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NASAの歴史8:科学技術への貢献

前回までは、比較的NASAという組織や活動結果(有人・無人探査)と主な関係者に焦点を当ててきました。


今回は、NASAが貢献した科学技術の視点で触れてみたいと思います。
※タイトル画像Credit:パブリックドメイン(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hubble_01.jpg)

1960年代のアポロ計画に代表される有人探査は、率直に言って国家威信的要素が強かったです。
ただ、21世紀のISS(国際ステーション)になると、宇宙滞在期間が長くなって、宇宙空間で生活をする上での人体への影響など、より今後人類が宇宙へ進出するうえで貴重な研究になっています。

太陽系惑星を中心とした無人探査計画については、既に精密な映像を送ってより惑星科学の研究を推し進めたのは間違いありません。

今回はその中でも、NASAが主導した代表的な宇宙望遠鏡「COBE」「ハッブル」について紹介したいと思います。


COBEが裏付けたポストビッグバン理論


COBE(Cosmic Background Explorer)は、一言でいうと、宇宙初期に起こったとされるビッグバンの痕跡を探索するために打ち上げられたものです。

歴史を振り返ると、1940年代にジョージ・ガモフ氏がビッグバン宇宙論とその痕跡可能性を唱えました。
そして1965年に地上電波望遠鏡でたまたまその名残が見つかり、CMB(宇宙マイクロ波背景輻射)と名付けられます。

そこからビッグバン理論の支持が広がり、それをより高精度に解析しようという背景でNASAが1970年代から公募したのが宇宙望遠鏡COBE計画です。

実際にCOBEが打ち上げられたのは1989年になります。当初はスペースシャトルで打ち上げる予定でしたが、1986年のチャレンジャー号事故の影響もあって、別の米国産ロケット(デルタロケット)に変更となります。

COBEの観測によって、「宇宙創成期に微小なムラ」が発見されました。
実はビッグバン理論にもいくつか問題も指摘されており、その1つがあまりにもムラがなさすぎる(平坦性)というものでした。
それを解決するために、1981年ごろにビッグバン直前に指数関数的に膨張した「インフレーション理論」が提唱されました。
過去にもこの話題は触れたので、引用にとどめておきます。

COBEによって見つかったごくわずかなムラ(温度差にして10万分の1)を、このインフレーション理論がうまく説明できたため、今でもこれが定説に近い位置づけとなっています。
COBEは今の宇宙論を裏付ける貴重な望遠鏡の役割を担ったということです。


歴史上最大の成果を残したハッブル


元々は、1920年代に宇宙膨張の証拠を初めて見つけた天文学者の名前からとっています。

1980年代に、NASAは「グレートオブザバトリー計画」と呼ぶ様々な電磁波長(可視光以外にも、赤外線・X線・ガンマ線なども)で宇宙を多面的に解析しようという野心的な計画を始動します。

そのトップバッターが可視光を中心にしたハッブル宇宙望遠鏡で、1990年にスペースシャトル「ディスカバリー号」によって打ち上げられました。
実は今でも観測を続けており、大体地球軌道400kmを回っています。

実は直後に設計ミスが見つかり(要はピンボケ状態)、回収案もあったのですが、結論としては、スペースシャトルで宇宙飛行士を送って観測現場でそのまま修理するという荒業をやってのけます。
計5回にわたり、最もスペースシャトルとつながりを持った宇宙望遠鏡ともいえます。
ただ、運用を終了させてスペースシャトルで回収されるのが当初予定でしたが、予算の都合でキャンセルとなって今に至ります。

ハッブルがもたらした科学的な発見は類を待たないもので、特に有名なものは下記のとおりです。

1.太陽系外の恒星の周りに惑星が存在
2.銀河系を取巻く暗黒物質(ダークマター)の存在
3.宇宙の膨張速度が加速していると判明
4.多くの銀河の中心部にブラックホールが存在

完全に私の主観ですが、3が一番の衝撃でした。

名前の由来のとおり、宇宙が膨張していることは以前からわかってましたが、その膨らむ速さは「ハッブル定数」で定義されています。
ハッブル望遠鏡によってより正確な定数が計測され、なんとその値が増加していることが判明します。
この功績で、NASAをスポンサーとして実際の研究に携わったAdam Riess氏は2011年にノーベル物理学賞を受賞します。

宇宙進化の過程(大体今から67億年前)で、膨張速度がギアチェンジの如く早くなり、今でもそのメカニズムは分かっていません。
宇宙の最大ミステリーの1つです。

ハッブルは過去の宇宙望遠鏡の中でも最大の業績を残したといわれており、その後継が2021年末に打ち上げられた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」となります。

今後は、このジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がハッブルの重責を継ぐと思います。
ただ、近場のハッブルと異なり、地球から150万kmも離れた場所で観測を行っているので、不具合が生じたときに人類が修理に出向くのはもはや不可能です。
ぜひ不具合が起こらないことを祈って、今後の観測結果に期待しましょう。

ちなみに、この名前はNASA二代目長官からとっており、人類最大の偉業の1つアポロ計画を推進した功労者です。

次回はあらためて「アルテミス計画」についてふれたいとおもいます。

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