら、こんな展開は勘弁してくれとずっと思ってたと思いますよ。今もそう思ってるんではないでしょうか。いつラブラブエッチが出てくるんだ?この漫画は何漫画なんだ?と、内心。いや、言葉には出して言われておりません。憶測ですけど。

今振り返ると、この作品における私のスタンスは、非常によかったなあと思います。
いかにも漫画らしく美男美女が美しく睦み合う様は確かに素敵ですが、
別に特別カッコよくも可愛くも素敵でもない、当たり前に欠けたでこぼこの男女たちが、間違って傷つけ合いながらも、咽び泣くくらい愛し愛され合ってるなんて、なんとも可笑しみがあって、めちゃくちゃ夢があるじゃないですか。美男美女なんかじゃなくても、特別なんかじゃなくても、手ひどい失敗をしても、誰だって本当は、愛し愛されてとびきり幸せになれるんです。

TL界は完璧美男がコンプレックスは大小あれどほぼ完璧美女を溺愛するスウィートな作品が主流なのですから、バケモノ級に絵が上手い同業の皆様と同じ路線で張り合って生き馬の目を抜くより、あえてこの路線で勝負していった方が個性があってよかったのではないかとさえ思いました(笑)
と言っても、今も私は別に主流の作家でもなんでもないですけどね。本当、端っこでゼェゼェ、なんとか息してます。

ラストの展開は非常に漫画らしいと思います。

子供が毒になる親に社会的制裁を与えてぶっ潰し、過去を超えていく。現実はこうはいかないですよ。
でも、スカッとする読後感には仕上げないのが、自分らしいなと思いました。

心に傷を持ったヒーローと、それを癒そうとするヒロイン、という構図は、90年代の少女漫画ですよね。
最近あんまり、こういう殺伐とした作品は見ないですねえ。
読者の皆様、疲れているのでしょうね。



絵について


連載当時は、新人でお金がないためアシスタントを雇えず、けれど稼ぐために連載を常に複数掛け持ちしていて、原稿の制作期間がいつも2日〜長くても1週間くらいしかとれませんでした。
アマチュアの投稿作より絵が下手になってしまったと、当時は原稿を上げる度に落ち込んでいたのですが、状況を鑑みると、1人で精一杯よくやっていたと思います。
絵に関しては最後まで、なかなか納得のいくクオリティを出せなくて、この作品そのものを描かなければよかったのかもしれないとか、プロ失格だとか、落ち込んだこともありましたが、どんなに絵が荒くても、この作品を描いて心から良かったと今は思ってます。
もっと後年の私の作品を知ってる読者から見れば、衝撃的に荒い絵だと思うので、心苦しい気持ちは今もとてもあるのですが…。
番外編は、少し余裕が出来て、アシスタントさんを使ってます。単行本は時間の許す限り絵を修正しました。



最後に


初めての連載作品ということもあり、この作品の読者の方には本当に感謝していて、面白かったと言って下さる方にはシンパシーすら感じてしまいます。

絵という漫画における圧倒的な武器を、未熟ゆえに研磨が足りず生かしきれなかったのに、それでも内容をしっかり読み取って、キャラクター性を把握して、エッチシーンに萌えて下さった。天晴れな読解力としか言いようがありません。私が今もTL作品を描き続けていられるのは、皆様のおかげです。

そんな読者の方の期待に応えたくて、以降の作画は、より効率を意識して綺麗な絵になるように努力してきました。

闘病生活によってそれは一度破綻してしまいましたが、腐らずこれからも頑張っていきます!

この文章を読んで、読んでみようと思う稀有な方が現れないとも言い切れないので、最後は商業作家らしくAmazonリンクを貼って締めたいと思います。

乱文乱筆失礼いたしました。ご愛読ありがとうございました!


聖ゆうか

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