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考え方を、教えようーいいですか?ダメですか?で終わらせないインハウスロイヤーの仕事

「これやっていいですか?それともやっぱダメかしら?」

よく事業部からインハウスロイヤーに対して寄せられがちなYesかNoかを問うこのクローズド質問。こんな質問に、「いいです」とか「ダメです」で回答していないだろうか。

もちろんこれまで共に取り組んできた案件がついに稟議プロセスに乗る、その最終段階の時に「いいですか?ダメですか?」と聞かれているなら、きちんとYesかNoかで回答する必要がある(一緒に育ててきた案件なら多くの場合、Yesで答えることになるだろうが。なお、この場合のリスク分析などの判断プロセスについてはこちらをご参照いただきたい)。しかし、初めて共有される案件について、「いいですか?ダメですか?」のスタンスで事業部が臨んでくる場合、「いいです」又は「ダメです」に終始していては何も育たない。まず何より事業部との会話が育たない。そしてNoで終わるなら当然のことながら、案件がそこで終わってしまい進展が見られないことになる。つまり会社の事業が育たない。さらに、事業部がYes又はNoの根拠を理解できる機会を与えられることがないため、判断に至るまでに適用されているルールを学ぶ機会がなくなる。これは事業部が「なんかよくわかんないけどとにかく、法務部がいいって言えばいんだ」という姿勢を強め、「敢えて無茶な短期のデッドラインを示して法務部に問題を突きつけてOKさせる」など、明後日の方向の小手先のテクニックの行使といった無益なアプローチに事業部を駆り立てることにつながりかねない。

もとより外部の弁護士であれば、「いいですか?悪いですか?」の質問に対し、リーガルオピニオン作成という形で回答すればいい。もちろんそこには結論に至るまでに適用されるルールが示されるわけだが、外部の弁護士の場合、それを依頼者が理解しているかどうかよりも、自らのプロテクションやリーガルオピニオンとしての完成度が関心事項になる。そして何より、リーガルオピニオンを外部弁護士に依頼するような場合は、依頼者企業のそう滅多にない重要案件であることも多く、当該リーガルオピニオンさえ終わってしまえば、その後は当分依頼者とコミュニケーションが生じない場合も多い。もちろんそうでない場合もあるが、その場限りの関係であることも多い。

しかしインハウスロイヤーの場合、上記の通り「事業部にルールを理解してもらう」というステップがなければ、事業部人員や会社の事業が育たない。上記の通りそれが結局、事業部の法務部に対するアプローチを劣化させることにつながり、結局、インハウスロイヤーが損をするという悪循環が生まれてしまう。インハウスロイヤーが社内で同じ事業部と仕事をしていく以上、この悪循環を生じさせて自らの首を絞めるのは避けたい。

解決方法は簡単だ。「これやっていいですか?それともやっぱダメかしら?」と来たら、「そうねえ、まず考え方は●ですよ。●の要件を満たせるならいいけど、そうでないなら難しいと言うことになるかな。この場合はどうでしょう。ちょっと今申したルールに当てはめてみて、本件を説明していただくことできますか?」などと振ってみる。気の利いた人ならすぐ結論を導き出すこともあるかもしれないし、それを超えてさらに「あー、そうかじゃあ、今考えてるのはダメかもだけど、コレならどう?ちょっと今説明しますわ」なんて自分で解決に向けてクリエイティブなアイデアを出し始めるかもしれない。もちろんインハウスロイヤーが一緒に働くのはそんな人たちだけではない。ルールに当てはめて結論を導き出す、という法律的三段論法的なロジックが苦手な人もいるだろう。そんな場合は、規範を要件事実的に整理して、細分化して見せてあげることが有効だ。紙やホワイトボードなどに書いて見せてあげてもいいだろう。文字にすることで、彼らの頭も動き出すことがあるかもしれない。

このプロセスは、事業部とインハウスロイヤーを、「どうしたらできるか」を考える「共犯関係」におのずと導いていく。従前「いいです」又は「ダメです」に終始していたのを、「どうしたらできるか」を共に考えるクリエイティブな関係に変えていく。そんな「共犯関係」を、最前線でビジネスを知り尽くした人たちと一緒に作れるなんて、インハウスロイヤーの仕事も、なかなかどうして、素敵じゃあないですかね?

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