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MOTを知る特別講座2019 「クラウドソーシングで変わる社会」 聴講メモ

○MOTについて
https://school.nikkei.co.jp/special/mot_tit/

○講師
東京工業大学 環境・社会履行学院 比嘉邦彦

○序論
クラウドソーシングを活用したオープンイノベーションがテーマ。
今回話す事例はいずれも海外のもので日本の企業では難しい。
日本企業でどう扱うべきかにも触れる。

○クラウドソーシングとは
・日本では2011年ごろから実務的な企業が立ち上がり、クラウドソーシングの認知度も上がった。
・当初は不特定の群衆(crowd)から選ばれた個人・法人へsourcingするものだった
 →現在は「特定グループ」の中から選ばれた個人・法人へのsourcingも増えている。
・さらにここ数年は人材以外のあらゆる資源のsourcingへと拡大している。
 →ネットを介して取引可能なもの全て
・このような社会を「Open Resource Society」と呼んでいる。
・資源の所有者がいてインターネットを介して使いたい人と取引するのが、
 CSの基本的な仕組み。
 →必要な資源の存在有無、量、品質などを共有するため、
  仲介するプラットフォーマーが現れた
 →資源提供者、利用者の両者からフィードバックを得て、
  認証・評価DBによって公開している。
 →プラットフォーマは両者のマッチングと
  情報共有による質の保証を担っている。
・UBER, AirBnB, Kickstarterは全てクラウドソーシング
 →USERは自家用車、AirBnBは自宅をリソースとして
  所有者のリソースをインターネット経由でマッチングし、
  利用者に提供している。
・海外では日本以上にクラウドソーシングの広がりが多い。
 →大きく分けるとヒト、情報、金、サービス、モノ。
 →経営資源全てがクラウドソーシングできる
 →海外ではクラウドソーシングのみのリソースで運営する企業もある。
・CSで取引される仕事はホワイトカラー全てが対応可能
 →アイディアを持った社長1人でクラウドソーシングで事業化することが可能。
・CS自体は1990年代に米国で発生したが流行らなかった。
 →インタネットの発生でマッチングが容易になったが、2004年ごろも流行らず。
 →2010年にオバマ大統領がオープンイノベーションをキーワードに
  CSの積極的活用を指示。急成長を遂げた。
 →理由はイノベーションの促進。
  CS活用により大幅なコストカットとスピードアップ化(5倍)
  オープンイノベーションにより国力強化

○クラウドソーシングサイト例
・CSの主な総合型サイト
 総合型サイトはホワイトカラー全てを網羅
 海外
 ・Freelancer(豪):登録者数が最大規模で約2840万人。
 ・Upwork:
 国内
 ・Lancers:2008年設立、非上場。Crowdworks
 ・Crowdworks:2011年設立。
 アクティブな登録者の割合は海外20%、国内10%程度と言われる。
 それでもかなりの人数がいる。
・CSの主な特化型サイト
 ・InnoCentive
  Eli Lilly(医薬系大手)が自社の問題をオープンイノベーションで解決するために設立
  あまりにも上手くいったためInnoCentiveとしてサイトオープン
  高度な問題解決を目的としたCSサイト
  登録者の大半がPHDホルダー。専門家だけが集まっている。
  報酬額も$5000〜$1millin+
  報酬額が絡むも(Premium challenge)は脅威の80%解決率
  →多くの依頼者がトップ企業。トップ企業が自社で解けなかった課題。
   それがCSに出すと3ヶ月で解けてしまう。
   解決した人にInnoCentiveがどうやって解いたかをヒアリング
  →「最初から解き方を知っていた。」
   つまり分野が違うということ。製薬の課題はそれ以外の分野知識で解決できる
  →ダイバーシティの有効性をInnoCentiveが証明している。
 ・Kaggle
  データサイエンティスト(DSに特化したCSサイト
  登録者60万人全員がDSと呼ばれる人。ビッグデータを扱い分析できる人たち。
  データ分析などの問題を扱いランキングを公表。
  Top100の日本人は18位, 52位, 65位, 75位, 79位(2019/2/20時点)
  過去最高は2位→水田さんという人でGrandMasterの賞を持っている。
  →Kaggleはクラス分けしており、このクラスのDSのみに案件を提示することができる。
   特定グループのCS。
   案件を不特定多数に公開したくないというケースもある。
  →世界中の企業がDS人材雇用にKaggleを利用
  →日本はリクルートとメルカリの2社しか実績がない。
   リクロートは「ポンパレ」の購買データをもとにクーポン購買予測の問題を提示
・NASAがCSを使う理由
 ・スペースシャトルの外で作業するときに太陽のフレアが発生すると退避しなければいけない。
  フレアの発生の予測が必要だった。
  →NASAの今までのモデルは4時間以内の発生を50%の精度であった。
   半々の精度で信頼性が低い。そこでCSでアルゴリズムを募集した。
  →定年退職した無線通信技術のエンジニアが8時間前に85%の精度で予測できるものであった。
  →NASAの人もCSに出すまでは、一般人がNASAよりも優れたものができるという期待はしてなかった。
   しかし、NASAよりも優れたアルゴリズムを作った人が40人以上いた
   それ以降、NASAはCSを積極的に使うようになった。
・Challenge.govの高額案件例
 DOE(アメリカ省庁)がLEDランプの性能をコンペに出す。
 優勝賞金は$15million
 →政府がやっているため、優勝者の技術はアメリカ国内に無償提供された
 →LEDランプの市場が1年後に急成長
 →効果を考えれば$15millionの賞金は安かったのでは。
・DARPAの活用例
 ・DARPAはアメリカ国防長の下部組織。軍に関する技術開発を行う。
  インターネットの開発もここでやった。
 ・今のままでは2054年に最新の軍用機1機のコストが全軍事予算に匹敵すると予測
  CSを使ってコスト削減できないか?
 →XC2Vの開発をCSで達成。
  群が行うと10年かかるのが常だったが、CSでは半年でプロトタイプができた。
  総費用は63万ドル。従来の方法では10年以上の開発期間と数10億ドルの予算が掛かっていた。
 →オバマは「これからはオープンイノベーションを使わないといけない」といった。
・アメリカ政府はChallenge.govというCSサイトを出した。
 $1millionを超える案件を複数出している。
 2018年5月で837案件が募集中
 &1million+が39案件、最高報酬額はNIH(日本でいう厚労省)による2050万ドル
・Challenge.govは2019年1月7日はたった28案件。
 オバマ政権時代の30分の1以下。最高報酬額は262万ドル。
 トランプ政権がオープンイノベーションに消極的?

○クラウドソーシングによるオープンイノベーション企業の事例
・GOLDCORP社:世界2位の産金会社
 ・大量の金脈はあるがピンポイントの場所は不明であり、
  1ozの金価格は$300に対して、産出コストは$360だった。
  彼らの技術では掘るほど赤字。金脈はあるのに掘れない。
 ・CSで「鉱脈発見コンテスト」を開催。
  世界中の知恵を持ち寄って解決できないかと考えた(Linuxのように)
  優勝賞金は$10.5million。
  自社の鉱脈の情報を公開することは、業界の常識を覆すものであった。
 →50カ国から1400人以上から参加(個人・大学・企業)
  現地に赴かずGOLDCORP社が公開したデータベースだけを使用。
 →豪州のグラフィックソフト開発会社と鉱脈探索調査会社のタッグチーム。
  5位までの入賞者が提示した4ヵ所試し絞りすると全てが的中した
 →順位極めの力が素晴らしかった。
  オープンイノベーションには評価する力も必要。
  オープンイノベーションをやれば結果が出るということではない。
 →結果落としてレッドレイク鉱山の産出量は10倍に増え、
  1ozの算出コストは$360から$59へ現象。ボロ儲けの状態
  GOLDCORPは潰れかけの状態から世界2位まで上り詰めた。
 →分析手法そのものはコンペ参加者が保有。
  入賞者はヘッドハンティングや起業を行なった

○クラウドソーシングによるオープンイノベーション非高度人材の活用例
・オープンイノベーションは高度な人材でないとできない?
 →マイクロタスク型クラウドソーシングのコンセプト
・Human-based-computation(HBC)
 →パターン認識などの単純作業はコンピュータよりも人間が優れる。
  データの分析はコンピュータが得意
 →それぞれの得意領域で人間とコンピュータが協力するのがHBCの考え方。
・HBCはCSの出現によって実現可能になった。
 →HBCの研究のほとんどはCSを使って実証実験されている。
・マイクロタスクで行なった仕事の質が問題視されることもあるが、
 一般的に大きな問題となってない。(学術的な検証結果)
・医療関係の応用
 →数十億の脳神経の色分け。神経の色分けによって細胞のつながりが分かり
  医療研究が発展できる。
 →医療の専門家はただの色ぬりはやりたくない。
 →MITは色ぬりゲームとして設計。マウスの視神経細胞は解明されているため、
  色分けの正しさを判定し、点数化できる。
  マウスの視神経細胞の色付けを行うサイトをeyewire.orgを設立し、
  得点の高かった人をリクルート
・Dr. Luis von Ahn
 ・世界最高の頭脳50人に選ばれている
 ・CAPTCHAの考案者のリーダー格の1人
 ・CAPTCHAが毎日50万時間も使われている。
  これは無駄な時間だと捉えた。(無駄な時間を作ったのはお前だろ!)
 ・reCAPTCHAを開発し企業→Googleが買収
  電子化されていない書籍の文字情報をCAPTCHAで利用
  →これらの情報を電子化。
   Googleはタダで文書の電子化を行なっている(我々は使われている。)
  →Googleは毎年250万冊相当が無料で電子化されている
・日本企業のHBC(事例)
 ・人間オペレータの対応記録をDBに記録。
  対応を人力なのでコストがかかる、新人とベテランで対応品質が異なるなどの課題。
 →AIで解決できないか?
  大量のデータを教師データを作成しAIに食わせる。
 →教師データの量と質が課題。自動で作成した教師データを使うと過学習が起き、AIが劣化する。
  一方でExpertがデータクレンジングするには大量の時間がかかる
 →CSを利用してデータを「使える」「使えない」「分からない」に分類。
  同じデータを2人以上の合意が取れたらその分類として判定。
  「分からない」と判定されたもののみExpertに以来。
 →90%はマイクロタスクで対応可能。圧倒的にコストダウン実現
 →AIの精度向上につながった。

・マイクロタスクの活用パターン
 (1) 誰でも参加型
  例)看板屋、個店喫茶、天気情報
 (2) 育成型
  例) 視神経の色付け
 (3) 選別型
  例) Asteroid Grand Challenge。
   →世界中のCSで地球に来そうな隕石を24時間監視

○日本企業が直面している課題と直ぐに活用できるCSの応用
・日本企業(特に大企業)はセキュリティを含めた様々な理由でクラウドソーシングの活用に積極的でない。
 →競合他社がCSで1/5のコストかつ5倍のスピードで新商品開発してくるライバルにどう対抗する?
 →オープンイノベーションやっても評価能力の課題もある。
・社内クラウドソーシング
 →社内でCSサイトを立ち上げ、社内のみから募集。
  どこの誰と分からない人ではないので、使いやすい。
・三井住友海上火災の事例
 ・社内CS制度を昨年から実施
 ・育児休業中の女性社員に限定
 ・休業社員は復帰時のキャッチアップが難しいという課題があった。
 ・上司から任意で休職中の女性社員に50h/月限度でタスクとアサイン
 →休業中でも職場とコミュニケーションが取れ、復職率がUPした。
・コミュニティ型クラウドソーシング
 ・OB・OGやG会社も含めてCSを行う事例がある。
 ・某大手企業で人手不足の課題があった。
  水周りリフォームの事業部門で依頼後245以内に見積もりを出すことがポリシー。
  今までは正社員が残業して行なっていたが、限界に達していた。
  派遣社員は教育のコストが課題だった。
 →そこのOB・OGに声をかけた。彼らは業務を理解していて教育もいらない。
  あっという間に120人以上集まり、彼らは月5万円以上稼いでいる。
・ローカル・クラウドソーシング
 ・通常のCSとは異質、日本独自かもしれない。
 ・通常はテレワークが主流だが、ローカルCSは敢えてオンサイトで働くことが可能なworkerに依頼。
  発注者へ常駐して作業する。
 →「顔が見えない人に依頼しにくい」という懸念に答える
 →単価もローカル基準となる。世界にもっと安くできるworkerがいても
  ローカルにいないと対象外。
・ユニクロの柳井さんが店長の給料の話をした
 東京とインドの店長は業務は同じだけど給料は10倍以上。
 →ローカルCS
・ローリスクのトライアウト
 ・自社組織をそのままに保ちつつ、新規商品のトライアウトをCSのリソースで実現できる。
 →ソニーで実績有。
・自治体の仕事を出すことで、コスト削減と地域活性が同時に達成可能
 →徳島県でマイナンバーの登録作業をCSで実施。

○おわりに
・世界のCSは以下に取り組んでいる
 ①オープンイノベーション
  →新規商品開発や高度な問題解決などの仕事
 ②一般人ができる標準化した仕事
・国内では②の理由が拡大しつつある。①はほぼできていない。
・①と②の間の領域③が今後のターゲット
 →正社員の領域。最もworkerの数が多い仕事。
  ここをCSでやると正社員の雇用を食ってしまう。
  経営者がやめたいと思っても、競合がCSで生産性を上げたらやらざるを得ない。
  いつ起きてもおかしくはない。
・2039年以降の労働力構造
 ・シンギュラリティは?
  →10年では起きないが、20年後はわからない。
  →2039年はAI、外部CSが仕事の大半になり、
   正社員の仕事は1〜3割になる、かもしれない。
・イノベーションの使い分け
 ・オープン型とクローズ型がある
 ・日本企業はクローズが多く、企業内で行なっている
 ・海外はオープン型が主流。日本は勝てない。
  今後負ける産業がどんどん出てくるだろう。
  →日本もオープンイノベーションをやらざるを得ない
 ・海外では同じ課題を社内と社外で競争させる事例もある。
・発注を繰り返すことで発注から納品までのノウハウが蓄積する
 →発注の仕方、workerの選び方、・・・
・社内で個別に発注すると効率が悪いので、発注窓口を一元化
 発注窓口を受注事業としてビジネス化する
 →年内に現れるだろう。
・コストは最低でも50%オフ、スピードは2~3倍。
・Lancers、Crowdworksでプログラマー登録者は数万円
 Upworkは153万。
 →ITエンジニア系に特化したTopcoder.comに100万人+が登録
 →IT人材は国外に沢山いる。課題は英語でコミュニケーションできるか?

○まとめ
・クラウドソーシングは誰でも簡単にできる透明性の高い仕組みです。
 まずは試してみましょう。
・中には嘘や騙しがある程度存在しています。
 マイクロタスク型では国内20%、海外30%程度質の悪いworkerがいる
・発注を繰り返すことでCS利用のノウハウを貯める。
 良い実績が獲れば、次回は指名して発注が可能。

○QA
Q. workerは単価が低い問題があると思うが?
A. 確かにそういう問題は言われるが、長期的に見ればなくなる。
 案件をこなして高評価を受けたworkerは単価が圧倒的に上がる。
 日本はマイクロタスクが主流なのでこの効果が得られにくい

Q. 自分は20代なのでシンギュラリティ時代にはworker側になる可能性もあると思う。
 そのような時代に生き残るために必要なことは?
A. シンギュラリティ時代に残るのは一部の上級エンジニアと「CSを使う人」。
 ある例では普通のエンジニアがCSで世界のITエンジニアを束ねたら、上級エンジニアの生産性に優ってしまった。
 そのエンジニアは専門性がなくてもCSを使えば高度なアウトプットが出せる。
 そのようなCSを使う人(=マネージャー)として生き残るのも有力な選択肢

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