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守りの法務ー法務部を責任の転嫁先にさせないために

今回は社内で法務部に対する責任転嫁をさせないためにどうするかというお話。そのために筆者がしている取り組みをご紹介したい。

1  責任転嫁の現状ーTwitterで調査を実施した。

そもそも法務部に対する責任転嫁などという問題が実際に起きないのであれば、あるいはごく少数にとどまるというのであれば、単なる特殊事例対応として検討すれば事足りるのかもしれず、わざわざ大々的に筆者の責任転嫁防止策などを紹介する必要もないのかもしれない。そう考え、まず、Twitterで現状に関する調査を実施した。

なんと、筆者の予想に反して、回答があった45%の中で、「ある」が「ない」を大幅に上回った。

これはもともと、JTCや中小企業等に多くの人員がおられるからということも関係するかもしれず、ここからだけで何か読み取れるということではないかもしれない。次の質問に行ってみよう。

責任の押し付け元は、事業部が過半数を占めた。それ自体はあまり意外ではないという印象を持たれる方が多いかもしれないが、しかし、「コンプラなど隣接部門」が7%とは、法令遵守は大丈夫なのか。さらに驚いたのは次だ。

なんと、さすがにこれはゼロだろうと予測していた上2つの項目、責任を押し付けられた結果、「法務が懲戒手続対象となった」、というものと、「法務が異動・左遷された」という項目がそれぞれ3%と4%である。ということは、無実の罪で法務に対する懲戒手続や異動・左遷がなされたということなのか。具体的にどのような状況であったか明らかではないため完全な評価は難しい部分であるが、しかし、頼む、これは嘘であって欲しい。そしてさらに驚くのが次である。

なんと責任の押し付け元が「懲戒手続対象となった」という項目と「異動・左遷された」という項目はいずれも2%と法務における該当項目の数字よりも若干低い上、お咎めなし率が77%と、責任を押し付けられた側である法務の66%よりも高い。

もちろんこれはTwitterという限られた場での調査であり、これから全てを語ることなど到底できるものではないかもしれないが、しかし、心の叫びを禁じ得ない。こんなに弱いのか法務!法務は大丈夫なのか、大丈夫じゃないのか、どっちなんだい!パワー!!

2  筆者の責任転嫁防止策について

嘆いてばかりいても仕方がないので、筆者の責任転嫁防止策をご紹介したい。

①重要法令改正情報の頻繁な共有
企業によっては、一定分野はコンプラに専任担当者がいて、そこで法令改正対応を担当する場合があるかもしれない。しかしその場合であっても油断してはいけない。例えば今年2022年4月施行の改正個人情報保護法のような、特に対応が困難と思われる法令改正については情報を改正前からチェックし、経営会議その他の場で頻繁にアップデートを行ったり、イントラネットに情報を掲載するなどして注意喚起しておくことが重要だ。ここで重要なのは、情報を会社全体に流すようにすることであって、担当者本人や担当部署だけに情報を渡すというクローズドな情報のやり取りをすることを避けることである。クローズドなやり取りは、情報共有した証拠が残りにくいだけでなく、その中での一部の情報だけを取り出し歪曲するなどといった形での責任転嫁に利用されやすいからだ。

②明確な対応スコープの策定とコンセンサス
法務とコンプラといった隣接部門間では、法令改正においてどちらが何を担当するか明確でないこともありうる。十分に早期の段階で、どちらが何を担当するか明確にしておくことが必要だ。これは可能な限り早期に行うことが重要だ。特に、例えば今年2022年4月施行の改正個人情報保護法のような、特に対応が困難と思われる法令改正で、施行までに2年程度しかないような場合は、改正後すぐに、法務とコンプラとどちらが何を担当するのか握ることが必要だ。ここでも重要なのは、議論又は議論結果の報告を経営会議その他の他部署からも見える場所で行うことであり、情報を関係者間だけのクローズドにするのは絶対に禁忌である。また、個人情報やAMLなど、コンプラ内に専任担当が既にある場合でも、決して油断せず、あえて、部署間の責任範囲について明示で確認しておくことが重要である。しかし、そこまでしておいても、いざ締め切りギリギリでコンプラが自ら対応すると約束した部分について法務に救いを求めて飛び込んできた場合どうするかーここは筆者のアプローチとしては外部法律事務所を紹介してそちらに流すの一択である。そうでないとリスクが法務に取り込まれる結果になりかねない。

③記録を残す
いうまでもないが日常のアドバイスを含め業務全てについて記録を残すことが重要だ。筆者の場合、上司が海外オフィスの外国人であるため、英語のレポートを提出するとともに週1の電話会議での会話での説明を行なっている。筆者の場合ここでのレポートは、(a)案件ごとの体裁で、(b)項目としては、(1)案件サマリー、(2) 詳細な進捗アップデートの他、(3)人事評価上実績以外に重視される項目(例えば、協力やリーダーシップが人事評価上重視されるなら、具体的にどのように協力やリーダーシップを取ったかということについてのエピソードや関係当事者)を記載している。さらにそれらのエビデンスになるもの(メールや議事録、その他関係者と取り交わした文書、レビューを依頼された契約書等)を共有フォルダに保存し、フォルダへのリンクをレポートに埋め込んでいる。他部署からの責任転嫁防止だけなら上記(1)及び(2)そしてそれらのエビデンスだけでも十分だが、(3)も入れることで、上司からの恣意的な評価を抑止するという効果をも狙っているのである。なお、記録は常に最新の状態にしておくことが重要だ。過去のやり取りだけ都合よく切り取って、責任転嫁に利用される恐れもあるからだ。筆者の場合、この作業に半日使うこともあり、それだけこの記録作業を重視している。おそらく日本企業では、近くにいる上司に対して詳細なレポートを提出することはあまり一般的ではないのかもしれないが、このような記録を詳細に残し、上司と共有しておけば、他部署から責任転嫁されそうになった場合や、上司から恣意的な評価をされそうになった場合、あるいは、上司の「聞いてないよ」を防止するためのエビデンスとしても利用することができ、非常に有用である。

④戦いには上司を巻き込もう
言うまでもないが、責任転嫁されそうになった場合の戦いは、上司を巻き込んだ総力戦で臨もう。③の記録の共有が日常からできていれば、上司も戦いにおいて加勢しないわけにはいかないはずだ。

以上、責任転嫁事前抑止のための取り組みについて記載してみたが、他にも有益な取り組みがあれば、ぜひ読者の方からもご共有いただければ幸いである。

なお、実際に責任転嫁され、法務に対する懲戒手続や異動・左遷が行われた場合の対応など非常にシリアスかつセンシティブな部分や、そもそも法務に対する責任転嫁が企てられるような事態そのものを減らすための法務部自体のEmpowermentについては、それだけで非常に大きなテーマであるため、別途検討してみたい。



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